あなたが側にいてくれる。それだけで私はせつないほど幸せを感じる。
せつないほど幸せ
今日は学校が休みだというのに、朝から虚が出たため、私と一護は虚退治に向かった。
一護と私の実力からすればかなりの雑魚だったので、あっさりと退治することができた。
「せっかくのゴールデンウィークだってのに、俺は虚退治で休めないんだろうな」
ハァと溜息をついて眉間に皺を寄せる一護。私も確かに…と思った。
空虚町には一護と私の他に、石田・井上・茶度や浦原商店の連中など、虚退治のできる者が大勢いる。
そのせいか、ここの担当の死神は妙に弱いというか、私たちに頼っている気がする。
自分はともかく、一護たちは現世の人間としてやるべきことがあるのだから、こちらのことで迷惑をかけるのは申し訳ない。
「浮竹隊長に頼んで、ごぉるでんうぃいくの間だけ誰かに来てもらおうか………」
「別にそこまでしなくてもいい。それよりゴールデンウィークの発音が変だったぞ」
私の提案を一護はあっさり断った。それどころかいらないツッコミをしてくれた。
「私の発音は関係なかろう!?それよりいいのか?誰かが来なければゆっくり休めないぞ」
「いいよ、別に」
「そうか…。貴様がそこまで言うのなら頼まんよ」
「ああ」
ぶっきらぼうに答える一護を見て私の頬が緩む。同時に心の中では泣きそうな気分になっていた。
この長い休みの期間、一日だけでいいから一護と二人でどこかに行きたかった。
同居しているとはいっても一護の家族も一緒だし、学校ではお互いクラスメイトたちと一緒に過ごすことの方が多い。
二人きりになれるといったら虚退治の時のみ。そんな時に二人きりになっても意味がない。
だから、手伝いの者が来たら行けるのではと思って提案してみたのだが………。
(女心のわからぬ餓鬼め!!)
ルキアは心の中で一護に悪態をつきながら、一護にわからないように小さく溜息をついた。
「なぁ。ちょっと寄り道しねぇか?」
「は?」
私は素っ頓狂な声をあげてしまった。何故寄り道?思わず眉間に皺をよせて一護を見た。
「たまにはゆっくり家に帰ろうぜ」
「別に構わぬが…良いのか?貴様の体の中にはコンが入っておるのだぞ?」
虚退治のため、一護は自分の体の中にコンを入れていった。家の誰かに意識のない自分を見られたら大騒ぎになるからだ。
ちなみに私も義骸の中にチャッピーを入れてきた。
「コンがお前の体を使って遊ぶから早く帰らねばといつも言ってるではないか?」
「チャッピーがついてるから大丈夫だろ。この前チャッピーに頼んでおいたから」
私の質問にあっさりと答える一護。チャッピーに頼むほど、コンは一護に信頼されていないのだな…と思ってしまった。
ちなみに今は二人とも死神化しているので、誰も私たちのことが見えない。それはそれで面白いかもしれない。
「どこに行くのだ?」
なんだかワクワクしてきて、私は子どものようにはしゃいでしまった。
そんな私を見て一護はふわりと微笑む。めったに見られない一護の優しい笑みに、私は顔が赤くなるのを感じる。
「いろいろ見て回ろうぜ」
「………そうだな」
すると一護が私に向かって手を差し出した。驚く私に一護は「ホラ」と言って強引に私の手をとった。
強引ではあったが、乱暴な扱いではない。一護の優しさにまたしても頬が緩んだ。
二人でいろんな所を歩いて回った。
学校、公園、商店街。どこも休日なうえに早朝だからか、人の姿はあまり見られなかった。
といっても、自分たちも死神化しているため誰もいないのと同じなのだが。
それでも二人きりなのが嬉しくて、私は始終笑っていた。
しばらく歩いて、私たちは川原の土手についた。一護はそこに寝転がり「気持ちいいな」と目を瞑った。
私も一護の横に座り「そうだな」と答えた。
心地よい沈黙が私たちの間に流れた。
「俺さ………」
最初に沈黙を破ったのは一護だった。私は一護に目を向けた。
「好きなんだよな。虚退治の後、こうやってお前と歩くの」
「……………え?」
一護の言ってる意味がよくわからない。私は一護を凝視した。
「だってさ。死神化してると誰にも俺たちの姿見えないだろ?それって二人きりってことだろ?」
「まぁ…そうだな」
「そう思ったら、なんか幸せだなって思えるんだよ」
照れくさそうにそう言うと、一護は私から顔をそむける。私がずっと見ているから恥ずかしいのだろう。
「だから…その…気をきかせて手伝い頼むって言ったのを断って、悪かったな………」
その言葉を聞いて、私は涙が出そうになった。
自分と一緒にいる時間をここまで大切にしてくれる人に初めて会った。
恋次とは家族として一緒に過ごしたという感じだったし、兄様とは長い間心を通わせることができなかった。
だから嬉しかった。自分と一緒にいて幸せを感じてくれるなんて言われたのは初めてだったから。
「私もだよ」
未だに私から顔をそむけたままの一護の頭を撫でながら私は言った。
「貴様が側にいてくれるだけで、私は幸せだよ」
私の言葉を聞いて、一護は勢いよく振り返った。目を大きく見開いて驚いていたが、ふと微笑んだ。
「そっか」
と嬉しそうに。
だから私も微笑んだ。さっきは悪態をついてすまなかったとも思いながら。
あなたの言葉のひとつひとつに、私の心は喜びを感じる。
あなたが側にいてくれるだけで、私は幸せを感じる。
せつないほどの幸せを。
ルキア嬢視点のお話です!!たまには一護にいい思いをさせたくて制作しました。
日記の小咄以外では初めてです。ルキア視点。
捏造シリーズは視点っぽいですけどちょっと違いますし。
短編の一護はいつも可哀想な思いをしているので、今回はルキア嬢が頑張ってます。
時間的には破面編が終わった後くらいです。代行編だとちょっと話が合わないので。
ちょうど今は黄金週間なので、この話も黄金週間真っ只中です。
一応この二人は恋人同士ですよ。お付き合いしております。父も兄も公認!
いつもと比べて短文ですが、甘さは三割り増しと思ってます☆めずらしい(笑)
これもまた、制作中はなんとも思いませんでしたが、最終チェック中、甘さに……
砂糖がダバダバだー!!(爆死)
と思いました………。イチルキで甘いの作ると何故か恥ずかしくなります。
次は捏造シリーズに手を出そうかと思ってますが、アレも甘いなぁ………。
up 07.05.01
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