初めて誰かに誕生日を祝ってもらうことを嬉しいと思った。
あの日のことは、今でも忘れない。


ずっと一緒に…



「お誕生日おめでとう!お兄ちゃん!!」

朝起きてダイニングに入った途端、遊子が大きな声で俺に向かって言った。

「………え?」

俺は目をパチパチさせて遊子を見た。すると遊子は呆れたように手を腰にあてて、溜息をつきながら言った。
 
「もう!今日はお兄ちゃんの誕生日でしょ!忘れちゃったの?」
「あ…そういえば」
「何?一兄、自分の誕生日忘れてたの?」

そこへ、遊子と同じように呆れた顔をして夏梨がやってきた。

「一兄らしいというか、なんというか………とりあえず、誕生日おめでとう」
「サンキュ。遊子、夏梨」

俺は二人に礼を言った。すると二人は嬉しそうに「どういたしまして」と笑いながら言った。

「それにしても、自分の誕生日を忘れるなんて………」
「ホント、ホント」

再び、俺が誕生日を忘れていたことを信じられないと話し始める妹たち。そんな妹たちの会話をボンヤリと聞きながら、俺は一年前のことを思いだしていた。

―――初めてルキアに誕生日を祝ってもらった日のことを。





「一護ーー!!誕生日おめでとう☆」
「誕生日おめでとう、一護」
「ム………」

登校途中で会った啓吾たちからいきなり祝いの言葉を言われて、俺は一瞬呆気にとられた。すると水色がどうしたんだと言わんばかりに俺の顔を覗き込んだ。

「どうしたの?一護。ボーっとしちゃって」
「あ…いや…サンキュ。てか、お前らなんで俺の誕生日を知ってるんだ?」
「それは、有沢と井上さんが話していたのを聞いたからでーす!!」
「つまり啓吾が盗み聞きして知ったってこと。女の子の話を盗み聞きするなんて、最低だよねvv」
「えぇっ!?水色!何てことを言うんだ!!」
「お祝いに、今日は売店で何か買ってあげるよ」
「聞けよ!水色!!」

喚き散らす啓吾を無視する水色。そんな二人を呆れて見ていた時だった。

「黒崎君、今日がお誕生日なんですの?」

声がした方に目を向けると、目を見開いて驚いているルキアがいた。ルキアを見た瞬間、それまで落ち込んでいた啓吾が嬉しそうに立ち上がってルキアに近付いた。

「おはようございます!朽木さん!!今日もお美しいですね!!!」
「え…?あ…おはようございます、浅野君」

ルキアがニッコリと笑って答えると、啓吾は「笑顔が素敵ですーーー!!」と叫んでいた。そんな啓吾を俺たちは馬鹿馬鹿しいと溜息をつき、ルキアは頬を引き攣らせながら見つめていた。
その日はいろいろなヤツから「おめでとう」と言われた。
教室に着くなり、井上に「おめでとう!」と言われ、ついでとばかりに、たつきが「おめでとう」と言ってきた。それを聞いたクラスメイトたちが次々に「おめでとう」と言ってくる。
こんなにいろんなヤツから祝われるのは初めてで、俺はくすぐったく思いながら「サンキュ」と答えた。
しかし………
ルキアから「誕生日おめでとう」という言葉を聞くことはなかった。



俺の誕生日ということもあり、その日の夕飯はご馳走だった。しかし俺は、何か気持ちがスッキリしないまま夕飯を食べた。
周りで親父たちがワーワー叫んでいたが、それすら耳に入らなかった。
何故だかわからない。ただ、ルキアのことが気になって仕方がなかった。でも、何故ルキアのことが気になるのかが自分でもわからない。

「部屋に戻る」

そう言って、俺は遊子が用意してくれたチョコレートケーキを持って立ち上がった。

「えー?もうお部屋に行っちゃうの?」
「……課題があるんだよ」

部屋に行くと言った俺に、遊子が残念そうに見つめてくる。俺は課題があると誤魔化して、そのまま部屋に行こうとした。

「お兄ちゃん!」

突然、遊子が俺を呼び止めた。振り返った俺に遊子はニッコリ微笑むと「ハイ」とケーキをのせた皿を俺に差し出した。
ケーキなら持ってるのに…と俺が首を傾げていると、遊子は俺の空いてる方の手にケーキの皿を持たせて、笑いながら言った。

「お勉強大変そうだから、もう一個あげるね」

勉強するって言ったのは嘘なのに、それを信じて心配してくれる遊子に申し訳なく思いながら「サンキュ」と言って俺はケーキを受け取った。
ケーキを持って部屋に入ると電気はついておらず、そこには誰もいなかった。いつもムダにうるさいコンですら。
チラリと時計を見ると、時刻は九時を過ぎていた。

「…ったく、こんな遅くまでアイツは何してんだ!?」

思わず俺は呟いた。
ある日突然現れて、俺の部屋の押入れに勝手に住みつくようになったルキア。最初の頃はいつも、早く死神の世界に帰ってくれと思っていた。
でも、ルキアと一緒に過ごすことがだんだん当たり前のことになってきて………気がつけば、側にルキアがいないことに不安を感じる自分がいた。
今もルキアが帰ってこないことに、かなりイライラしている。そんな自分が嫌だった。

「………っっ!」

俺はルキアを探しに行こうと立ち上がった。何かしていなければ、このイライラは治まらないような気がして。そして何より………
最近、元気のないルキアが気になって―――

その時。

―――コンコン

窓を叩く音がして、俺は急いでカーテンを開けた。そこには満面の笑顔で窓が開くのを待っているルキアがいた。
俺は乱暴に窓を開け、ルキアの腕を引っ張って部屋の中に入れた。いきなり引っ張られて驚くルキアをギッと睨んで叫んだ。

「こんな遅くまで何してたんだよ!心配したじゃねぇか!!」

そう叫んですぐ、俺は後悔した。
ルキアが大きな目に涙を浮かべて震えていたから。

「わ…悪りぃ!遅くなった理由も聞かないで勝手に怒って………ゴメン!!」

俺は焦ってしまって、なかなか気のきいた言葉が出てこない。あーだのうーだのと唸る俺。
そんな俺をしばらくジッと見ていたルキアが、突然クスクスと笑い出した。

「な…なんだよ?」
「ふふ…すまない…」

すまないと言いながらも、未だに笑い続けるルキア。俺はそんなルキアを眉間に皺を寄せて見つめた。
するとルキアは目元を押さえながら、俺に向かって微笑んだ。

「そんな顔をするな。せっかくの誕生日が台無しになってしまうぞ」

俺は思わず目を瞠った。ルキアの口から『誕生日』という言葉が出てくるなんて思ってもいなかったから。
驚く俺に、ルキアは自分の鞄の中をゴソゴソとあさり、紙袋を俺に差し出した。

「ホレ、一護。私からの誕生日プレゼントだ」
「………え?」

俺は差し出された紙袋を呆然と受け取った。するとルキアが「早く開けてみろ」と言う。俺は急いで紙袋を開けた。
中には、オレンジ色のガラス細工のストラップが入っていた。

「コレ………」
「綺麗だろう?実はなかなかプレゼントが決まらなくてな。いろんな店を廻っていて遅くなったのだ。心配かけてすまなかった」

俯くルキアに俺はブンブンと手を振った。

「いや!俺もちゃんとお前の話も聞かないで勝手に怒鳴って悪かった…俺のプレゼントを選んでくれてたんだな。………ありがとう」

俺が感謝すると、ルキアは嬉しそうに微笑んだ。だから俺も思わず微笑み返した。

「これを見た瞬間、貴様のことを思いだした」

突然話し出したルキア。俺はルキアをジッと見た。

「貴様の髪と同じ色だからな。だから気になってずっと見ていたのだ。そしたら店員がやってきてな」

俺は何も言わず、そのままルキアの話を聞いた。

「これは願い事が叶うストラップなんですよ、と言われて………だから買ったのだ」
「願い事?」

俺が尋ねると、ルキアはほんのり頬を赤く染めて頷いた。

「ああ…どうしても叶えたい願いがあってな」
「何だよ?その叶えたい願いって?」

再び俺が尋ねると、ルキアは困ったような顔をして俺をジッと見つめる。口を開く気配もない。

「俺がプレゼントで貰ったんだぞ。俺にはその願いを聞く権利があるんじゃねぇのか?」

俺がそう言うと、ルキアは顔を真っ赤にして俯く。しばらくして、ルキアは躊躇いがちに口を開いた。

「一護がこれからもずっと…幸せに暮らしていけますように………だ」

そう言って、ルキアは俺から目をそらした。俺は正直、ルキアが目をそらしてくれて良かったと思った。なぜなら………
ルキアの言葉が嬉しくて、顔が真っ赤になったところを見られずにすんだから。

「あ…その……ありがとな」
「いや…」

お互い顔を真っ赤にして、俺たちは俯いた。
その時、机の上に置いてあったチョコレートケーキが目に入った。

「そうだ。遊子に誕生日ケーキ貰ってたんだ。食うか?」

俺がケーキを指さすと、ルキアはそちらに目を向けて「ああ」と頷いた。
二人でケーキを食べていると、突然ルキアが「あ」と呟いた。
どうしたんだと俺がルキアに目を向けると、ルキアは花が綻んだように微笑みながら言った。

「誕生日おめでとう。一護。遅くなってすまない」

俺は顔が赤くなるのを感じながら、コクンと一つ頷いた。



幸せだと思った。
誰からの祝いの言葉よりも、ルキアから言われた言葉が一番嬉しかった。
願い事などしなくても、十分自分は幸せだ。ルキアが側にいてくれるだけで幸せだ…そう思った。
でも、その幸せは長くは続かなくて………



数日後、ルキアは捕えに来たという白哉と恋次によってソウル・ソサエティに連れて行かれた。―――俺を庇って。
 




「…ちゃん………お兄ちゃん!!」
「………へ?」

耳元で呼ばれて、俺は声がした方を向いた。すると、遊子が心配そうに俺を見つめていた。

「大丈夫?お兄ちゃん?ボーっとして……熱でもあるの?」
「いや…大丈夫だ。ちょっと考え事してただけだから」
「ホントに大丈夫?一兄?」

夏梨まで心配そうに俺を見る。俺はニッと笑って誤魔化した。その時だった。

「あ!おはようvv」

遊子がリビングの入り口に向かって言った。俺がそちらへ目を向ける前に、心地よい声が俺の耳に届いた。

「おはよう、遊子」

振り返ると、そこにはルキアが立っていた。

「おはよう、ルキ姉」
「夏梨もおはよう」

ルキアは夏梨にも挨拶をする。そして遊子や夏梨の頭を愛おしそうに撫でた。そして俺の方を向き、満面の笑みを湛えて言った。

「誕生日おめでとう。一護」
「ありがとう………ルキア」

俺もまた、ルキアに微笑み返した。



あの日、ルキアを連れて行かれてから、俺はルキアを取り戻すためにソウル・ソサエティまで行った。
自分も仲間も死にそうになりながら、やっと助けることができたルキアは、ソウル・ソサエティに残ることを決めた。
本当は一緒に現世に帰りたかった。でも、アイツが決めたことだからと諦めた。諦めるしかなかった。
アイツがここに残って幸せだと思えるのなら、俺も幸せだと言い聞かせて。
その後、新たな戦いに巻き込まれ、自分の中の力に恐れ戦いていた時に、ルキアが戻ってきた。
アイツに思いっきり蹴られ、殴り飛ばされ、叱咤されて………それで自分自身を取り戻した時に思った。

―――やっぱり俺にはコイツが必要だと―――

破面たちとの戦いが終わった後も、ルキアは現世に残っている。それは俺が浮竹さんたちに頼んだから。ルキアを現世に残してくれ…と。
代わりに今までどおり虚退治をするという約束で。
いつまで一緒に過ごせるかわからない。でも、一緒に過ごせる時間を大切にしたい。
誰かがまた、ルキアを連れて行くのなら、必ず追いかけて奪い返してみせる。だって俺は、もうルキア無しでは生きていけない。だから―――



これからもずっと一緒にいよう。







Happy Birthday To Ichigo!!

なんですが、祝う気あるのか…というくらい切なくいってる今回のB・D話。
祝ってますよ、勿論!だって、ちゃんとルキアは現世にいるから。離れ離れのままではないッス!!
私のモットー(?)は必ずハッピーエンドにするですから(笑)
しかし現在、ワタクシの頭の中は切ないネタ祭り状態です。何故か。

内容に関して言うと、以前書いた流れ星話に似てるかな…(大汗)
願い事ってところが。もうその辺は目を瞑ってください………
それにしても、ウチの一護はへタレだ。もっと強い一護が書きたいです。でも書けない。

一日早いですが、明日は忙しいので本日up!!
お誕生日おめでとう!一護☆



up 07.07.14

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