お前の姿が見えないだけで、俺はこんなにも不安になるんだ
僕をこんなに不安にさせるのは、世界で君一人だけ
「映画のチケットもらったからあげるよ」
「はい?」
いつものように、一護、茶度、水色、啓吾のメンバーで屋上で昼食をとっていると、突然水色が一護にチケットを差し出した。
「何だよ…コレ?」
「ん?この前街で会ったおねえさんとご飯食べた後にね、もらったんだ」
「何ぃぃ!?逆ナンじゃないかぁ!水色ーー!!」
一護の問いに爽やかに答える水色。横で聞いていた啓吾が騒いでいるのを無視して続ける。
「僕、それもう観たんだよね。だからあげる」
「ハイ」とさらに目の前に差し出されて、一護はコーヒー牛乳を飲みながら受け取った。そこである疑問が浮かぶ。
「でも何で俺なんだ?チャドだって、啓吾だっているのに………」
「え?だってチャドはこういうのに興味がなさそうだし、啓吾は一緒に行く相手がいないでしょ?その点、一護は一緒に行く相手がいるから」
「な!?なんてことを言うんだ!水色!!」
啓吾が再び水色に抗議するが、またしても鮮やかに無視される。
確かに、遊子とか夏梨とか一緒に行く相手がいるな〜と考えながら、一護がストローに口をつけた時。
「一護には朽木さんがいるからね」
「ブホッ………!!」
ニッコリと爽やかに言った水色の言葉に、一護は飲んでいたコーヒー牛乳で思いっきりむせた。
「な…何言ってんだよ!水色!!何で俺が朽木と………」
「えー?だって君たち付き合ってるんでしょ?一緒に住んでるし」
「付き合ってない!それに一緒に住んでるのは家庭の事情ってやつだ!!」
「そうだ!一護と朽木さんが付き合ってるわけないだろう!?」
むせながら抗議する一護に説得力ないよと言わんばかりに微笑む水色。またしても啓吾は無視されていた。
「そうそう。実はこのチケットもう一枚あってね、井上さんにあげたんだ」
「井上さんに!?」
水色の言葉に啓吾がいち早く反応する。しかし。
「井上さん、石田を誘ってたよ。あの二人、やっぱりそういう仲だったんだね」
「何ぃぃぃ!?」
叫ぶ啓吾を見て楽しそうに笑う水色。しかし、一護はそんな二人を見る余裕はなかった。
「結局こうなるのか………」
「どうした一護?」
一護はチケットを眺めながらボソリと呟いた。すると、隣でポップコーンを食べていたルキアがどうしたのだと覗き込んできた。
あの日。家に帰り、遊子や夏梨にチケットもらったから二人で映画に行ってこいと言うと、その日は二人とも約束があると断られた。むしろ逆に。
「ルキアちゃんと行ってくれば?」
「たまにはデートとかしておいでよ、この甲斐性なし」
と、妹たちからもルキアと一緒に行くことを進められてしまった。
それを聞いていた一心が、「なら父さんと行くか〜?」と聞いてきたが、一護は思いっきり無視をした。
結局家族から押し切られて、一護はルキアと映画に行くことになった。
「お前…さっきからずっとポップコーン食いやがって」
「ん?うまいぞ、キャラメルポップコーン。貴様も食べるか?」
「ホレ」とポップコーンを差し出すルキア。一護は眉間に皺を寄せながら、ポップコーンを口に入れた。
(せっかくのデートだってのに、なんて色気がねぇんだ。コイツは!)
一護はほんの少しルキアを睨みつけたが、ルキアはそれに気付かずポップコーンを食べ続けていた。
一応、一護とルキアはお互いの気持ちを伝え合って付き合ってはいるが、同居しているということもあり、秘密にしていた。
知っているのは黒崎家の面々と石田、織姫、チャド。それに浦原商店の人々に死神たち。
要は現世の人には言ってなかった。
せっかく堂々とデートができるのに、そんな気配を微塵も見せないルキアに一護はイライラした。
「お?一護。そろそろ始まるようだぞ」
「おー………」
ぞろぞろと館内に入っていく人を見て、ルキアが一護の服を引っ張る。一護はそれにやる気のない返事をした。
(しかし。ホラー映画って面白くないよな………)
映画を観ながら一護は大きな欠伸をした。
正直、ホラー映画など全然怖くない。むしろ、毎日見ている虚の方がホラーだよな…と一護は思った。
周りでは、化物に驚いた女たちが悲鳴をあげたり、一緒に来ている恋人にしがみついている。それを一護は冷めた目で見つめた。
どう考えても、隣にいるルキアがコレを観て怖がったりすることはない。自分と一緒で虚が見えるのだから…そんな風に一護が思っていた時。
突然ギュっと服を握られ、一護は思わずそちらに目を向けた。
するとルキアが蒼ざめた顔をして一護の服を握っている。よくよく見ると、目に涙が溜まっている。
(コイツ…まさかコレが怖いのか?)
本物の化物は容赦なく倒すくせに、偽物の化物を怖がるなんて…と一護は思ったが、めったに見られないルキアの可愛い姿に思わず口元が緩んだ。
そしてルキアを安心させるために手を握った。
ルキアは一瞬驚いて一護を見たが、すぐにギュッと一護の手を握り返した。
「お前があんな作り物を怖がるとは思わなかったな」
映画館を出て、一護はルキアに言った。ルキアは未だに目に涙を浮かべながら、一護をギッと睨んだ。
「だって!気持ち悪い作りをしているし、いきなり背後から出てくるし…驚くではないか!!」
ルキアはそう言って一護に抗議したが、虚だって変な作りだし、いきなり背後から出てくるのもいるぞと一護は思った。それを口に出せば怒られるので何も言わなかったが。
「わかった、わかった。とりあえずなんか飲み物買ってくるからココで待ってろ」
一護が言うと、ルキアはコクンと頷いた。それを見て一護は飲み物を買いに行った。
一護が行ったので、ルキアは涙を拭こうとバッグの中からハンカチをとろうとした時だった。
「ねぇ?」
声をかけられてルキアが振り返ると、二人組の男が立っていた。
「あれ?」
飲み物を買ってきた一護は、待ってろといった場所にルキアがいないことに気付いた。
辺りを見渡してみるが、どこにもルキアの姿は見えない。ウロウロと歩いてみたが、やはりルキアはいなかった。
「どこに行ったんだ…アイツ!!」
一護はだんだん焦ってきた。迷子ならまだいいが、もし変なヤツに絡まれてたら……と。
そんな時だった。
「黒崎くん!」
映画館を出てすぐ、聞き覚えのある声に呼ばれて一護は振り返る。
そこには一護に向かって手を振っている織姫と眼鏡のブリッジをあげて一護を見る石田。そして―――
困惑したような表情でこちらを見ているルキアがいた。
一護は急いで三人の元に駆け寄り、ルキアに向かって叫んだ。
「俺はあそこで待ってろって言っただろ!?何で勝手にいなくなってるんだ!?探したじゃねぇか!!」
一護の叫びにルキアはビクンと体を跳ね上げる。そこに静かな声が割って入った。
「黒崎…朽木さんの話も聞かないで怒るのはどうかと思うが」
石田が静かに一護を見つめていた。なんだ?と首を傾げる一護に、石田は大きな溜息をついて言った。
「君が飲み物を買いにいっている間に、朽木さんに声をかけている連中がいたんだ。たまたま僕たちが見つけて声をかけたから良かったものの」
「え…?」
一護はルキアを見る。するとルキアは困ったように笑った。ルキアの表情で本当のことだったんだと一護は思った。
「悪りぃ…ルキア。いきなり怒ったりして。石田と井上も…助けてくれてありがとな」
頭を下げて謝る一護。石田はそんな一護に驚いていたが、織姫は「気にしないで〜」と笑っていた。
「じゃあ僕たちはここで」
「またね、黒崎くん!朽木さん!!」
駅まで一緒に帰った四人は、ここで別れることになった。
去っていく二人にルキアは「ああ」と言って手を振る。その横で一護も片手を軽く上げた。
「では、私たちも帰るか?」
「ああ………」
ルキアが尋ねると、一護はいつもより覇気のない声で答えた。
(こやつ…先程のことを気にしておるのか………?)
ルキアはチラリと一護を盗み見た。先程から言葉数も少なく、眉間の皺がいつも以上に寄せられていた。
意外と落ち込みやすいというか、なんというか…と思いながら、ルキアは一護の手をそっと握った。握られた一護は目を瞠ってルキアを見る。
「先程のことは気にするな。私はなんともなかったのだし」
「でも、理由も聞かないで怒鳴ったりして………」
「誰だって、いきなり一緒にいたものが何も言わずにいなくなったら驚く。私だって、貴様と同じ立場だったら怒っていると思う」
「だけど………」
「気にするなといっておるだろう。それに貴様が怒鳴ったのは私が心配だったからだろう?そう思ったら、私は嬉しかったぞ」
落ち込む一護にそう言って微笑みかけるルキア。一護は胸が熱くなって、ルキアの手を強く握り返した。
「あのさ………」
しばらく二人で手をつないで歩いていると、一護が徐に口を開いた。
「どうした?」
ルキアは首を傾げて一護を見る。一護は照れくさそうにしながらルキアに言った。
「俺…お前の姿が見えなくなっただけで不安になるんだ。だから、いきなりいなくなるなよ」
一護の言葉を聞いてルキアは驚いたが、すぐにコクンと頷いた。クスクスと笑いながら。
「貴様がこんなに淋しがりやとは思わなかったよ、一護」
ルキアは楽しそうに笑う。一護は眉間に皺を寄せてその様子を見ていたが、ふいにルキアの耳元に口を寄せた。
なんだ?と思うルキアに一護が囁きかける。それを聞いて、ルキアは顔を真っ赤にした。
「俺をこんなに不安にさせるのは、世界でお前一人だけだよ」
Thanks 20000hit!!
20000hit記念作品第二弾・イチルキSSでございます。
こちらはリョ桜と違ってやり直すことなく一発でできましたvv
映画館でデート話です♪何故映画館かというと、私が映画をみたいと思ったからです(笑)
ちなみにホラーではなく、眼鏡魔法使いの映画です。
一護たちがみた映画が何故ホラーかというと、ルキアを怖がらせたかっただけです。
それに、この二人に恋愛映画は似合わないような気がして………(苦笑)
とりあえず、今回のお話を一言でいうと
へタレ一護のお話ですvv←コラコラ
今回はリョ桜と違って長めなので、おまけはありません。
20000hit記念ということで、この作品はフリーです。
どんどん持ち帰っちゃってくださいvv
文章を変えないでくだされば、どんな風に弄ってもかまいません。
ただし、サイト掲載時にはワタクシのサイト名を小さくてもよいので書いてください。
サイト掲載の報告は自己の判断にお任せしますが、報告していただければ泣いて喜びます!!
フリー期間終了しました
最後に。こんな更新の遅い辺境サイトに通ってくださりありがとうございます!!
up 07.07.29
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