彼が私の手を掴んでいる間。
俺が彼女の手を掴んでいる間。
これ以上ないというくらい穏やかな時間だったような気がする。
manicure
「何やってんだ、お前………?」
「あ………一護」
晴れて家族公認の居候となった死神―朽木ルキア―は、一護の部屋で自分の指先を真剣な表情をして見つめていた。
「だから、俺の部屋で何やってんだよ?」
一護は眉間に皺を寄せて再びルキアに尋ねる。ルキアは困ったように俯きながら言った。
「マニキュアというヤツをつけているのだが…意外と難しくてだな………」
「は?」
ルキアの答えに一護は目を瞠って驚いた。
「ねぇ?今から皆で買い物に行かない?」
「あ!行きたい!!」
千鶴の呼びかけに、織姫やみちるといったいつものメンバーが反応する。それを横で聞きながら、ルキアは帰り支度をしていた。
「朽木さんも一緒に行こうよ!!」
突然名前を呼ばれて振り返ると、織姫がニコニコと笑いながらルキアを見つめていた。
「私………も?」
「うん!私、朽木さんとは一度も買い物に行ったことないから。一緒に行きたいの」
そう言って微笑む織姫。ルキアの正体を知っている彼女は、現世で一人頑張っているルキアが楽しく過ごせるようにといつも気にかけてくれる。その気持ちがルキアには嬉しかった。
「ご一緒してもよろしいのですか?」
ルキアは他のメンバーに尋ねる。すると全員ニッコリと微笑んだ。
「いいよ〜!私も前から朽木さんと買い物に行きたかったのよ!私が選んだ服を着てもらいたいって思ってたのよねvv」
「アンタが言うと邪な考えが頭の片隅にあるようにしか聞こえないんだけど…」
楽しそうにルキアに近付いて肩に手をのせる千鶴に、たつきがジロリと睨みつけながらルキアの肩にのせた手を叩く。
そんな二人に困ったように笑いながら「よろしくお願いします」とルキアは言った。
そして、織姫たちと買い物に行ったルキアは、千鶴だけでなく他のメンバー全員の着せ替え人形となってしまった。
服をルキアにあてては「コレが似合う」「コレはダメ」と意見しあい、キャーキャー騒ぐ。
正直、今までこんなことをしたことのないルキアはどうしていいかわからず、戸惑った。でも、楽しそうな彼女たちを見ていると自分も楽しくなってきた。
結局、皆が選んだワンピースを買ってしまったが、皆が一生懸命選んでくれたと思うと嬉しくてしかたがなかった。
帰り際、ルキアたちはとある店に入った。化粧品関係を売っている店だった。そこでルキアは不思議なモノを見つけた。
ルキアがそれをジッと見ていると、織姫が近付いてきた。
「何見てるの?朽木さん?」
「ああ…井上」
織姫だけだと思った途端、思わず素が出たルキア。しかし織姫は嬉しそうに笑った。
「やっぱり朽木さんはその口調じゃないと朽木さんって感じがしないね」
「そうか?」
何だか恥ずかしくてほんのり頬を染めるルキアに「うん」と織姫はさらに微笑んだ。
「それで何を見てたの?」
「ああ…コレだ。何なのだろうと思ってな」
再び尋ねてきた織姫に、ルキアは気になっているモノを一つとって見せた。
「ああ!コレね、マニキュアだよ」
「まにきゅあ?」
名前を聞いてますますわからないとばかりに顔を顰めるルキアに、織姫はクスクスと笑いながら言った。
「あのね、爪につけるの。こんな感じで」
織姫は試供品を一つ取り出し、自分の爪に塗った。織姫の爪がキラキラと光るものがついたピンク色になったので、ルキアは思わず目を瞠る。
「おもしろいな………」
ルキアはまじまじとマニキュアを見た。そんなルキアを織姫はしばらく見つめた後「そうだ!」と声をあげた。
「朽木さん!このマニキュア、プレゼントするね!!」
「は?」
突然プレゼントすると言われて、ルキアは目を丸くする。しかし織姫は気にせずどの色にしようかと考えている。
「井上…プレゼントだなんて、そんな………」
「いいの!私がプレゼントしたいの!!」
ルキアは断ろうとしたが、「ダメ?」と悲しそうに言われてしまってはそれ以上何も言えず…結局買ってもらうことにした。
せっかく買ってもらったのだから早速つけてみようと開けてみたはいいが、意外に臭いが強烈だった。
遊子や夏梨が臭い思いをしてはかわいそうだと思ったルキアは、一護の部屋でマニキュアをつけることにした。
ところが、いざつけてみようと爪にブラシをあてるがなかなか上手くいかない。悪戦苦闘していた所にちょうど一護が戻ってきたのだった。
「部屋が臭くなるって…俺の部屋は臭くなってもいいのかよ?」
「貴様の部屋だからな。………ああ!はみ出してしまった!!」
睨みつける一護を気にすることなくマニキュアを付け続けるルキア。一護はハァと溜息をつきながら持ってきたミネラルウォーターをコクリと飲んだ。
そのまま課題でもしようと椅子に座ってカバンの中をあさった。ルキアは未だにマニキュアに挑戦していた。
「ひゃっ!……またやってしまった」
ルキアの声に一護は何やってるんだと思いながら振り返る。するとルキアがゴシゴシと指をコットンで拭いているところだった。
ルキアの周りはコットンだらけ。どうも上手に塗れないらしい。よく見れば、何故か爪からはみ出て皮膚についている部分がある。一護は思わず溜息をついた。
「貸せ」
「………え?」
ルキアが顔をあげようとした時、一護はルキアが持っていたマニキュアをとって手を差し出した。
「手、貸せ。俺が塗ってやる」
「ハイ!?」
「このままじゃ中身がなくなるぞ。塗ってやるから」
「でも………!!」
「いいから」
そう言うと、一護は半ば強引にルキアの手をとって、慌てふためくルキアの指にマニキュアを塗り始めた。
(上手いものだな………)
ルキアは感心しながら一護がマニキュアを塗る様子を見守った。
自分が塗るとどうしてもはみ出してしまうのに、一護は上手に爪だけに塗る。
(もしかして…前にも誰かに塗ったことがあるのか………?」
自分でそんなことを思いながら、ルキアはほんの少し胸に痛みを感じた。すると一護がルキアの手を離した。
「ホラ、反対」
そう言うと、一護は塗ってないほうの手を出すよう促す。ルキアはそっと反対の手を差し出した。
その手の細さに、一護はドキリとする。普段は生意気な死神サマだが、こうやってみると女なんだなと一護は思う。
「………上手いな」
「え?」
突然声をかけられて、一護は顔をあげる。するとルキアは何故か悲しそうに微笑んでいた。どうしたんだと思っていると、ルキアが再び口を開いた。
「前にも…誰かに塗ったことがあるのか?」
「はぁ!?」
わけのわからないルキアの質問に、一護は思わずマニキュアを塗る手を止める。ルキアは未だに悲しそうな顔をしていた。
なんだかよくわからないが、ルキアは誤解している。誤解を解かなければと一護は何故か焦ってしまった。
「塗ったことねぇよ!お前が初めてだ!!」
それを聞いた瞬間、悲しそうな顔をしていたルキアが嬉しそうに微笑んで頬を染める。その姿があまりにも可愛くて、一護は目を瞠ってしまった。
「と、とにかく、続きするぞ」
一護は照れ隠しするために急いで下を向いて、再びマニキュアを塗り始めた。
「できたぞ」
「ありがとう、一護。本当に上手だな」
ルキアは嬉しそうに指先を見つめる。そんなルキアを微笑ましい思いで見つめる一護。するとルキアが一護の方に振り返った。
「なんだか…落とすのがもったいないくらいだ」
「そうか?」
「ああ」
再び自分の指先を見つめるルキア。一護はそっとルキアの手をとった。
「綺麗な色だな」
「え…ああ。井上が選んでくれたんだ」
いきなり一護に手をとられて驚いたルキアだったが、マニキュアのことを尋ねられて思わず微笑む。
織姫がルキアに選んでくれたマニキュアは桜色で、派手な色が苦手なルキアも気に入った色。それを一護からも褒められて嬉しくなる。
「井上がプレゼントと言ってくれたのだ。私の大切な宝物だ」
そう言ってルキアはマニキュアをキュッと握りしめて微笑む。すると一護はルキアから目を背けて呟いた。
「じゃあ…今度は俺がマニキュアを買ってやるよ」
「本当か!?一護!!」
「………ああ」
目を輝かせて一護の腕にしがみ付くルキア。そんなルキアから一護はずっと目を背けたままコクンと頷く。そのままルキアに気付かれないようにハァ…と溜息をついた。
自分がまさか嫉妬をするとは思わなかった。それも女子―井上―相手に。
ルキアが井上から貰ったマニキュアを大事そうに持っていることが許せなかった。
井上がルキアのために選んだ色がとてもルキアに似合っていて、自分よりもルキアのことをわかっているようで悔しかった。
だから今度は自分がルキアにマニキュアを買ってあげよう。
そしてまた、ルキアの爪に今度は自分が選んだマニキュアを塗ってやろう。
一護はそっとルキアに向かって微笑んだ。
突然思い浮かんだネタであります。
自分の爪にマニキュアを塗ってる時に、男の子が女の子に塗ってあげたら可愛かろうな…的に。
というより、一護がルキアに…ってすぐに思いました。王子と姫じゃ想像できなかった。
それにしても、相変わらずウチの一護さんはへタレというか…(汗)
強い一護さんを書きたいのですが、なかなか書けません。
誰か強い一護さんの書き方を教えてください。←切実
突発的に思い浮かんだわりには、最後の方でかなり苦労しました;;;
なかなか纏められなくて………(涙)
最後に。
私はルキアと織姫の可愛らしい友情が大好きですvv
up 07.09.24
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