俺の彼女



「おお!さすが黒崎!!ほとんど終わってるじゃん」
「参考にちょっと見せてくれよ」
「…お前ら、俺のを写すつもりだろ?絶対貸さねぇ」

公立の図書館の片隅でボソボソと交わされる会話。一護は眉間にいつもより皺を寄せながら、図書館に来たことを後悔していた。

「課題くらい自分でやれよ………」

一護は溜息をついて、偶々会った大学のクラスメイト二人に言った。
いつもなら、一護は家で課題をしていたが、今回は家で課題ができる状態ではなかった。
家の近くで工事があり、その音がうるさくて課題に集中できなかったのだ。課題を早く終わらせたい一護は、図書館に行くことを決めた。
それをルキアに伝えると、「私も今日は短大の友人と出掛けるのだ」と言った。
というわけで、本日二人は別行動をとっている。

「いいじゃん!ケチケチすんなよ〜」
「そうだそうだ!!」
「………………」

さらに言い募ってくる二人にキレそうになるのを、ここは図書館、ここは図書館…と自分に言い聞かせて一護は我慢した。
悪い奴らではないとは思うのだが、あまり関わりあいたくないタイプであった。自分たちでやろうとせず、人のを写そうとするのだ。ちなみに一護はそういうのが一番嫌いである。
一護は取りあえず無視することにした。

「お!?無視かよ?ひでぇなあ」

クラスメイトの一人が言った時だった。
ブブ……と、胸ポケットの中に入れていた一護の携帯が鳴った。一護は携帯を出して開く。するとメールが一件届いていた。
メールを見た瞬間、一護は突然立ち上がり帰り支度を始めた。少し慌てた様子にクラスメイトたちは驚く。

「どうしたんだよ、黒崎?」
「急用ができたから帰る」

それだけ言うと、一護は早歩きでその場を去って行った。その様子をクラスメイトたちは首を傾げて見ていた。



図書館を出て、一護は辺りを見渡した。そして門の所に探していた人物を見つけて思わず声を出した。

「ルキア!」

呼ばれて振り返ったルキアは一護の姿を見つけると、満面の笑みを浮かべた。その表情に思わずドキリとしながら、一護はルキアの元に走った。

「どうしたんだよ。友達と出掛けてたんじゃなかったか?」
「さっきまで一緒だったのだがな、急用ができて別れたのだ。そうしたら図書館が近かったからな。一緒に図書館にいようかと思って」

一護の質問に、ルキアはほんのり頬を赤く染めながら答える。
いつもだったら可愛いな…と思うのだか、今日はそう思えない。なぜなら図書館にはクラスメイトがいるから。彼らにルキアを見せたくない。
一護はルキアの腕を掴み、そのまま門を出ようとした。

「一護?」

ルキアが不思議そうに首を傾げて一護を見つめた時だった。

「黒崎!誰だよ、その子!?」
「もしかして、お前の彼女??」

一護の様子がおかしかったので、訝しく思ったクラスメイトたちが後を追って来たのだった。
二人の出現に思わず額に手をあてた一護。ルキアは一護とクラスメイトたちを交互に見ながら首を傾げていた。

「お前に彼女がいるってのは噂で聞いてたけど、本当だったんだな!?」
「しかも、すっげぇ美少女!!はじめまして!俺たち黒崎のクラスメイトです!よろしくね」
「あ…はじめまして。朽木ルキアです」

いきなり二人から覗き込まれてビックリするルキア。それでも律儀に笑顔で挨拶をするのは、朽木家の教育の賜物というか………
一護としては、ルキアが愛想笑いとはいえ、自分以外の男に笑顔を向けているのが嫌だった。

「じゃあ、俺たち急ぐから………」

そう早口で告げて、ルキアの腕を掴んでその場を去ろうとしたが「まぁまぁ」と二人に引き止められる。

「そう急ぐなよ〜」
「彼女も一緒にどこかでメシ食わねぇ?彼女にはいろいろ聞きたいこともあるし」
「え…でも………」

ルキアは困ったように微笑む。一護はイライラしながら二人に言った。

「俺たち本当に急いでるから」
「何でだよ。俺たち友達だろ?彼女紹介してくれよ」
「ついでに彼女の友達紹介してくれよ〜」

どう考えても、ルキアやその友達目当ての二人の言動に、一護は頭の中で血管が切れる音がしたように思ったが。

「申し訳ありませんけど、お食事はご遠慮させて頂きますわ」

ルキアの声がその場に響いた。思わず三人はルキアを見た。
ルキアは笑っていたが、その笑いが作り笑いであることに一護は気付いた。ルキアが作り笑いをする時、それはルキアが怒っている時だった。長い付き合いの中で一護が学習したことだった。
そんなことを知らない二人のクラスメイトは、笑いながらルキアに言った。

「そんなこと言わないでよ」
「そうそう。悲しくなるじゃん」

そのままルキアに向かって手を伸ばしてきた。思わず一護はルキアを背後に庇おうとしたが、ルキアの一言でクラスメイトたちの手が止まった。

「はっきり言って、迷惑なんです」

一護は思わず目を瞠った。クラスメイトたちも呆然と立ち尽くした。
ルキアはそんな二人にさらに微笑んで言った。

「先程から急用があると言っているのに、自分たちのことばかり考えて…迷惑かけているというのがわかってないのですか?」
「あ…いや…それは」
「そんな他人のことを考えない方に、大事な友人を紹介するつもりはありません。失礼します」

「では…」とルキアは二人にお辞儀をすると、一護の腕を逆に引っ張ってその場を去った。
一護も呆気にとられたが、言われたクラスメイトたちは、さらに呆然として一護とルキアが去って行くのを見ていた。



「おい、ルキア」

しばらく呆然として、ルキアに引っ張られるまま歩いていた一護だが、ようやく状況を把握できるようになり、ルキアに声をかけた。
呼ばれたルキアは、何だという感じで一護を見つめる。その瞳は怒っていた。
一瞬、固まってしまった一護だが、自分に対して怒っているのではないし…と思い、話を続けた。

「お前…あんなこと言っていいのかよ?」
「別に構わん。もう会うこともないだろうし」
「いや…俺は夏休みが終わったら毎日会うんだけど………」
「何だ、貴様。あのような輩しか友がおらぬのか?」
「違う!別に友達ってわけじゃねぇけど………」

根本的に、揉め事が嫌なんだよ…と一護は思ったが、言うとルキアに馬鹿にされそうなので言わなかった。
するとルキアは溜息をついて言った。

「私はああいう輩が一番嫌いなのだ」

その言葉にどことなく重みを感じて、一護はルキアを見た。するとルキアは悲しげな表情をしていた。
ビックリして思わずルキアに手を伸ばした一護だが、掴む前にルキアの方が一護のシャツを掴んだ。

「私のことなど何とも思ってないクセに、利用しようと近付いてくるヤツが嫌なのだ………」

それを聞いて一護はハッとした。朽木家に養女として入って以来、ルキアはかなり辛い目にあったということを思い出した。
朽木家では、ルキアを養女に迎えた理由を知らない者たちから、白哉の亡くなった妻・緋真に似ているだけと冷たくあしらわれ、片身の狭い思いをしてきたらしい。
そうかといって護廷十三隊に行っても、ルキアの特別待遇を妬む者たちから陰で悪口を言われ続けていたらしい。
それを一護に教えてくれた恋次も、ルキアが朽木家に養女に行ったことで距離を置いたらしい。それはルキアのことを思っての行動だが―――
それでもそれは、ルキアにとっては辛い日々だったのだろう。今、自分のシャツを掴んで俯くルキアを一護は何とも言えない思いで見つめた。
微かに肩を震わせているルキアを痛ましく思いながら、一護はルキアをやんわりと抱きしめた。
抱きしめられたルキアは、一瞬身体を跳ね上げたが、すぐに一護の背中に手を回した。一護はそんなルキアの頭を撫ぜながら言った。

「辛い思い…してきたんだな」

ルキアはパッと一護を見上げたが、すぐに一護の胸に顔を埋めた。背中に回した手でシャツをギュッと握りしめる。
一護はしばらくの間、ルキアの頭を撫ぜ続けた。



しばらくして落ち着いたルキアが、恥ずかしそうに帰ろうと言ったので、二人は家路についた。
その途中で、一護はふと思ったことを口にした。

「そういやお前、さっきは思いっきりあいつらに言い返してたよな」
「そうか?私は正論を言ったつもりだが?」
「いや…正論と言えば正論なんだけど…なんと言うか」

口篭る一護。そんな一護をルキアはイライラしながら見つめた。

「その…あのさ」
「何だ、一護!?はっきり言わぬか!!」

なかなか言わない一護にとうとうキレたルキア。そんなルキアに驚きながら、一護は徐に口を開いた。

「いや…お前、どんなに悪口言われても黙って聞いてたって恋次から聞いてたからさ。あんなふうに言い返すとは思わなかったんだよ」

バツが悪そうに言う一護をルキアはしばらく見つめた後、クスクスと笑い出した。

「何で笑うんだよ!?」

笑われてしまったことに、顔を真っ赤にして怒る一護。ルキアは目に涙を浮かべながら笑い続ける。
あまりにルキアに笑われるので、とうとう一護は顔を背けた。そんな一護を可愛らしく思いながら、ルキアは一護の腕を掴んだ。

「私が言い返すようになったのは、貴様の影響だぞ。一護」
「ハイ?」

そんなことを言われて、一護は目を瞠った。ルキアはまたクスクスと笑いながら一護に言った。

「あの日。現世で貴様に出会って一緒に過ごした数ヶ月で、私はかなり変わったぞ。というより、本来の自分を取り戻したな。だから貴様には感謝している」
「あ…そうか」

そんなことを言われて、一護は今度は違う意味で顔を真っ赤にする。
ルキアはそんな一護に意地悪く微笑みながら言った。

「まぁ…これからも貴様とは思いっきり言い争いをするつもりだがな」
「………そうかよ」

一護はウンザリしたように肩を落としながらそう呟いた。
その様子をルキアは楽しそうに見つめていた。



それは、一護が「俺の彼女は最強だな」と思ったお話。







捏造シリーズ第三弾!!連載を除いてですが。
今回は前二作に比べてそこまで甘くないかな〜と思ってます、ワタクシは。
実は最初に考えていた話とかなりかけ離れた話になっています(笑)
最初はもうちょっとベタベタ甘なお話だったのですが、何故かこのような話に。
まだまだ切ないネタ祭から離れることができない管理人です☆
今度は最初から最後まで甘くしてあげたいと思います!!
このシリーズを書くのは大好きですvv
でも、以前のシリーズ話を読んで思ったこと。
このシリーズって、絶対他の誰かが出るんですよね。
一護とルキア、二人きりじゃない(笑)
糖分は他よりも高めだと言うのに………



up 07.08.12

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