『あの子にも、光を照らしてくれるただ一人の人が現れてほしい』

それがお前の願いだった。
大丈夫。あの子にも現れた。あの子に光を照らしてくれる、ただ一人の男が。


あなたの幸せを願う



「しっかし、白哉ンちって家もデケェけど墓もデケェんだな」
「当たり前だろう!貴様、朽木家をなんだと思っている!」
「……………」

現世で任務についているルキアが、定例報告のため瀞霊廷に戻ってきた。いつもは一人だが、今回はもう一人一緒だ。
黒崎一護。かつて、命をかけてルキアを助けに来た男。私が唯一負けた男。
今回、現世の学校が休みということでやって来たらしい。私も非番でこれから出掛けようという時に二人がやって来た。
緋真の墓参りに行くと言うとルキアも一緒に行くと言い出し、結局三人で行くことになったのだが………
墓前だというのに騒がしい二人に、私は思わず溜息をついてしまった。

「お前たち。少しは静かにできないのか?」

私が静かに、しかし怒りをこめて言うと二人は言い争いをやめる。しばらくは大人しくしていたが、すぐに小声で喧嘩を始める。
私はまた溜息をついた。



屋敷に戻り、今日はこれで現世に戻ると言ったルキアたちを夕食くらいはどうかと私は誘ってみた。
二人とも私が誘ったことに驚愕していた。とくに黒埼一護は思いっきり口を開けて驚いていた。そんなに私が夕食に誘うのがおかしいか?
私が不機嫌そうにしたからだろうか、ルキアが慌てたように「では、お言葉に甘えて」と言ったので、三人で夕食をとることになった。
夕食中もルキアたちは何やら口喧嘩をしていたが、私は何も言わずに二人の様子を見ていた。というより、ルキアの様子を。
あのように幸せそうに笑うルキアの姿を初めてみたから。
そんな幸せそうなルキアの姿に、『彼女』の姿が重なった。緋真の姿が………。

「本当によろしいのですか、兄様?」
「構わぬ。もう遅いし、明日も現世の学校とやらは休みなのだろう?ゆっくりして行けばよい」

心配そうに尋ねてくるルキアに私は無表情で答える。
夕食後も三人で話していたせいか、かなり遅い時間になってしまった。こんな時間だから今日は泊まって明日帰ればいいと言ったのだが…。
ルキアは申し訳ないといった表情で断ろうとしている。

「遠慮せずともよい。ここはお前の家なのだから。今日は遅いし泊まっていきなさい」

私がそう言うと、黒崎一護は今度は目を瞠って驚いていた。反対にルキアは嬉しそうに笑って私に言った。

「ありがとうございます、兄様」

それを聞いて、私は無言で頷いた。



非番とはいえ仕事が溜まっていたので、私は部屋で書類に目を通していた。
持ち帰った書類全ての確認を終え、私は気分転換に外に出た。ふと、空を見上げる。今日は美しい満月の夜だった。

―――そういえば、二人でよく月を見ながら夜の散策をしていたな―――

そのまま私は庭に出て夜の散策をすることにした。
しばらく歩いていると、離れから誰かの話し声が聞こえてきた。今日、離れには黒崎一護が泊まっている。
きっとルキアも一緒だろうと思い、私はすぐにその場を立ち去ろうと思ったのだが、何となく目を向けてしまった。そこで観たものは………。


本当に幸せそうに、花が綻ぶように笑っているルキアと、そんなルキアを愛おしそうに見つめる黒崎一護の姿だった。


幸せそうな二人の姿に、思わず私も笑みを浮かべてしまった。
私は二人に気付かれないよう、静かに立ち去った。去りながら、遠い日のことを思い出す。幸せだったあの日のことを………。



「白哉様、今宵は美しい満月ですね」
「そうだな」

その日、久しぶりに早く帰宅した私は久しぶりに緋真と夜の散策を楽しんでいた。
先程から終始微笑み続けている緋真を私は訝しく思いながら見つめた。私の視線を感じたのか、緋真が不思議そうに聞いてきた。

「どうされました?白哉様。先程から私の顔をジッと見て」
「……いや。何故そんなに機嫌が良いのだろうと思ってな………」

私がそう言うと、緋真はほんの少し頬を赤く染めて微笑みながら言った。

「だって、こんなにゆっくり白哉様と過ごせるのは久しぶりだから嬉しくて……」
「緋真………」

確かにここのところ忙しくてなかなか二人でゆっくり過ごすことができなかった。きっと淋しい思いをしたのだろう。
そう思ったら何とも居た堪れない気持ちになって、私は思わず緋真を抱き寄せた。

「びゃ、白哉様!?」

いきなり抱き寄せられて驚いた緋真は、私の腕の中で体を捩る。そんな緋真を私はさらに抱きしめて言った。

「淋しい思いをさせていたようだな……。すまぬ」
「そんな………」

それまで焦ったように体を動かしていた緋真だったが、私の言葉を聞いて急に動くのを止め、ジッと私を見つめた。

「そんなことありません。だって、白哉様は時間があればどんなに短くても会いに来てくださいますもの。淋しくなんてありません」

ニッコリと笑う緋真。そんな緋真の気持ちが嬉しくて、私は緋真を抱く腕に力を籠める。
緋真は困ったような表情をしながらも私の胸に寄り添った。



「白哉様。本当に月が綺麗です」

しばらくして緋真が囁くように言った。
私は空を見上げて月を見る。ふと、昔言われたことを思い出して私は小さく笑った。

「白哉様?」

いきなり笑った私を不思議そうに見つめる緋真。私は月に目を向けたまま口を開いた。

「昔、私は月みたいだと言った男がいた」
「白哉様が、月………?」
「ああ。月のように冴え冴えとした冷たい男だと言われたな」

護廷十三隊に入った頃、四大貴族の出身というだけで妬まれ、言いがかりをつけられた。
その度に、二度と自分に関わってこないよう完膚なきまでに叩きのめしてきた。
ある日、自分より上の席官を倒した時に言われた。

『お前は月だ。冴え冴えとして冷たく光を放つ……。冷たい男だ』

私はその男に何も言わず一瞥するとその場を去った。言われたことに怒りは感じなかったし、自分でも冷たい男だと思っていたから。
席官クラスを倒したからか、その日以来誰も私に関わってくることはなかった。
その日から一人で過ごすことが多くなった。
言われた時のことを思い出して私はまた笑った。冷たい男と言われた自分が結婚しているのだから。
緋真がジッと私を見つめる。私は何事かと首を傾げた。すると緋真は少し眉を顰めて言った。

「誰がそんなことを仰ったかは存じませんが、白哉様は冷たくないし、月などではありませんわ」
「緋真?」

何を言っているのだと思い、私は緋真の顔を覗き込んだ。すると緋真は真剣な表情で言ってきた。

「白哉様はとてもお優しくて私の心をいつも温め、照らしてくれる太陽ですもの!」

緋真の言葉に私は心底驚いた。そんな風に言われたのは初めてだったから。

「私が太陽?」
「はい。白哉様は本当にお優しいもの。一緒にいるだけで心が温まります。それに……」

一度口を閉ざした後、緋真は囁くように言った。

「暗く淋しい場所にいた私の心に、白哉様は光を照らしてくれました」

嬉しかった。そんなこと今まで言われたことがなかったから。皆、私を避けていたから。貴族というだけで。
私がお前の太陽だというのなら、お前は私の太陽だ、緋真。こんな風に温かな気持ちで過ごせるのはお前だけだから。
私はまた緋真を抱きしめた。

「………あの子にも」
「何だ?」

あまりにも小さい声だったので私は聞き返した。しばらく逡巡した緋真だったが徐に口を開く。

「あの子にも、光を照らしてくれるただ一人の人が現れてほしい………」

言って緋真は俯く。
『あの子』とは、かつて緋真が捨てたという実の妹のことだろう。緋真は妹を捨てたことを今でも後悔している。
私は緋真の頭を撫でながら言った。

「きっと現れる。あの子を照らしてくれる存在が。そしていつかお前とも会える」

緋真は目に涙を浮かべて私を見つめた後、「そうですね」と言って微笑んだ。
そんな緋真に私も微笑み返した。



それから数年後に緋真は亡くなり、緋真の死の一年後に私はルキアを見つけ朽木家の養女に迎えた。
その後はいろいろあったが、今ではルキアともよく話すようになった。何より………。
ルキアにも現れた。彼女を照らしてくれる太陽のような存在が。

「緋真、あの子にも現れたよ。あの子を照らしてくれる存在が」

少し乱暴者だが、ルキアを大事に思う気持ちは誰にも負けない。命をかけて守ってくれる男だ。
だからもう心配しなくてもいい。あの子はきっと幸せになれる。あの頃の私たちのように………。



―――あの日と同じ美しい満月が、温かな光を照らしている―――







やっちまいましたよ、ワタクシ。イチルキ絡みの白緋。ほぼ白緋。
前から兄様は好きでした。緋真さんも。でも作品作りたいと思う程ではなく。
ところが、とあるイラストサイト様(イチルキにあらず)で白緋漫画を見て……
ツボだ!これ、私のツボCPだよ!!って思いました。
そう思ったら、頭の中で妄想が大爆走。気になっていた雨織が吹っ飛んじゃいました。
結婚してるくせに、初々しい関係の二人にバンザイです!!←壊れ気味
でも大本命はイチルキ。そしてここはイチルキloveサイトでございます。
なのでイチルキ絡みにしました。メインは兄様の追憶話ですが。
ウチの兄様はシスコンではありません。ルキアを妹として大事に思っています。
だから一護のことも認めていますよ。一護はいつでもルキアと結婚できますよ。
ただし、泣かしたら千本の桜の花びらの中で血を流さなくてはいけません、一護さん。



up 07.04.06

ブラウザでお戻りください