その微笑に私は囚われた。
わが運命は君の掌中にあり
緋真の部屋を訪れた白哉は、其処に居る筈の部屋の主が居ないことに、微かにだが首を傾げた。
二、三日前から風邪を引いて緋真は寝込んでいた。今日、漸く熱も下がったと仕事を終えた白哉に侍女が教えてくれた。だから白哉はそのまま緋真の部屋に向かった。
「緋真様!?」とオロオロする侍女を見て溜息をつくと、白哉は庭に向かった。
「きっと庭にいるのだろう」
白哉は呟いた。庭を散策するために置いてある草履。常に自分の隣に置いてある緋真の分がない。緋真を探すため、白哉は自分の草履を履いた。
暫く庭を歩いていた白哉は緋真を見つけた。其処は椿が咲き乱れていて、緋真はそれを眺めていた。
「何をしているのだ?」
「きゃっ…!」
白哉は驚かすつもりはなかったのだが、背後から声をかけられた緋真は声を上げて驚いた。目を大きく見開いて振り返る。
悪いことをしたと思ったが、振り返った緋真が白哉を見た瞬間に嬉しそうに微笑むのを見て、知らず胸が高鳴った。
「白哉様…吃驚しました」
「すまない。だが、お前は此処で何をしているのだ、緋真?」
少し頬を膨らませて睨みつけてくる緋真に苦笑しながら、此処に居る理由を尋ねる白哉。
すると緋真が持っていた鋏をほんの少し持ち上げて、椿の方を見ながら言った。
「熱も下がりましたし、白哉様が帰ってくると聞いたので、お部屋に椿を活けようとと思ったのです」
「それは嬉しいが、熱が下がったばかりとはいえ無理をすれば、更に悪化させることになる」
窘めるように白哉が言うと、緋真は「もう大丈夫ですのに…」とまた頬を膨らませる。
そんな緋真を可愛らしく思いながら、白哉は近くにあった椿に手をかけた。
「ところで、何故鋏を持ったまま立ち尽くしていたのだ?」
「え?」
「綺麗な形の椿を探していたのか?」
「ああ!実はですね」
最初は意味がわからず首を傾げていた緋真だったが、白哉の質問を理解した途端、困ったように笑った。
「それもなんですけど、どの色がいいかと迷ってしまって」
「色?」
「はい。椿の色です。白と赤、どちらがいいかと迷っていたのです」
白哉はざっと周りを見渡す。其処は、白と赤の椿が庭を埋め尽くしていた。
「どちらでもよいではないか」
「そうなんですけど…どちらも綺麗で」
「じゃあ両方摘めばよいではないか」
「活けるのでしたら、同じ色の方が良いと思います」
珍しく強気な発言をする緋真に驚きながら、白哉はふと思い出す。
「椿の花言葉は『高潔な理性』」
ほとんど呟くように言ったのだが、緋真はそれをちゃんと聞きとめていた。
「そうなのですか?私は『慎み深い』と聞いていました」
「一つの花にいろいろな花言葉があると言うからな。それも椿の花言葉の一つなのだろう」
「そうなんですね」
「椿は色によっても意味が変わるからな」
「まぁ!」
白哉の言葉に、緋真は目を輝かせる。もっと知りたいという気持ちが伝わってきて、白哉は思わず微笑んだ。
「白の椿は『ひかえめな愛』だったか」
そう言ってふと、緋真の自分への愛がそのような感じだと白哉は思った。
「では赤は何ですか?」
「赤は………」
そこで白哉は口を閉ざした。それを不思議そうに見つめる緋真。
白哉は緋真に目を向けると、うっすらと微笑んだ。
「赤の椿の花言葉は…自分で調べてみればいい」
「教えてくれないのですか?」
「知りたかったら、調べてみるのだな」
「………白哉様の意地悪」
本日何度目かわからない、緋真の腹を立てた表情。それが白哉には愛しくて堪らなかった。
白哉は緋真の頬に手を添えると、そっと囁いた。
「取り敢えず、そなたの部屋には白の椿。私の部屋には赤の椿を活ければいい」
「何故ですか?」
不思議そうに尋ねる緋真。その瞳をしっかりと見つめて白哉は言った。
「赤の椿の花言葉は…まさに私のことだと思うからだ」
その後、不思議そうに白と赤の椿を摘んだ緋真は、それぞれの花を綺麗に活けて部屋に飾った。
病み上がりなのだから、今日は早く寝るようにと白哉に言われ、緋真はすぐに床についた。
しかし、ここ数日ずっと眠っていたので、なかなか寝入ることができない。緋真は床に入ったまま首だけを昼間活けた椿の方に向けた。
「赤の椿の花言葉って何なのかしら?」
明日、屋敷の書庫に行って調べてみよう。そのためには、起きても怒られないように元気にならなくては。
そんなことを思いながら、緋真は目を閉じた。
緋真が活けた赤い椿の花を白哉はじっと見つめる。
椿の花言葉は隊花ということで知っていたが、色によって違うのは、昔誰かに教えてもらったからだった。それが誰かはもう思い出せないが。
「赤い椿の花言葉は『わが運命は君の掌中にあり』」
まさにその通りだと思った。自分の運命は緋真の手の中にあると。
初めて出逢った時、彼女の微笑みに自分は囚われたと。
「でも、それが幸せでたまらない」
緋真が微笑み、話しかけ、側に居てくれるだけで幸せを感じる。
緋真が苦しみ、悲しんでいると自分も悲しくなる。
今の自分は、緋真を中心に回っているのだ。まさに彼女が自分の運命を握っていると言っても過言ではないのだ。
「緋真は赤い椿の花言葉を知ってどう思うだろうか?」
とんでもないと言って、両手を振って否定するだろうか?それとも顔を真っ赤に染めて照れるのだろうか?
早く緋真の反応が見たい。
そんなことを思いながら、白哉は赤い椿の花に向かって微笑んだ。
兄様お誕生日おめでとうございます!!!
と言っても、全然お誕生日な話ではないのですが(´V`)
ずっと書き続けていたネタをお誕生日ということで纏めてみました。
何かで花言葉のサイトを見ていた時に知った椿の花言葉。
その中でも赤の椿の『わが運命は君の掌中にあり』は見た瞬間、萌えー!!と思いました。
そして次に「コレは白緋だな!」って思いましたww
やっと書き上げることができて良かったです\(´∀`)/
白緋に関しては、まだ纏めあがってない駄文が二つあったりします(苦笑)
それらも早くUPしたいな〜と思ってはいますが、とりあえず、リクと企画が先です。
up 09.02.01
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