特別な日くらい覚えてください



昔から頼まれると断れないんだよな…と思いながら、ルキアは本の整理をしていた。

「悪いね、朽木さん。急にバイトに入ってもらって」
「いいえ。特に予定は入ってなかったので大丈夫です」
 
背後から声をかけられて振り返ると、中年の男性が申し訳なさそうな顔をして頭を下げてきた。それにルキアはニッコリと笑って返す。
気にしてなさそうなルキアの態度にホッとしたのか、男性は安心したように笑った。

「いや〜朽木さんに来てもらって助かるよ。まさかバイトの子が風邪で一週間も休むとは思わなくてね。緊急に募集するにも一週間だし」
「大変ですね」
「朽木さんは前にバイトしてもらったし、仕事はできるし。本当はずっと来てもらいたんだけどね。どうかな?このまま続けてみない?」
「はぁ………」

曖昧に微笑むルキア。そんなルキアに男性―本屋の店長―は「気が向いたらいつでも声かけてね」と去って行った。
去って行く店長の背中を見つめながら、ルキアはそっと溜息をついて呟いた。

「一護に止められてるからな……バイト」



クリスマス前。どうしても一護に腕時計を送りたくて、織姫に頼んで数週間だけ本屋でバイトをした。
一護にバイトしているのがバレないように織姫のアパートから通い、バイト代でプレゼントを買って一護に渡すことができた。
プレゼントを渡した時の一護はとても嬉しそうで、バイトをして良かったとルキアは思った。
前にバイトを辞める時にもこのまま続けないかと言われた。ルキアは続けてもいいかなと思っていたが、そのことを話したら一護に反対された。

『前にも言ったけど、今度からバイトするなら浦原商店でしろ』

納得がいかずルキアは反論したが、一護が今までにないくらい不機嫌になってしまったので、これ以上言ったら取り返しのつかないことになりそうな気がすると思い、その時は諦めた。
何より、一護とケンカしてしまうのが嫌だったのが一番の理由だった。
それ以来バイトのことをすっかり忘れていたルキアだったが、先日店長から直に電話がかかり、一週間だけバイトに来てもらえないだろうかと頼まれた。
とても困っているようだったので放っておけず、ルキアは何とか一護を説得した。『今回だけ』という条件の下で。



「朽木さん。そろそろ時間だから上がっていいよ」
「あ、はい。じゃあこれを終わらせてから上がります」

同じバイトの人から言われてルキアは返事をすると、残っている作業を再開する。誰かに任せればいいのだが、あと少しだからやってしまうことにした。
暫くして、作業を終わらせたルキアは店員達に挨拶をして店を出た。人通りも疎らで、ルキアは携帯で時間を確かめる。ちょうど21時を過ぎたくらいだった。

「少し遅くなったな」

しまったというような顔をしてルキアは呟いた。
黒崎家…特に一護なのだが、ルキアの帰りが遅くなると大袈裟なくらい心配する。
以前、電車が遅れていつもより帰る時間が遅くなっただけで家族全員から携帯に電話がかかっていた。もちろん着信が一番多かったのは一護だったが。
そこまで心配される程子どもではないと言ってみたが、全員から『女の子が夜道を一人で歩くのは危ない』と言われてしまった。
ルキアに言わせたら、その辺のナンパ男や変質者よりよっぽど虚の方が危ないと思うのだが、それを言ったら一護から思いっきり怒られてしまったので、以来言わないようにしている。

「とにかく急ごう」

そう言ってルキアが一歩踏み出した時。

「ルキア」
「………え?」

耳に届いた声。その声に驚いて振り返ると、自転車に乗った一護がそこにいた。ほんの少し鼻が真っ赤になっているのは寒さのせいだろう。

「どうしたのだ?一護」

小走りで一護に近付くルキア。一護は鼻を啜ると小さな声で呟いた。

「迎えに来た」

一護の言葉にルキアは申し訳なさそうに頭を下げた。

「すまん。こんなに遅くなるつもりはなかったのだが、残ってる仕事をやってしまってから帰ろうと思って」
「多分、そうだろうなとは思ってた。でも、お前いくら何でも今日は早く帰ってくるべきだろ」
「へ?」

ルキアは首を傾げる。ルキアの反応に一護は「やっぱり」と呟くと盛大に溜息をついた。

「なんだなんだ!何で溜息をつくのだ!何故今日は早く帰ってこなければいけないのだ!?」
「お前なー……」

一護の態度と早く帰らなければいけない理由が解らなくて、ルキアはギッと睨みつける。しかし一護は呆れたような顔をするともう一度溜息をついて口を開いた。

「今日はお前の誕生日だろ?ルキア」

言われて暫く考え込むルキア。そして自分のバッグから携帯を取り出して日付を確認した瞬間、一気に顔が蒼褪めた。

「あ………!!!」
「遊子たち、お前が帰ってくるのずっと待ってるんだけど」
「あああ!すまない!!すっかり忘れていた!!!」
「だと思ったよ」

今朝、午前の講義が休講になったからいつもより遅く起きたルキア。誰とも会うことなく大学に行ったので「誕生日おめでとう」と言われることがなかった。
しかも大学の友人には誕生日を教えていなかったので、祝われることなどなく。結果、自分の誕生日をすっかり忘れてしまっていた。

「まさか、みんな私が帰ってくるのを待って夕飯を食べてない…とか?」
「そのまさかです」
「すまない!!!」

ガバッと勢いよく頭を下げるルキア。一護はルキアの頭をポンポンと優しく叩くとクスっと笑った。

「とりあえず、みんな腹空かせてるから早く帰ろう」

一護は顎で自転車の後ろを指して、ルキアに乗るように促した。



家から本屋まで歩いて15分くらいかかる距離を自転車で帰ったため、5分程で家に帰り着いた。

「全く…自分の誕生日くらい覚えとけよ。特別な日だろ?」
「本当にすまない」

自転車を片付ける一護。その横でルキアは肩を落としている。
ちょっとイジメすぎたかな…と思いながら玄関の扉を開こうとした一護は、そういえば…ととある疑問が浮かんでルキアに尋ねた。

「お前さ、今まで誕生日のこと忘れてたってことは今日は誰からも祝ってもらってないのか?」
「ん?ああ、そうだ。朝は家族の誰にも会わなかったし、大学では誰にも誕生日を教えてないしな」
「そっか。じゃあ………」

ニッコリと笑って一護が近付く。ルキアは不思議そうに首を傾げて一護を見上げた。
一護は腰を屈めてルキアの耳元に口を寄せると、そっと彼女に囁いた。

「誕生日おめでとう、ルキア」

そしてそのままルキアの耳を甘噛みする。ルキアは思わず「ひゃあ!」と声を上げた。

「相変わらず、耳弱いな」
「煩い!!!」

噛まれた耳を手で押さえながら顔を真っ赤にして一護を睨みつける。しかし一護はイタズラが成功して嬉しそうに笑っていた。

「全く!」
「まぁまぁ、そう怒るなって」

プイっと顔を背けるルキアに苦笑しながら一護は呟いた。

「一番にお前の誕生日を祝えたから嬉しくて。だからイタズラしちまった」
「え?」
「だって、彼氏だってのに彼女の誕生日を一番に祝えなかったとか悔しいだろ?でも、お前誰にも祝ってもらってないって言ってたからさ」

嬉しそうに一護は笑う。
一番に祝えたのが嬉しいからイタズラした…というのには納得できないが、それでも一護が自分の誕生日を一番に祝えて嬉しいと言ってくれたことがルキアには信じられなくて。
同時に、一護の想いが嬉しくてルキアは一護に抱きついた。

「ありがとう、一護」
「どういたしまして」

一護は優しくルキアを抱きしめ返すと、すぐにその体を離した。

「皆が待ってるから早く家に入ろうか?」
「ああ、そうだったな」

微笑みあう二人。そして一護が玄関の扉を開いた。

「ただいま」
「おかえりなさい!」

奥から遊子と夏梨が走ってくる。二人の後ろから一心がニコニコと笑いながら歩いてきた。

「お誕生日おめでとう!!!」

遊子と夏梨が抱きついてくる。衝撃で少し倒れかけたがなんとか堪え、ルキアは二人を抱きしめた。

「ありがとう」



こんな素敵な誕生日は初めてだよ。






―おまけ―



「こんな高価な物を貰ってもいいのか?」
「いいんだよ。お前のためにバイトして買ってきたんだから」
「あ…ありがとう」

顔を真っ赤にして照れるルキアを見て一護はクスリと笑った。
誕生日パーティーを終えて一護の部屋に行ったルキアは、そこで一護からプレゼントを貰った。箱から出てきたのはルキアが好むワンピース。
ルキアはワンピースを目の前に翳しながら一護に尋ねた。

「やっぱりコレ、高かったのではないか?」
「気にするなって。お前に似合うと思って俺が買っただけなんだからさ」
「うー…でもなぁ」

唸るルキア。一護はニヤリと笑うと、ルキアに質問をした。

「なぁ、ルキア。男が女に服を贈る理由、知ってるか?」
「へ?いや…知らんな」
「そっか。じゃあ教えてやるよ。耳、貸しな」
「ん?ああ」

ルキアは一護の口元に自分の耳を寄せる。そして一護からその『理由』を聞いた瞬間、バッと勢いよく離れると顔を真っ赤に染めて一護を睨みつけた。



『自分の手で脱がせたいって意味があるんだぜ』








Happy Birthday To Rukia!!

遅くなって申し訳ありません、ルキアさん;;;
忙しくてバタバタしてたら間に合いませんでした…orz

忙しくてネタすら考えられなかったのですが、G氏に助言頂いてなんとかUPすることができました。゚(゚ノД`゚)゚。
捏造シリーズでの誕生日は二回目だったりします。
そして前回クリスマスで書いたバイトネタがそのまま続いています☆
間が妙に開いてますが、弄ったら何か出てくるかもしれませんよ(*´V`*)

遅くなりましたが、ルキアお誕生日おめでとう\(*´∀`*)/\(*´∀`*)/\(*´∀`*)/



up 10.01.17

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