大人なのか子どもなのかわからない貴方に、私は………
一生勝てない気がする
最近忙しいな…とルキアは思っていた。死神の仕事に学校生活。だいぶ慣れてきたとは思っていたが、ここに来て疲れが溜まっていたらしく熱を出してしまった。
流石と言うべきか、ルキアの異変に一番に気付いたのは医者である一心で、すぐに遊子に体温計を持ってくるように言い、熱を計った。結果は39℃の高熱。
ルキアはそのままベッドへ強制送還となった。
「私、買い物に行って来るけど何か食べたいものある?」
「ん…特に何も………」
「じゃあ何か果物買ってくるね」
水や体温計を近くの机に置いてルキアに笑いかける遊子。「ちゃんと寝ててね?」と声をかけて部屋を出て行った。
途端に静寂に包まれた部屋。そういえば、今この家には自分しかいないのだということを思い出す。
土曜日で学校は休み。夏梨は友達とサッカーをすると言って出かけた。
一心は往診に行って来ると、ルキアを診た後に家を出た。
そして一護は………ルキアが一心に診てもらってる間に出現した虚を倒すため家を出てから、まだ帰ってきてなかった。
(かなり手強い相手なのだろうか?風邪などひいてなかったら、一緒に戦えたのに………)
自分の今の状態を情けなく思い、ルキアは唇を噛んだ。
そうしているうちに薬が効いてきたせいか、ルキアはゆっくりと目を瞑った。
カチャリ…とドアが開く音がした。遊子が帰ってきたのだろうか…とルキアは目を開けた。
「あ。起きたか?」
「………一護?」
上から自分を見つめている一護と目が合う。
「虚は…退治できたのか?」
「ああ。それより熱はどうなんだ?」
そっとルキアの額に手をのせる一護。くすぐったくて、ルキアは目を閉じた。
「だいぶ下がったみたいだな」
「ああ。多分薬が効いてきたのだろう」
「良かったな。じゃあコレ食える?」
ガサガサと一護がビニールの袋をあさる。中から出てきたのは色鮮やかな………
「りんご?」
「帰りに遊子に会ってな。まだ買い物の途中だから先にコレを持って帰ってお前に食べさせろって渡された。お前、何も食べてないって?」
「だって…体がだるくて何も食べたくなかったんだ」
眉間に皺を寄せて自分を見つめてくる一護の瞳から逃げるように、ルキアは顔をそらして答える。
一護は小さく溜息をつくと、持ってきた果物ナイフでりんごの皮を剥き始めた。その手際の良さに思わずルキアは感心する。
「慣れてるな」
「まぁな。お袋が死んだ後、メシ作ったりとかしてたからな」
「………そうか」
しまった…とルキアは思った。平然と答えているが、一護にとって母親の死は辛いものであったから。
居た堪れなくなって俯いていると「できたぞ」という一護の声が聞えた。ルキアはゆっくりと顔を上げ、一護を見る。そして一護が持っている皿を見て目を瞠った。
「一護…それは?」
「ん?りんごだけど?」
「………うさぎの形をしてる」
「お前、うさぎりんご初めて見たのか?」
一護が意外だと言わんばかりに目を見開く。本当のことなのでルキアは一つ頷いた。
「こうやって作るんだ」
そう言うと、一護は器用に皮を剥いてうさぎりんごを作った。そしてルキアにそれを差し出す。
「かわいい………ありがとう」
小さなうさぎりんごを受け取ると、ルキアは嬉しそうに微笑んだ。
そんなルキアを見て一護も微笑んだが、すぐにいつものように眉間に皺を寄せ、からかうように言った。
「遊子と夏梨が小さい時にも作ってやって二人とも喜んでたけど、お前も喜ぶとかホントお子様だな」
「なっ………!」
勿体無いな…と思いながらうさぎりんごを口に運ぼうとした時にそんなことを言われて、ルキアは一護に目を向ける。
すると一護は意地悪く笑っていて、からかわれていると気付いたルキアは頬を膨らませた。
「お子様で悪かったな!」
ルキアはプイっと顔をそむけ、そのままうさぎりんごに齧りつく。
その横で一護がククク…と笑っているのが聞えて、ルキアはますます腹が立った。
「ルキア」
「………」
「おい、ルキア」
「………」
「なんだよ。無視する程怒ってるのか?」
「………当たり前だ」
漸く、自分がルキアの機嫌を損ねたことに気付いた一護はルキアに話しかけた。しかしルキアは本気で怒っているようで、会話を続けようとする気配がない。
困ったな…と一護は思うが、ふとりんごが視界に入った。
「俺が悪かった。お詫びにうさぎりんご作るから」
「………貴様にはやらないからな」
ルキアの答えにりんごを剥こうとしていた一護の手が止まる。何だかんだ言いながらうさぎりんごを気に入ったのだな…と思うとなんだかルキアが可愛くなってくる。
もそもそと一護が作ったうさぎりんごを口に運ぶルキア。そのルキアの唇を見つめながら、一護はルキアに話しかけた。
「おいしいか?」
「ああ。おいしい」
「じゃあさ…うさぎりんごも作ったんだし、俺にごほうびくれよ」
「ごほうびって…貴様、先程お詫びとか言ってなかったか?」
「一番最初に作ったうさぎりんごへのごほうびだよ」
「ああ。そういうことか」
何故か納得してしまったルキア。それを見て一護は心の中でほくそ笑んだ。
「ごほうびって何をすれば………んんっ!?」
一護に尋ねようとした時、突然顎をつかまれたルキア。何だと思った時にはすでに一護に唇を塞がれていた。
ポスポスと一護の胸を叩く。だが風邪で弱っているルキアの腕の力では一護を引き離すことはできない。
長いキスの後、漸く解放されたルキアは潤んだ瞳で一護を睨みつけた。
「一護…!貴様……!!」
「なぁ、ルキア。知ってるか?」
ルキアの睨みは一護には効いてないらしく、逆に嬉しそうに笑っている。そのうえ、飄々とルキアに話しかけるからルキアは拍子抜けしてしまった。
とりあえず質問されたから…とルキアは口を開いた。
「何をだ?」
「風邪って人にうつすと早く治るんだぜ。こんなふうに」
そう言って一護はルキアに今度は軽めのキスをした。
一瞬呆けてしまったルキアだったが、キスされたことに気付いて顔を真っ赤に染める。
「いちっ………」
「ただいま〜お姉ちゃん大丈夫?」
ルキアが叫びかけたその時、部屋のドアが開き遊子が入ってきた。
「あれ?顔赤いけど、まだ熱あるの?」
「いや。さっき計ったら下がってた。ちょっと部屋が暑いのかもな」
「あ。お兄ちゃん、りんご持って帰ってくれてありがとう」
何事もなかったかのように遊子と会話する一護。そんな一護を見てルキアは絶句する。焦っているのは自分だけなのか?と思うとくやしくなってきた。
遊子が机に目をやる。そこには一護が作ったうさぎりんごが置いてあった。
「うわぁ〜お兄ちゃんのうさぎりんご、懐かしいねぇ」
「昔、お前たちが風邪ひいた時も作ったもんな」
「うん!これ食べたら風邪なんてすぐ治るって思ってたんだ〜」
楽しそうに昔語りをする二人。そんな二人に気付かれないようにルキアは小さく溜息をついた。
大人みたいに優しく接してくれてるかと思えば、子どもみたいにからかう一護に、自分は一生勝てない気がすると思いながら。
風邪ネタ第二弾(笑) イチルキ編です。
ヒバピンに続き、イチルキも風邪ネタです。そしてこの後にUP予定のリョ桜も風邪ネタ(笑)
別に狙ったわけではありません。気がついたら風邪ネタだったのです(´V`)
最近、当サイトの一護は強めな気がします。何故だろう?ルキアが強い方が好みなんですが。
本当は背景をうさぎりんごにしたかったのですが、なかったので全く関係のない背景にしてみました。
うさぎりんごの背景があったらそれに変えようと思ってますが………
うさぎりんごはありませんが、かわいいりんごの背景を見つけたので変えてみました(10/18)
久しぶりのイチルキ駄文。楽しんで頂けたら幸いですww
up 08.09.06
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