Anniversary
誕生日は日曜日で休み。次の日も祝日で休み。こんなことは滅多にない。そう言ったのはルキアだった。
「…で?休みだから何だって言うんだ」
「ん?それはあれだ。有意義に過ごせるじゃないか」
誕生日をか?一護がそう尋ねると、ルキアは嬉しそうに微笑んだ。
「そうだ。だからラブラブしような」
「………は?」
ルキアの言葉に、一護は間抜けな声をあげた。
休み。有意義に過ごす。ラブラブ。それはつまり………?
行き着いた考えに一護は頬を染める。しかし次のルキアの言葉で、一護は呆気に取られた。
「とりあえず、誕生日プレゼントを買いにデートするか」
「………デート?」
「そうだ。ラブラブデートをしような」
ニッコリと笑うルキアに、一護は頬を引き攣らせながらもなんとか笑みを返す。ラブラブってそういう意味ね…と思いながら。
ショッピングモール内を歩きながら、ルキアは一護を睨みつけた。
「一護、まだ決まらないのか?」
「いや、だって…特に欲しいものとかないし」
元々物欲がないほうだし、物持ちも良いので欲しいものが考え付かない。
強いて言えば、最近財布が古くなってきたので買い替えたいと思っている。しかし財布は少々値段が張るので、それをプレゼントとするには躊躇われる。
腕を組んで悶々と悩む一護に、ルキアは溜息をついた。
「決まらないなら、問題集とノートをプレゼントにするが…?」
「いや、それだけはやめてくれ」
そんな色気のないプレゼントはごめんだとばかりに、一護は首を横に振った。
「じゃあ早く決めるんだな」
「そうだけど………あ」
急かされて辺りを見渡した一護は、とある店を見て思い出した。一つ欲しいものがあったと。
一護はルキアの手を握ると、その店に向かって歩き出した。
「何だ?決まったのか?」
「ああ。マグカップが欲しい。この前、手を滑らせて割ったんだよな」
家には他にもマグカップがあるけれど、一つ無くなっただけで不便に感じてしまう。この際だから、自分用のマグカップを買ってもらおう。
そんなことを考えていると、ルキアがクスリと笑った。
「いいのか?それで。もっと高いものを求めてもいいんだぞ」
財布とか?と続けるルキア。
それを聞いて、本当は自分の欲しいものを知ってるのでは…と思いながら、一護は首を横に振った。
「いいんだ。俺はマグカップが欲しいんだ」
「そうか」
微笑むルキアに頷いて、一護は雑貨屋に足を踏み入れた。
マグカップが入った紙袋を持って、ルキアは歩く。とても機嫌が良く、先程から何やら歌を歌っている。
誰の目から見ても浮かれているルキアに一護は声をかける。
「何でそんなに浮かれてんだよ、お前」
「だって、今日は貴様の誕生日ではないか」
「俺の誕生日を何でお前が喜ぶんだよ………」
自分の誕生日ならまだしも…と呟くと、ルキアがニッコリと笑った。
「貴様が生まれてきた日だぞ。嬉しいに決まっているではないか」
一護は目を瞠った。
ルキアが機嫌が良いのは、誕生日というイベントが楽しいからだと思っていたから。純粋に、一護が生まれてきたことを喜んでいるとは思わなかったから。
何ともいえない想いが込み上げ、一護はポツリと呟いた。
「ありがとう………ルキア」
「どういたしまして」
小さな声だったけれど、それはルキアに伝わっていたようで。ルキアは一護に微笑みかけると、再び歌を歌い始めた。
しかし、その歌が突然途切れる。
「そうそう。貴様の家族も今日の夜はお祝いだ!ごちそうだ!とはしゃいでいたぞ」
「ああ…うちの家族は毎年ウザいくらいにはしゃぐからな」
イベントごとに大暴れする家族を思い出して、一護は眉間に皺を寄せる。
楽しむのは構わないが、所構わず暴れられるのは困る。止める方の身にもなってほしい…と毎回思うのだ。
「まぁ、良いではないか。今年はごちそうを食べた後は皆出ていくといってたから、静かに過ごせるぞ」
「………は?」
そんな話は聞いていないと首を傾げる一護に、ルキアは「聞いてないのか?」と呆れ気味に言った。
「親父殿は知り合いと飲みに。遊子たちは友達の家に泊まりに行くそうだぞ」
「………何で?」
嫌な予感がする…と思いながら尋ねると、ルキアが悪戯めいた笑みを浮かべた。
その微笑みに、一護は背筋を震わせる。これはヤバい…と。
「二人の夜を楽しめ…と言われた」
「なっ………!?」
一護は顔を真っ赤に染め、絶句する。そんな一護の反応がルキアには面白くて仕方がない。
ふと悪戯を思いついて、ルキアは一護の耳元に唇を寄せ、フッと息を吹きかけた。
くすぐったさに、一護の体がビクリと揺れる。一護の反応に満足気に微笑むと、ルキアは囁くように言った。
「最初に言ったではないか。ラブラブしようと」
「それは………」
確かにそう言った。そしてその時は自分も勘違いした。でもラブラブデートと言う意味で、そういう理由ではなかったはず………
色々考えて、一護は混乱する。するとルキアが大声で笑いだした。
こんなふうに笑うルキアを見たことがなかったので、一護は目を瞬かせる。
「何だよ……?」
「いや、すまない……」
目尻に浮かんだ涙を手で拭いながら、ルキアは小さく頭を下げた。
「こんなに貴様が驚くとは思わなくて…からかってすまない」
「からかう?」
「嘘をついた。遊子たちが泊まりに行くのは本当だが、親父殿は少し飲んですぐに帰ると言っていた」
そこまで聞いて、一護はやっとルキアが自分で遊んでいたことに気付いた。
「おまっ……!」
おもわず胸の前で拳を握りしめると、ルキアは素早く距離を取った。
「本当にすまない」
「ったく、おまえは性質が悪い」
ブツブツ文句を言う一護に、もう一度ルキアは謝る。そしてそっと目を伏せた。
「でも、ほんの少しだけど二人の時間を楽しめと言われたのは事実だ」
「え?」
振り返ると、ルキアの腕が一護の首に回って、鼻先が触れ合いそうなほどの距離まで近付いた。
「私は別に、そういう意味でラブラブしてもよいが。貴様はどうだ?一護」
「ルキ……っ!」
チュッと軽く唇にキスをされ、一護は絶句する。ルキアはというと、悪戯が成功して喜ぶ子どものように楽しげに笑っている。
混乱しながら一護は思った。これってまたからかわれているのだろうか…と。
からかわれているならそれでいい。本気なら本気で、それはラッキーだと思う。
どちらにしても、自分は目の前の小さな死神様に翻弄されているのだけれど。
確か今日って俺の誕生日だったよな…と思いながら、一護はルキアの体をそっと抱きしめた。
Happy Birthday To Ichigo!!
久しぶりにお誕生日小説を書いてみました。いつものことですが、祝ってる感じがない。
ちょっと強気なルキアさんに押される一護さんが見たい。
そんな願望からできた作品です。
up 12.07.15
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