Happy Merry Christmas!



12月1日の朝。

「暫く井上のアパートから大学に行くから」
「「「「はい?」」」」

バッグを二つほど抱えてリビングに入ってきたルキアの一言に、ダイニングテーブルで朝食を取っていた黒崎家の全員が、声を揃えて首を傾げた。
ルキアは彼らの様子を気にすることなく椅子に座り、「いただきます」と丁寧に挨拶をして箸を手にした。
いつもと変わらない態度のルキアに困惑しながら、一心と遊子と夏梨が一護に目を向ける。向けられた一護も眉間に皺を寄せて首を横に振った。

「えー…っと、お兄ちゃんとケンカでもしたの?お姉ちゃん」
「は?」
「オイ、人聞きの悪いことを言うなよ。遊子」

恐る恐る、一番ありえそうな理由を聞いてみた遊子。しかしルキアの反応は首を傾げるだけ。その横で一護が不服そうに眉間に皺を寄せていたが、誰も反応しなかった。

「じゃあ、なんで織姫ちゃんの所から大学に行くの?ウチからあまり距離変わらないじゃん」
「ああ、それはだな、その……」

遊子の代わりに夏梨が尋ねると、ルキアにしては珍しく歯切れの悪い返事が返ってきた。

「ルキア?」

不思議に思った一護が声をかける。すると。

「井上の手伝いだ」
「手伝い?」
「そう。井上にちょっと手伝ってほしいことがあるから…と言われてな。夜遅くまでかかりそうだし、日数もあるから」
「織姫ちゃんちで一緒にやるの?」
「まぁ…そういうことになるな」

ルキアと妹達の会話を聞きながら、一護は胸に何か引っかかるものを感じた。
『そういうことになる』ということは、織姫のアパートで手伝いをする…という意味に取れないような気がすると思ったのだ。

「どのくらいかかるの?」
「二週間くらいと言われたかな」
「じゃあクリスマスまでには間に合うね!」
「そうだな」

クリスマスは家族全員でパーティーができるとわかって、遊子と夏梨は嬉しそうに笑う。
一護もクリスマスは家にいるのならいいか…と気にかかったことは追求せずに、止まっていた食事を再開した。



一週間後。

「そういえばさ、ルキアに何を手伝わせてるんだ?井上」
「へ?ああ…」

学食で不本意ながら石田と一緒に昼食を取っていた一護は、後から石田を探してやってきた織姫にずっと気になっていたことを尋ねてみた。
織姫は眉間に皺を寄せながら、人差し指を口元にあてて考え込む。暫くして「実はね…」と真剣な表情で一護を見つめた。

「クリスマスプレゼントを作るのを手伝ってもらってるの」
「クリスマスプレゼントを?」
「そう!今年は皆にクッキーを配ろうと思って!でも失敗したくないからお料理上手の朽木さんに手伝ってもらってるの」
「じゃあなんで二週間も前からプレゼント作ってるんだ?」
「え!?そっ、それは…美味しいのをあげたいから練習したいのと、出来上がったのをラッピングするのに時間かかるでしょ!?」
「一体、何人にあげるつもりだよ……?」
「えっと…たつきちゃんとか、高校の時の友達とか、クラスの友達とか、黒崎くんと茶度くん……もちろん、石田くんにも!!!」

ほわりと石田に微笑みかける織姫。石田も笑い返していたが、その笑顔が引きつっていたことに一護は気付いていた。

(井上は舌は壊滅的だからな………)

何をどうしたらこんなものが…というような料理を作る織姫。その度に毒見…もとい味見をしている石田の胃が時々心配になってくる一護。
今回はルキアが一緒だから大丈夫だろうと思いながら、ルキアが織姫の家に行ってる理由がわかってなんとなくホッとした一護だった。



クリスマス前の最後の日曜日。

「今日は井上と買い物に行ってくる」
「買い物って、おまえらプレゼントの準備はできたんじゃなかったのか?」

お気に入りのワンピースを着て、いそいそと出かける準備をしているルキアに一護が尋ねる。
するとルキアはニッコリと微笑んでソファに座っていた一護の額を指で弾いた。

「イテっ!何するんだよ!?」
「お互い、嫉妬深い彼氏を持っているからな。時々解放されたいのだよ」
「なっ……!?」
「ではいってくる。夕飯までには帰るから」

クスクスと笑いながら出て行くルキア。残された一護は顔を真っ赤にしていて、その姿を見た夏梨は思わず噴出してしまった。

「一兄は、一生ルキ姉に勝てないね」
「………うるさい」

悔しそうにプイっと顔を背ける一護を見て、夏梨だけだなくキッチンで皿洗いをしていた遊子も笑い出した。



12月24日。

「毎年思うのだが、クリスマスとは面白い祭だな」
「祭…確かに祭だけど、何か違うような気がする」

家族でのクリスマスパーティーが終わり、一護の部屋で二人は紅茶を飲みながらゆっくりと過ごしていた。

「それにしても、親父達はうるさかった」
「そうか?賑やかで良いではないか?」
「賑やかすぎるんだよ、ウチは………」

心底嫌そうに呟く一護にルキアは「そこがいいのだよ」と言って笑う。
確かに静かなクリスマスよりはいいのかもしれないと思いながら、一護は紅茶を飲んだ。

「そういえばお前、遊子たちに何をあげたんだ?」
「ん?クリスマスプレゼントのことか?」

先程、妹達にプレゼントを渡しているのを思い出して一護は尋ねてみた。
プレゼントをもらった妹達は大変喜んでいて、ルキアも嬉しそうに微笑んでいた。

「遊子にはコサージュとやらを。夏梨にはニットの帽子をあげた。ちなみに親父殿にはハンカチだ」
「親父にもあげたのかよ」

妹達には用意していたが一心のことなど考えていなかった一護は、ルキアの心配りに感心する。
たまには自分も一心にプレゼントを用意した方がいいだろうかなどと考えていると、ルキアがチラリと一護を見た。

「どうした?気分でも悪いのか?」

はしゃぎすぎて疲れたのだろうかと、一護は心配そうに覗き込む。ルキアはふるふると首を振った。
そして一護の服の裾をギュッと握りしめると、ニッコリと微笑んだ。

「メリークリスマス」
「え?」

スッと目の前に差し出された箱。一護はその箱とルキアを交互に見る。
なかなか一護が受け取らないので、ルキアは呆れたように溜息をつくと一護の右手に箱を置いた。

「貴様へのクリスマスプレゼントだ」
「………ええ!?」

箱を見つめて呆然としていた一護は、我に返った瞬間叫んでしまった。

「俺にも用意してくれてたのか!?」
「当たり前ではないか!貴様、私を何だと思っている!?」
「え、いや、だって…お前、お金は?」

死神であるルキアは、現世のお金を大学に通うために必要な分くらいしか持っていない。
過去のクリスマスプレゼントもソウル・ソサエティで買ってきたものだった。それはそれで珍しくて遊子たちは喜んでいたが。
しかし、今回遊子たちに渡したプレゼントは現世の品物だった。何故、さっき聞いた時に気付かなかったのだろうと思う。

「それはあとで説明するから。とりあえず開けてみろ!」
「あ、ああ」

有無も言わさないその雰囲気に逆らえないと感じた一護は、すぐに箱を開けた。中から出てきたものは―――

「腕時計……」

銀色の腕時計。カチコチと心地よい秒針の音が聞こえる。
ジッと見入っていると、ルキアが口を開いた。

「医者は時計が必需品と聞いたのでな。貴様、腕時計を持っていなかったから」
「ありがとう。でも、高かったんじゃないか?ていうか、金はどうしたんだよ?」

一護は再度尋ねた。

「バイトをしたのだ。井上に相談したら、ちょうど井上のバイト先が短期のアルバイトを募集してるというので、そこでバイトをした」
「バイトって、お前」
「現世の物を買うのだから現世のお金でないとな。兄様のお金を使うのは嫌だったし、自分のお金で買いたかったから」

そう言って、ルキアは幸せそうに微笑む。一護は嬉しくなってルキアを抱きしめた。

「ありがとう。大事に使う」
「うん」
「なんか、悔しいな」
「悔しい?」
「先を越されて」

一護の腕の中でルキアは顔を上げる。すると、複雑な表情をした一護と目が合った。

「メリークリスマス、ルキア」

一護はルキアの左腕を手に取ると、その手首に花の形のモチーフが付いたブレスレットをつけた。
ルキアは手首を上げて目の前にブレスレットをかざす。

「綺麗だな」
「気に入ってもらえて良かった」
「ありがとう、一護」
「どういたしまして」

そっと、ルキアは一護の頬にキスをする。それに応えるように一護もルキアの額にキスをした。



「ところでお前、なんのバイトしてたんだ?」
「本屋だ」
「へぇ〜」
「何故かやたらと『本がどこにあるかわからない』と聞かれてな。配置の悪い本屋なのだろうかと思ったくらいだ」
「……それって、聞いてきたのは男?女?」
「圧倒的に男が多かったな」
「ルキア…次にバイトする時は浦原商店でバイトしろ」
「は?」

キョトンと首を傾げるルキアに向かって、一護は大きな溜息をついて項垂れた。







ネタが思いついた時に書かなくては!と思って頑張りました。
久しぶりの捏造シリーズ。今年はもう書けないと思っていたクリスマスネタです。

兄様は現世にいるルキアに必要最低限の仕送りしかしなさそう…と思った瞬間浮かんだネタ。
ソウルソサエティのお金はあっても現世のお金は持ってないルキアさん。
でも、一護のために腕時計を買いたい。なのでバイトして買ってみた…と(笑)
そしてさり気なくバイト先でモテていたルキアさん☆
一護さんの悩みは尽きません(*´V`*)

捏造シリーズは書いててとっても楽しいですww
時間があったらまた書きたいと思います!!!



up 09.12.06

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