初めてその白さを見た時、思わず見惚れてしまった。


お気に入りだから



ハァ…と大きく溜息をつくと、目の前の少女の体がビクンと跳ね上がった。
自分が目の前の少女を怖がらせているのはわかっていたが、こみ上げてくる怒りを抑えることができず、一護は少女を睨みつけた。

「痛くなるってのはわかってただろ?」
「………………」
「なんで何も準備してないんだよ」

あきらかに苛立ちを含んだ物言いに、少女は顔を俯かせる。その態度が一護に更なる怒りを与える。

「答えろよ、ルキア」

地を這うような声にルキアは体を震わせたが、恐る恐る顔を上げると、悲しげに呟いた。

「だって…肌が白すぎるのは気持ち悪いのだろう?」
「………は?」

やっと返ってきた答えの内容に、一護は思わずマヌケな声を上げてしまった。



家族で海に来た。
家を出る時から薄着だな…とは思っていた。いつもならワンピースの上にカーディガンかパーカーを羽織っているのに、今日はどちらも着ていない。
ノースリーブのワンピースのため剥き出しになった肩が、気になって仕方なかった。
それでも、さすがに水着の時にはパーカーを羽織るだろうと思っていたのだが、そんな気配はなく。
気が付いたら肩が真っ赤になっていて、急いで一心が準備したパラソルまで戻った。
彼女の考えなしな行動に腹が立ち、先程までのやり取りをしていたのだが………



「えっと…なんで、白すぎるのが気持ち悪いとか言うんだよ?」

さっきまでの怒りを忘れ尋ねてみると、ルキアは自分の腕を見ながらぽつりと呟いた。

「クラスメイトの女子に言われたのだ。『朽木さんの肌って白すぎて気持ち悪い』って」
「は…?何だよ、それ?」

思わず眉間に皺を寄せる一護。普通、本人を目の前にして『気持ち悪い』と言うか…と自分が言われたわけではないのに腹が立つ。
大体クラスの女子といえば、外で体育をしてる時など「日に焼ける」と文句を言ってることが多いのに。
そういえば「色が白い方がいいよね」などと話しているのを聞いたことがある。
そこまで考えて、一護は気付いた。

「ああ…そうか」
「一護?」

一人納得したように一護は頷いているのが、ルキアはわけがわからず首を傾げる。
すると、さっきまで怒っていた人物とは思えないくらいに一護はニッと笑うと、ルキアの頭をポンポンと優しく叩いた。まるで小さな子どもをあやすかのように。
その態度の変化についていけず戸惑っていると、一護は困ったように笑いながら言った。

「ただのやっかみだから気にすんな」
「やっかみ?」
「そ。お前、色白いだろ?だからクラスの奴ら悔しくてそんなふうに言ったんだと思う」
「だが、肌が白いのは気持ち悪いのだろう?何故それを悔しいと思うのだ?」

納得がいかない…とルキアは思う。
『気持ち悪い』と言ってきた女子たちは、どこか蔑むような目で自分を見ていた。羨んでいるようには見えなかった。
そんなルキアの疑問に一護は苦笑しながら答えた。

「気持ち悪いってことはないと思うぞ。だって女はみんな、白くなりたいって言ってるからな」
「へ!?」
「そうだよ。日焼け止めクリーム塗ったり、日傘さしたり、上着を着たり。日に焼けない努力してるだろ」
「そういえば………」

街を歩く女性のほとんどが日傘をさしていたような気がするし、体育の授業の前に織姫たちが日焼け止めクリームを塗っていた。
漸く納得したルキアだったが、新たな疑問が生まれる。何故自分は彼女達に妬まれたのだろうと。

「一護………」

困ったように名前を呼ぶ。その一言でルキアの疑問を察知した一護は、ルキアの腕をそっと掴むと食い入るようにその腕を見つめた。

「お前の肌って、真っ白で綺麗だからな」

初めて見た時、まるで雪のようだと思った。真っ白でどこか透明感があって………綺麗だと思った。
生まれて初めて、女性を綺麗だと思った。

「………一護」
「あ…なんだ?」
「いや……その…」

物思いに耽っていたところに声をかけられて、一護は顔を上げる。すると顔を真っ赤に染めたルキアと目が合った。
目が合った途端、ルキアは恥ずかしそうに俯いた。その様子に一護は首を傾げる。

「どうしたんだよ?」

どうしたのかと尋ねてみたが、ルキアは俯いたまま何も言わない。首筋まで真っ赤に染まっていて、何かに照れているのだけはわかった。

「ルキア?」
「あの……一護…」

暫くしてやっと顔を上げたルキアは、チラチラと上目遣いで一護を見つめた。

「真顔でそんなこと言われると…すごく恥ずかしいのだが」

ん?と首を傾げ、一護は今までのことを反芻する。そして何かに思い当たった瞬間、掴んでいたルキアの腕を離した。

「いや、別に、その、深い意味はないっていうか…!腕掴んでたのも別にそういうつもりじゃないというか!!!」

両手をブンブン振り、慌てて弁解する一護。顔はこれでもかというくらいに真っ赤に染まり、目にはうっすらと涙を浮かべいていた。
その慌てっぷりに、ルキアは思わず吹きだしてしまった。

「落ち着け、一護」

さっきまで慌てていたのは自分だったのに、いつの間にか立場が逆転していることにルキは可笑しくてたまらなかった。
クスクスと笑いながらルキアは一護の手を取ると、ギュッと握りしめた。

「ありがとう」

怒ってくれて。
心配してくれて。
慰めてくれて。
誉めてくれて。

「別に…お礼言われるようなことはしてねぇよ」

プイっと顔をそむける一護。それが照れ隠しだとわかっているから、ルキアは何も言わずただ黙って微笑んだ。



「とりあえず、これで日に焼けたところ冷やしとけ。冷やしておかないとあとで痛くなるぞ」
「すまないな」

家から持ってきたアイスノンを水で塗らしたタオルに包んでルキアに渡す。何かあった時のためにとアイスノンを準備していた遊子に一護は感謝した。
ルキアは肩にアイスノンを乗せると、ほう…と溜息をついた。ヒリヒリとした痛みが冷たさで半減したような気がする。
漸く落ち着いたルキアの様子にホッと胸を撫で下ろすと、一護は立ち上がった。

「痛みが取れるまで冷やしとけよ。俺、遊子たちのとこに行ってくるから」
「ああ」
「時々様子見にくるから、ここから動くなよ。迷子になっても知らないからな」
「そんな…子どもじゃあるまいし」

プゥ…と頬を膨らませてルキアは一護を睨みつける。だがルキアの睨みは効いてないようで、一護はニッと楽しげに笑った。

「ちゃんと冷やしとけよ。お前の白い肌、結構気に入ってるから黒くなったらなんか嫌だからさ」

そう言うと、ヒラヒラと手を振って一護は遊子たちの元へと向かった。
残されたルキアは暫く呆然としていたが、ゆっくりと頬に両手を添えるとそのまま俯いた。



「あやつ……自分がもの凄く恥ずかしいことを言ってることに気付いているのだろうか………?」







5月くらいにネタは浮かんでいたのに、気付いたら8月だったという;;;
似たようなネタでヒバピンはUPして、イチルキを考えてたのですが、途中で放棄してました。
仕事と原稿で忙しくて進まなかったんです………。゚(゚ノД`゚)゚。
いくらなんでもそろそろ纏めようと思って纏めてみました。
原稿からの逃避っていうのも理由にありますが(´∀`)
しかしサイトは字数制限がないので書きやすいですね!!!
それにしても、ほんのりギャグ風味がいつの間にか初々しくなってしまいました(笑)
リョ桜でも似たようなネタ考えてます。いつかUPしたい………

とりあえず、原稿が先ですね。


up 10.08.08

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