それは初めて見る表情だった。


その笑顔が全てを物語っていた



初めて会った時は、その無愛想さに怖いと感じて。
でも見た目と違って、わからないところを丁寧に教えてくれて。
困ったことがあると、助けてくれて。
本当は優しい人なんだな…と思った瞬間、私は恋に落ちていた。



「朽木さん!」
「はい?」

私はクラスメイトの朽木さんに声をかけた。同じクラスと言っても、一緒に行動をしたことはなかったけど。
滅多に話さない私から声をかけられたからか、朽木さんは不思議そうに首を傾げながら私を見た。
小柄で華奢な彼女は、女の私から見ても可愛いと思える子だった。雰囲気も、育ちのいいお嬢様みたいな感じで。
だから彼女の噂を聞いた時は正直驚いた。でも今は、その噂を利用してでも彼女と話したい…そう思ってしまうほど私は焦っていた。

「あの…何でしょうか?」
「あ!ごめんね」

なかなか話しかけてこない私に困惑したのだろう。朽木さんがおそるおそるといった感じで私に話しかけてきた。
急いで謝ると、朽木さんは「大丈夫ですよ」と笑う。その優しそうな笑顔にどこか安心して、私はおもいきって尋ねてみた。

「朽木さんって、○○大学に彼氏がいるんだよね?」
「ええ…まぁ」

訝しげに答える朽木さん。当たり前だ。滅多に話さない相手から自分の彼氏のこと聞かれるんだもの。警戒するに決まってる。

「不躾なこと言ってごめんね?実は朽木さんにお願いがあって…」
「お願い?」

それを聞いて朽木さんは眉間に皺を寄せた。だから私は続けて言った。

「私と一緒に○○大学まで行ってほしいの!!」

私の唐突な願いに、朽木さんは大きな目を更に大きく見開いて驚いていた。



「実はバイト先に気になる人がいて、その人が朽木さんの彼氏と同じ大学なの」
「そうなんですか」
「それでね、どうしてもその人に告白したくって…でも、一人で他の大学に行くのってなんだか恥ずかしくて」
「だから私に頼んだんですね?同じ大学に彼氏がいるから」
「ごめんね?」

私が謝ると、朽木さんはニッコリと微笑んだ。その笑顔に私はドキリとした。本当に、彼女は可愛い。
こんな可愛い彼女の彼氏って一体どんな人なのだろう?きっと素敵な人に違いない。

「その気になる人って、どんな方なんですか?」
「………へ?」

物思いに耽っていた私は、朽木さんの質問に数秒遅れて反応する。
顔を上げると、朽木さんは興味津々といった感じで私を見つめていて。彼女でもこんな表情をするんだなぁ…と思ってしまった。
私の中で朽木さんは、どこか近寄りがたい綺麗な人形のようなイメージがあったから。

「最初はね、無愛想でなんだか怖い人だなって思ったの」
「無愛想なんですね」
「でもね、わからないところとか丁寧に教えてくれるし、困った時は助けてくれるし。ああ…本当は優しい人なんだなって」
「そして好きになったんですね」
「うん」

「素敵ですね」と朽木さんは笑う。つられて私も笑った。

「朽木さんの彼氏はどんな人なの?」

私も朽木さんに質問した。だって私だけ好きな人について語るなんて恥ずかしい。
自分が質問されるなんて思わなかったのだろう。朽木さんは目を瞠って驚いていた。でもすぐにニッコリと笑う。

「一緒ですよ」
「一緒?」

私が首を傾げると、朽木さんは一つ頷いた。

「不器用で無愛想で、でも本当は優しい。そういう人です」

そう語る朽木さんは、今までで一番綺麗な表情をしていた。



「ああ…なんか緊張してきた」
「頑張ってください」

校門の所で、私は彼を待った。緊張で胸がドキドキして苦しい。そんな私を朽木さんは何度も励ましてくれた。
時々、視線を感じて私は顔を上げた。すると男子学生の数名が私達を…というより、朽木さんを見ていた。
女の私でも可愛いと思う彼女は、男の人には本当に魅力的に見えるのだろう。朽木さんの彼氏は苦労してるんだろうな…と思わず笑ってしまった。

「どうしたんですの?」
「ううん。なんでもない」

突然私が笑いだしたから、朽木さんは首を傾げる。私はそれに笑って答えてから校舎に目を向けた。すると。

「あ、あの人!」
「え?」

朽木さんも校舎に目を向ける。私は失礼だとは思いながら、指をさして説明した。

「あの人!あそこにいるオレンジの髪の人!」
「あ………」

こっちに向かって歩いてきている人、黒崎一護くん。ずっと気になってる人。
朽木さんは黒崎くんを見ると、何故か彼に背を向けた。どうしたのだろう?苦手なタイプだったのだろうか?

「どうしたの?朽木さん。大丈夫?」
「ごめんなさい…大丈夫です」

大丈夫と朽木さんは言ってるけど、顔が真っ青だった。無理矢理ついて来てもらったから、私は申し訳なくなった。
ムリに今日じゃなくてもバイト先で会える。その時に告白すればいい。他のバイトの人たちに見られるかもしれないと思うとちょっと恥ずかしいけれど。
とにかくどこか休憩できる場所…そう思っていた時、聞き慣れた声が耳に届いた。

「なにしてるんだ?」

振り返ると、黒崎くんが立っていた。もしかして、私に気付いて声をかけてくれたのだろうか?
嬉しい。嬉しいけど、気分が悪そうな朽木さんが気になって素直に喜べない、私はどうしようかと迷った。その時。

「珍しいな。お前がウチの大学に来るなんて。ルキア」

黒崎くんは、今まで見たことないような笑顔で私達を…違う、朽木さんを見ていた。そして気付く。
ルキア…それは朽木さんの下の名前。黒崎くんは今、朽木さんの下の名前を呼んでいた。とても親しげに。
私は朽木さんを見た。彼女は真っ青な顔のまま、どうしようかと悩んでいるようだった。

「オイ…無視かよ、ルキア」

黒崎くんの低い声が響く。バイト先で時々同じ声を聞くけれど、少し違う。どこか優しい響きがある。
朽木さんは何も言わない。顔を真っ青にしたまま黒崎くんに背を向けている。
その時、黒崎くんが大きく溜息をついた。

「…ったく、そんなに無視するんだったら、今日デザートに白玉作ろうと思ったけどやめた」
「ダメだ!!」

それまで黙っていた朽木さんが、突然黒崎くんに向かって叫んだ。

「この前、私は貴様にチョコレートケーキを作ったんだぞ!!今度は貴様が私に白玉を作る番だ!!」
「やっと…こっち向いた」
「……え?」

朽木さんが目をパチパチと瞬かせる。それを見て黒崎くんは嬉しそうに笑った。
あぁ、そうなんだ。朽木さんの彼氏は、黒崎くんだったんだ。
バイト先でも彼は笑うけど、あんな笑い方はしない。あんな慈しむような、愛おしい者を見つめるような笑い方はしない。
朽木さんも。普段はお嬢様な感じなのに、黒崎くんと話してたあの時は普通の女の子みたいだった。

「朽木さん!」
「あれ…?アンタ」

私はおもいきって朽木さんに声をかける。すると反応してくれたのは黒崎くんの方だった。私を見てビックリしている。

「ちょっとここの大学に用があったから、彼氏がいる朽木さんについて来てもらったんだけど、まさか黒崎くんが朽木さんの彼氏とは思わなかった」

私は二人に向かって笑った。
朽木さんの顔が強張ってる。なんか…悪いことしちゃったな。

「私の用事は終わったから、帰るね。朽木さん、また明日!黒崎くんは次のバイトでね!!」

そう言って、私は二人に手を振った。

「なんだ…?アイツ」
「……一護」
「ん?」
「あまり…女子に優しくするな」
「は?」



二人の姿が見えなくなった所で、私は立ち止まる。深呼吸をして乱れた息を整えた。

「ちゃんと…笑えてたかな?」

胸が苦しい。でも、不思議と辛くはなかった。
大好きな黒崎くんと仲良くなった朽木さん。そんな二人と関われて良かった…と思う。
確かに、告白する前にフラれる形になってしまって、ちょっと悲しいけれど。でもそれでもいいと思った。
だって大好きな二人が幸せそうだから。それで充分。

「明日、朽木さんに謝ろう」

そして、これからも友達でいてね…って言おう。







お久しぶりねのイチルキ捏造シリーズです。
どうも最後に書いたのは去年の7月みたいです、WAO!!!
一応、拍手とかルキアの誕生日で書いていますが、ちゃんとここに載せたのはホント久しぶり;;;

今回のお話は、かれこれ一年以上前にお姉様にアドバイスしていただいたネタです(笑)
メモしていたことをすっかり忘れてて、最近見つけて読んだら書きたくなって…(´V`)
珍しく第三者視点のお話です。
このルキアのクラスメイトは、その後ルキアの大親友になると思います。
一護は無自覚に女性キラーです(笑)
こんな感じでルキアをヤキモキさせればいい…!



up 09.04.12

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