たまには甘い時間を
「忘れ物はないか?」
「大丈夫だよ」
「ん〜。私も大丈夫」
ルキアの問いに遊子は笑顔で、夏梨はバッグをもう一度見直しながら答えた。
「最近は物騒だからな。遅くならないように帰るんだぞ」
「はーい」
二人は声を揃えて言った。
遊子と夏梨は、今日仲の良い友人数名と遊園地に行くことになった。
友達だけで行くのが初めてな二人は、昨日の夜からソワソワと落ち着かなかった。
きゃあきゃあとはしゃぐ二人が迷子にならなければいいがと考えながら、ルキアは苦笑した。
「友達とはぐれないよう気をつけるんだぞ。」
真剣な表情でルキアは言ったが、遊子たちは苦笑しながらルキアを見つめた。
「もぉ〜。小さい子じゃないんだから大丈夫だよ。心配性なんだから、お姉ちゃん」
「ホント。……あれ?そういえば一兄は?」
自分たちを心配するもう一人の人物、一護がいないことに気付いた夏梨は、キョロキョロと辺りを見回す。
「一護ならまだ寝てるぞ。遅くまでレポートを書いてたようだ。大変だな、医学部は」
ハァと溜息をついて、ルキアは一護の部屋の方を見た
一護と出会ってから数年がたち、現在一護は医者になるため医学部に進んだ。
一護をサポートするため現世にいるルキアも、何もしないよりはと短大に入学した。
学校が別々になり、しかも一護は勉強が忙しいようで最近あまり話していない。
だがルキアは一緒にいられるだけでも幸せだと思っているので、別に不満は感じてなかった。
ただ、ほんの少し寂しさは感じていたが………
寂しげな表情のルキアを見て夏梨が微笑む。片側の口元を少し上げたその笑みはなんだか楽しそうだ。
「ま、いいじゃん。今日はヒゲもいないことだし、二人でゆっくり過ごしたら?」
夏梨はニヤリと笑った後、ルキアの耳元で「イロイロと…ね」と言った。
「夏梨!!!」
ルキアは顔を真っ赤にして夏梨を睨むが、睨まれた夏梨は楽しそうに口笛を吹いている。
すると両手を叩いて遊子が言った。
「そうだね!たまにはお兄ちゃんとお出かけしたら?」
どこまでも純粋な遊子は本気で出掛けることをすすめている。
そんな遊子をルキアは助かったというような、夏梨はまったくというような表情で見つめた。
二人を送り出してから、ルキアは洗濯を始めた。
洗濯物を干し終わって部屋に入り時計を見ると、十時を過ぎていた。
そろそろ一護を起こしたほうがいいだろうかと考えていると、ガチャッとドアが開く音がした。
「……はよ」
振り返ると、まだ眠たそうな一護がリビングに入ってきたところだった。
「おはよう、一護」
一護が起きてきたことが嬉しくて、ルキアは満面の笑みを浮かべる。しかし一護は顔を顰めて辺りを見回していた。
「みんなは?どこ行ったんだ?」
「…貴様、忘れたのか?一心殿は昨日から学会で留守。遊子たちは友達と遊園地に行くと言っていただろう?」
「ああ……。そういえば。忘れてた」
ボーっと頭を掻きながら言う一護を呆れた眼差しでルキアは見る。
自分は一護が起きたことに喜んでいるのに、コイツはそれに気付いていないのだろうと思ったら腹が立った。
しかし、だからといって冷たい態度はとれない。一護は昨日遅くまで勉強をしていたから。
ルキアは一護の側に行き、そっと尋ねた。
「何か作るか?食べたいものはあるか?」
一護は少し目を見開いた後、ルキアの頭をポンポンと叩いた。
「サンキュ。でもこんな時間だし、牛乳だけでいい。そのかわり後で昼メシ作って」
「…ん」
一護があまりにも優しい笑顔を浮かべて言うので、ルキアは頬を赤く染めながら頷いた。
コップに牛乳を入れて一護に渡した後、ルキアは冷蔵庫の中を覗きこんで昼食のメニューを考えた。
中にある材料で作れそうなもの。
「一護。昼食は炒飯で……」
いいか?と聞こうとした時だった。
R R R R R R
一護の携帯が鳴った。
「………もしもし」
不機嫌そうな声で一護は電話に出る。
「レポート?そんなのもうとっくに終わらせたぞ」
電話の相手は大学の友人のようだった。
「はぁ?今からウチに来るからレポート見せろだ?馬鹿いうな!そのくらい自分でやれ!!」
一護は眉間に皺をよせて怒鳴る。しかし相手も食い下がらないようで言い争いを続けていた。
「だいたいなぁ!俺はこれから用事があるんだよ!ったく、切るぞ!!」
そう言って一護は一方的に携帯を切り、そのまま電源も切った。
「ったく。しつけーんだから……」
ブツブツと文句を言う一護。
その様子を、ルキアは何とも言えない思いで見つめていた。
これから用事があると言った一護。ならば今日は一緒に過ごせないということだ。
思わずガックリと肩を落としたルキアに一護が話しかけてきた。
「ルキア。さっき何か言いかけてなかったか?」
「あ…ああ。昼食は炒飯でいいかと………」
言いよどむルキアを訝しく思いながら、一護は「ああ」と答えた。
「うまかった。ごちそーさん」
「……そうか?良かった……」
手を合わせて言う一護にルキアは曖昧に微笑んだ。そのまま二人分の食器を流し台に運ぶ。
元気のないルキアを訝しく思いながら、一護も流し台に向かう。
「作ってもらったからな。片付けは俺がするよ」
スポンジをとろうと一護は手を伸ばしたが、ルキアにやんわりと押し戻された。
「いいよ。昨日は遅くまで起きてたんだろう?もう少し休め。その代わり、夕食の食器洗いはまかせたぞ」
「夕食ね…って、そっちのほうが遊子たち帰ってるから量が多いじゃねぇか!」
「ばれたか」
ハハハ、とルキアが笑う。その様子がいつもと変わらないので一護は少し安心した。
結局一護はルキアにキッチンから追い出され、リビングのソファに寝転んでテレビを観ていた。
昨夜は遅くまでレポート作成。しかも今はおなかが満腹状態。
一護はテレビを観ながらウトウトし始めた。
「一護?」
食器を洗い終えてリビングに来てみれば一護がいない。
何も言わずに出掛けたのだろうかとリビングを見回すと、ソファの上で気持ちよさそうに一護が眠っていた。
用事があると言ってたくせにまた眠っている一護を見て、ルキアは苦笑する。
とりあえず起こそうと手を伸ばした。だがその手は途中で止まった。
気持ちよさそうに眠っている一護。その姿があまりにも可愛らしくてルキアは思わず笑みをこぼす。
そっと一護の額を撫で、ルキアは囁いた。
「お疲れ様、一護」
そして一護の額に口付けた。
ルキアは淡く微笑み、もう少し寝かせてあげようとソファから離れようとした。
ところが、グイっと手を引っ張られる。振り返ると一護がルキアの手を握っていた。
「お前さ、時々ダイタンなことするよな」
そう言って一護はニヤリと笑う。ルキアは顔を真っ赤にして叫んだ。
「貴様!起きてたのか!?」
「違う。あんなことされたから目が覚めた」
「うっ………」
自分のせいで目が覚めたと知ったルキアはそれ以上何も言えなくなる。
そんなルキアを見て、一護はあることを思いついた。
「なあ。俺のこと心配してくれてるんだったら、してもらいたいことがあるんだけど」
「してもらいたいこと?」
ルキアは首を傾げる。一護はそんなルキアを楽しそうに見つめて徐に口を開いた。
「膝枕して」
「………はい?」
ルキアの間抜けな声がリビングに響き渡った。
「膝枕って気持ちいいな〜」
「私は重いのだがな………」
気持ちよさそうな一護に対し、ルキアは少々不服そうに言う。
「いいじゃねぇか。正座でしてるわけじゃねぇんだから」
「それはそうだが………」
ルキアはソファに座り、一護はそこで膝枕をしてもらっている。
下から一護に見つめられるのが恥ずかしくて、ルキアの視線はあちこちに泳いでいる。
小動物みたいだと、一護は思わず吹きだしてしまった。
自分が笑われたのだと気付いたルキアは顔を赤くして一護を睨みつける。
その姿が可愛らしくて一護はさらに笑った。
「〜〜〜っ笑うな!貴様、これから出掛けるのではなかったか?ゆっくりしてていいのか!?」
膝枕や一護に笑われることが恥ずかしくて、どうにか止めさせようと思ったルキアは、さっきの電話での会話を思い出した。
ところが一護はキョトンとした顔をしてルキアに言った。
「俺、今日はどこにも行かないぞ」
「…え?でも、さっき電話で用事があるって言っておったではないか?」
「…ああ。あれね」
ルキアの疑問を一護はすぐに理解した。
「用事があるといえばあるし、ないといえばないというか………」
一護の遠まわしな表現に、ルキアは首を傾げる。
「久しぶりにお前と二人で過ごそうと思ってた」
ルキアは驚きのあまり、零れんばかりに目を見開いて一護を見つめた。
「最近忙しくて全然構ってやれなかったからな。久々に二人きりだしどこか行こうと思ってたんだ」
そこで一息つくと、一護は顔を顰めた。
「なのにクラスの奴ら、無理矢理ウチに来ようとしてたからな」
「じゃあ用事というのは………」
真剣な眼差しでルキアは聞く。それに一護は笑顔で答えた。
「お前と二人で過ごすことに決まってんだろ」
そっと一護は手を伸ばし、ルキアの頬に優しく触れる。
「寂しい思いさせて、ごめんな」
申し訳なさそうにルキアを見つめる一護。
ルキアは首を横に振り、頬に触れる一護の手に自分の手を重ねた。
「そんなことはないよ」
ルキアは微笑む。
―――確かに寂しいと思ってた。でもそれを忘れさせてくれるくらい貴様の気持ちがわかったから―――
「貴様が私を思ってくれているから、寂しくなんてないよ」
そう囁いて、ルキアは一護の額に口付ける。
驚いた一護は目を瞠ったが、すぐにニヤリと笑った。
「でもお前、さっき俺が出掛けると思って寂しそうにしてたじゃねぇか」
「そ、それは!あの、えっと、その…」
口篭るルキアを見て、一護は何とも言えない愛おしさを感じる。
「なぁ、ルキア………」
一護が優しく語りかける。真っ直ぐにルキアを見つめて。
呼ばれてルキアも一護を見つめ返した。
「これからどっか行くか?」
それを聞いたルキアは微笑みながら言った。
「いや……もう少しこうしていたい。……ダメか?」
「………いいぞ」
一護もまた微笑んだ。
二人の間に心地よい時間が流れる。
「一護」
一護の髪を撫でながらルキアが呼ぶ。
「なんだ?」
それまで目を閉じて髪を撫でられていた一護が目を開けた。
開かれた一護の瞳をジッと見つめてルキアは淡い笑みを浮かべて言った。
「好きだよ」
それを聞いて一護はうっすらと微笑んだ後、手を伸ばしてルキアの頭を引き寄せた。
「俺も好きだ」
一護はルキアの唇にそっと口付けた。
やりましたよ!私!!
やっと甘いイチルキを書くことができました(感涙)
気分的に砂糖を十袋一気に飲み込んだ気分です。
私の中ではかなり甘い作品です。乙女モードです。
頭の中を乙女モードにするために、乙女系の曲を聴きまくりました。
でも私、あまり乙女な曲を持ってないんですよね。
私の部屋にあるCDの半分以上は化学反応ですから。
私、化学反応の二人が好きなんです。かなり。とっても。
でも男性の曲だから乙女になれない。
昔、友人に借りてダビングした乙女の曲を引っ張り出しました。
乙女の曲はカワイイですね〜♪
up 07.03.17
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