―――生まれてきてくれてありがとう―――




心から、ありがとうを



朽木ルキアはその日、大変困っていた。
理由はただ一つ。今日が、大切な仲間であり以前から想いを寄せ、最近ようやく付き合うようになった黒崎一護の誕生日で、何をプレゼントすればいいのか迷っているのだ。
去年は知り合ったばかりで、当日に、それも家族が祝っているのを聞いて初めて知ったため、「おめでとう」しか言えなかった。
だけど今年は違う。知り合って一年以上経つし、何より自分たちは恋人同士。一護が心から喜んでくれるような何かを贈りたい。そう思うのだが。

「何を贈っていいのかわからないのだ」
「………………」
「チョコも考えたがなんだかバレンタインのようだし、服とかは趣味があるだろうし。お菓子の類は遊子が作ると言ってたし。全くもって思い浮かばぬ」
「………あの…朽木さん」
「何だ?」
「何でそんな相談を僕にするのかな?」
「ん?ああ、男に贈るものだからな。男の意見を聞こうと思って貴様に相談してるのだ、石田」

困惑気味に尋ねてきた石田に、ルキアは真剣な表情でそう答えた。
石田は溜息をつくと、眼鏡のブリッジを軽く上にあげながら言った。

「悪いけど、僕には黒崎の欲しいものなんて見当もつかないよ」
「何故だ!?同じ男だというのに!!」
「男同士だからって趣味が一緒とは限らないと思うんだけど」
「そ…そうだが…!」

わからないとあっさり言われルキアはくって掛かったが、逆に石田に正論を言われて口篭ってしまう。
困った…とルキアは呻いた。同じ男なら欲しいものが一致していると思っていたのにと、両手で頭を押さえる。
こんなことなら石田ではなく、一護と付き合いの長いチャドにすれば良かったか。それとも浅野や小島………とルキアは考えるが、直ぐにいや……と頭を振る。

(きっとチャドは何でもいいと言うはず。浅野は話が纏まらないような気がするし、小島にいたっては何やら恐ろしいことを言われそうな………)

そんなことを考えていると、再び呆れたような溜息をついて、石田が口を開いた。

「朽木さん」
「何だ?」

呼ばれてルキアは石田を見る。すると石田は窓の外を眺めながらこう言った。

「心がこもっていれば……どんな贈り物でも嬉しいと思うよ」



黒崎一護は現在、大変困っている。
理由はただ一つ。先程から同居人で大切な仲間でもあり、最近ようやく付き合うようになった朽木ルキアが、自分の横で難しい顔をしたまま黙って座っているからだ。
今日、自分は彼女を怒らせるようなことをしただろうかと考えるが、特に怒らせるようなことはしていない。むしろ、今日は自分の誕生日でさっきまでルキアは機嫌よく祝ってくれていた。
家族とのパーティーが終わり、二人で一護の部屋に戻ってからずっとこの調子。一体何が……と一護は首を捻る。
このままだと息が詰まりそうだ…と思い、一護は意を決してルキアに話しかけることにした。

「なぁ……ルキア」
「うわっ!なっ…なんだ!?一護!!?」

怒っていると思ったルキアが驚き、焦っていたので一護は首を傾げたが、そのまま質問することにした。

「お前、どうしたんだよ?」
「どうしたとは?」
「さっきから難しい顔して考え込んでるし。俺が話しかけたらビックリするくらい」
「それは……その……」

一護の問いに、ルキアは曖昧に答えながら目を泳がせる。変なヤツだなと思いながら、一護は言った。

「何か俺に言いたいことがあるんじゃないのか?」

ルキアはピクンと肩を揺らし、そっと一護を覗き見る。一護はジッとルキアを見つめていた。真剣な表情で。
ドクドクとルキアの心臓が鳴る。きっと一護は自分のことを心配してくれている。でも、その理由を言うのがとても恥ずかしい。そんな葛藤をルキアは繰り返した。
しばらく考え込んでいたルキアだったが、覚悟を決めたのだろうか、座ったまま背筋を伸ばし、一護の目をしっかり見ながら言った。

「……あの。誕生日のプレゼントのことなのだが………」

それだけ言うと、ルキアは俯いた。
そういえば、さっき家族からプレゼントを貰った時、後から渡すと言われたことを一護は思い出す。

「何だお前。プレゼントをいつ渡そうかとか考えたのかよ?」

冗談めいたように一護は尋ねた。ところが。

「一護」
「な…何だよ……?」

顔をあげたルキアがあまりにも真剣に自分を見つめてくるので、一護は思わず身構えてしまった。
ルキアはほんの少し一護に近付くと、小さな声で呟いた。

「…を……て…」
「え?何だって?」

あまりにも小さな声だったので、一護は眉間に皺を寄せてもう一度尋ねる。すると先程より少し大きめにルキアは言った。

「目を……閉じて」

もしかして、驚かせるつもりなのか?そんなことを思いながら、一護は言われた通り目を閉じた。
だが、目を閉じてもルキアが動き出す気配がない。何か戸惑っている、そんな雰囲気は感じられた。

「おい、ルキア。お前一体どうしたんだよ!?」

少々イラついてきた一護は少し強めに言った。すると、ルキアが息を飲んだ。目を閉じてはいたが、それを感じ取った一護はしまったと思う。
一年に一度の自分の誕生日に、ルキアとケンカはしたくない。

「ルキ………」

謝ろうと一護が口を開きかけた時、唇にあたたかく柔らかい何かが当たった。
不思議に思った一護は目を開けた。すると目の前に漆黒の髪と長い睫。一瞬考え込んだ一護だったが、すぐに自分の置かれている状況に気付く。今、自分はルキアにキスされてる…と。
思わず叫びそうになった一護だが、何とかそれを堪える。しかし頭の中はパニック状態。何で?どうして?と思っているうちに、ルキアが唇を離した。
何もかもが突然で呆然としている一護を、ルキアは顔を真っ赤にして見つめる。そして………

「誕生日おめでとう。一護」

そう言って、再び一護の唇に自分のそれを重ねた。
今回は先程よりも軽めのキス。離れたルキアは更に顔を赤くして俯いた。
ルキアの唇が離れてようやく我に返った一護は、同じように顔を赤くしながらルキアに尋ねた。

「何で……キス……?」

ルキアはチラリと一護を見ると直ぐに視線を逸らし、恥ずかしそうに両頬を手で押さえながら口を開いた。

「………プレゼント」
「は?」
「プレゼント、何をあげればいいか迷ってて。心がこもってれば何でもいいって言ったヤツがいたが、やっぱりちゃんとしたものを渡したくて」
「うん」

よくはわからないが、語りだしたルキア。一護は急かさずゆっくりルキアの話を聞く。

「ギリギリまで考えたけど、思い浮かばなくて」
「……それとキスと何の関係があるんだ?」

とりあえず、キスをした理由を知りたい一護は単刀直入に聞いてみた。
尋ねられて、ルキアは胸の前で両手を握り締めると恥ずかしそうにチラチラと一護を見る。その可愛らしい仕草に思わず目を奪われる一護。その時。

「キスは…プレゼントだ」
「へ?」

ルキアの言葉に思わず目を丸くした一護。ルキアはそんな一護の態度を気にすることなく続けた。

「前に……偶には私からキスして欲しいって言ってたのを思い出してな。だから」

ルキアは一護に微笑みかけ、恥ずかしそうに、でもどこか楽しそうに言った。

「キスだったら喜んでもらえるかな…って。キスだったらたくさん心をこめられるかな…って思ってな」

その言葉を聞いて、一護は嬉しくなった。
ルキアが誕生日プレゼントを何にしようか悩んでくれていたことに。
前にキスしてほしいって言ったことを覚えていてくれたことに。
気は強いけど恥ずかしがり屋で、そういうことを自分からするのは苦手なくせに、頑張ってキスしてくれたことに。
キスにたくさん心をこめたと言ってくれたことに。

一護はそっと手を伸ばし、ルキアを抱きしめた。

「一護?」

どうしたのだ?そう問いかけてくるルキアに一護は微笑むと、抱きしめる腕に力を込め、そっとルキアの耳元で囁いた。

「ありがとう」

一護の言葉にルキアは更に嬉しそうに微笑む。
そして、もう一つ一護に言いたかったことを思い出し、クイっと一護の服を引っ張った。

「何だよ?」
「実はな、もう一つ言いたいことがあってな」
「ん?」

ルキアは一護の耳に手を当てると、ないしょ話をするように言った。

「生まれてきてくれてありがとう。貴様に出逢えて本当に幸せだよ」

一護は目を瞠って驚くが、すぐにいつもの表情に戻って「どういたしまして」と答えた。
だが、その耳は真っ赤に染まっていた。





―――貴方に出逢えて本当に良かった―――








Happy Birthday To Ichigo!!

本気で15日に間に合わないかと思いました;;;
只管書き続けました。気分は夏休みの最後の日でしたよ…!!!
頑張ったら以外にも早く出来上がりました(苦笑)

今回のお誕生日駄文は、前回のアンケートをふまえて甘いものにしてみました。
自分の中では今回のは甘いと思ってます;;;切なくしたつもりはない…はず。
最初に石田氏が出張ってるのは気にしないでください☆

プレゼントが思い浮かばず、キスがプレゼントとかしてみました(^_^;)
誕生日だし、偶には一護少年にもいい思いをさせないとね♪

ではでは!お誕生日おめでとう!!一護\(*´∀`*)/



up 08.07.15

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