―――健やかなる時も病める時も―――
The kiss of the oath
次の日の授業であてられるのが分かっていたのに、その日に限って辞書を持って帰るのを忘れてしまった。
辞書がなければ予習することができない。確か一心が辞書を持っていたはず…と、一護は一心の部屋に向かった。
本棚の前に立ち、辞書を探す。目当てのモノを見つけ取り出そうとした時、隣の本に手が引っかかって、数冊床に落としてしまった。
「ヤバ………」
しゃがみ込んで本を拾おうと手を伸ばした一護。しかし、とあるモノが目に入りその手を止める。
一瞬見ていいものかと考えた一護だったが、好奇心の方が勝ってしまい、それを手に取った。
「へぇ……?」
そう呟くと、彼にしては珍しくほんのり微笑みながら手に取ったモノをじっくりと眺め始めた。
『親父のとこから辞書を借りてくる』
そう言ったきり部屋に戻ってこない一護が気になったルキアは、一心の部屋に向かった。
最初は、一心に捕まってケンカでもしてるのだろうかと思ったが、数時間前に、往診に行くと言って出て行ったきり一心は帰ってきていない。
辞書が見つからないのだろうかと首を傾げながら、ルキアは一心の部屋のドアを開けた。
「一護。辞書が見つからないのなら一緒に探そう……か?」
ドアを開けて中を覗き込んだルキアは、一護の姿に目を瞠って驚いた。
「何をやっておるのだ?一護」
そこには床に座り込んで本を見ている一護がいた。
「あ……悪りぃ。ちょっと面白いもの見つけてさ」
「面白いもの?」
「お前も見てみるか?」
おいでおいでと手招きをする一護はどこか楽しそうで、めったに表情を崩さない一護ゆえに、ルキアはそんなに面白いのだろうか…と思いながら一護の元へ行った。
一護の横に座り、ちょこんと首を傾げて本を覗いてみる。そこには………
「親父殿……?」
「……と、お袋だ」
本と思っていたモノ。それはアルバムで、中には若かりし頃の一護の両親の写真が貼られてあった。しかも。
「これは、結婚式か?」
「お?よくわかったな。ウェディングドレス着てるのに」
「ウェディングドレスくらい知っておるわ!ちゃんと現世の勉強をしているのだから!!」
頬を膨らませて怒るルキア。一護は「悪い悪い」と謝るが、クスクスと笑い続けていて謝っている気配がしない。ルキアはプイっと顔を横に向けた。
ウェディングドレスのことは知っている。現世のことを勉強した時にその存在を知った。
着物を着ない結婚式があるのだな…と同時に、ウェディングドレスの美しさに見惚れてしまった。ほんの少しだけ、着てみたいな…と思った。
チラリと写真を見る。写真の中の一護の母親はウェディングドレスを着て微笑んでいた。隣にいる一心も嬉しそうに笑っている。
「全く……何やってんだか」
写真の中の父親が、友人と飛び跳ねている写真を見て一護は苦笑する。それを見てルキアもクスリと笑った。
他にも母親をお姫様抱っこしている写真やブーケトスの写真など、楽しそうな写真がたくさん貼ってあった。
「一護、最初から見てもいいか?」
「ん?ああ、いいぞ」
アルバムが途中からであったことに気付いたルキアは、初めから見たいと一護に頼んでみた。あっさりと許しが出たので、ルキアは一護からアルバムを借りる。
そして一ページ目を開いた。
先程とは打って変わり、厳かな表情をしている一護の両親。ただ、白いベールを被っている母親の表情は薄っすらとしか見えないが。
厳かな写真が暫く続いた後に開いたページで、ルキアは目を瞠って驚いた。
「一護!!?」
「何だ!?いきなり叫ぶなよ」
横で突然叫ばれて驚く一護。睨みつけるようにルキアの方に顔を向けた…が、ルキアが顔を真っ赤にしてアルバムを指差しているので首を傾げた。
「貴様の両親は何をしているのだ!?」
「何って………?」
わけがわからず、先程とは反対側に首を傾げながらルキアの指の先を見る。
「キス……してるな」
「何故キスをしておるのだ!?これは結婚式なのだろう!!?」
ルキアが指差してる先には、キスをしている両親の写真があった。
「あー…これも結婚式の一環というか」
「これも式の中に入っているというのか!?」
「まぁ、そうだな。何ていうか、キスする前にお互い誓いをたてるんだよな」
「誓い?何の?」
ジッと一護を見つめるルキア。そこまで詳しくないんだけどなぁ…と思いながら一護は答えた。
「健やかなる時も病める時も…死が二人を分かつ時までだったかな?」
「何だそれは?」
「俺もよくは知らないんだけど、健康な時でも病気の時でもどちらかが死ぬまで相手を愛することを誓うか?って聞かれて『誓います』って言うんだよ」
「ほうほう」
「もっとキレイな言葉があるんだろうけど、そこまではよく知らない」
なるほど…と頷くルキアだったが、最初に感じた疑問が解決されてないことに気付いた。
「それとキスがどう関係するのだ?」
「何て言えばいいのかわかんねーけど、キスは誓いのまとめみたいな感じじゃねーかな?」
神の前で誓ったことを守るための証みたいなものだろうとは思うのだが、どう説明していいかわからず一護は頭を抱える。
しかし、一護の簡潔な説明でルキアは理解できたようで、ニッコリと笑った。
「うん、何となくわかったような気がする。ありがとう、一護」
「いや、上手く説明できなくて悪かったな。詳しく聞きたかったら井上とかに聞くといいかも。女はそういうのよく知ってるからな」
「そうか」
ルキアはアルバムを捲る。
「幸せそうだな」
「え?」
「貴様の両親。最愛の人と共に生きていくことの喜びが、写真を見てるだけで伝わってくる」
「そうだな」
写真の中の両親を見て微笑む一護。早くに二人は離れ離れになってしまうけれど、それまでは本当にお互いを想いあっていた。
自分もいつか、両親のような幸せを掴むことができるだろうか?
楽しそうにアルバムを見るルキアを見つめる一護。するとルキアがクスっと笑った。
「いつか貴様もこんな風に誰かと結婚するのかな?」
「は?」
「その時、私は何をしているのだろうな?祝福してるのかな?」
一護には幸せになってもらいたい。でも、できることなら………
「お前はずっと、俺の側にいるよ」
「え?」
顔を上げる。すると真剣な表情で自分を見つめてくる一護がそこにいた。
何も言えずただ黙っていると、そっと一護が手を握りしめてきた。ドクンとルキアの心臓が音をたてる。
「今までもこれからも…お前はずっと俺の側にいるんだよ。死ぬまでずっと」
ギュッとルキアの小さな手を握りしめる。目の奥が熱くなってきて、ルキアは思わず目を閉じた。
「結婚式でもないのに…何を言ってるのだ」
「別に結婚式じゃなくても、誓うくらいはいいだろう?」
「何に誓うのだ?」
尋ねると、耳元でクスリと笑う声がした。そしてルキアの唇に温かいモノが触れた。それは一護の唇だった。
「お前にだよ。ずっと側にいるから。だからお前もずっと俺の側にいろよ…ルキア」
「いいのか?側にいても」
「お前が離れたいって言っても、俺は手離さないぞ」
「何だ、それは」
呆れたように笑うルキアに一護は微笑む。
「いつか…結婚しよう?親父達に負けないくらい幸せになろう?」
「うん」
コツンと額をあわせて二人は微笑む。
写真の中の両親に負けないくらい幸せそうに。
三周年ありがとうございます!!
ダメダメサイト「六花」三周年を迎えました。
こんな辺境サイトに遊びに来てくださった皆様、ありがとうございます。゚(゚ノД`゚)゚。
これからも地味に頑張っていきたいと思います!!!
結婚式の話をするイチルキのお話を前から書きたかったのですが、なんか微妙な話になってしまいました;;;
しかも最後があっさり終わった感が…orz
相変わらず駄文しか書けない自分に涙です。・゜・(/Д`)・゜・。うわぁぁぁぁん
三周年なので久しぶりにフリーしてみました。駄文なのに(´V`)
文章を変えないでくだされば、どんな風に弄ってもかまいません。
サイト掲載時にはワタクシのサイト名を小さくてもよいので書いてください。
背景のお持ち帰りは二次配布になるのでおやめください。
サイト掲載の報告は自己の判断にお任せしますが、報告していただければ泣いて喜びます!!
フリー期間終了
最後になりましたが辺境サイト「六花」をこれからもよろしくお願いします。
up 10.03.02
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