僕のオモチャ
あと10分で昼休みも終わり。皆、次の授業の準備を始めている。僕もそのうちの一人。カバンをあさっていると有沢さんの声が聞こえた。
「そうだ!朽木さん。これ受け取ってくれる?」
「まあ。何ですの?………手紙?」
有沢さんが差し出した手紙を首を傾げながら受け取るのは朽木さん。
「何それ〜。もしかしてラブレター?」
そう言って二人の話に割って入ってきたのは本匠さん。彼女の好きそうなネタだ。
「同じ空手部の奴なんだけどね。私はイヤだって言ったんだけど無理矢理押し付けられてさ。全く」
有沢さんは思いっきり嫌そうに顔を顰めた。
「まあまあ。そういう恥ずかしがりやもいるのよ。ところで朽木さん。そういうのはちゃんと見ておいたほうがいいわよ」
「アンタ、自分が見たいだけでしょ?」
すかさず本匠さんにつっこむ有沢さん。僕もそう思うと心の中で相槌をうった。
「そうですわね。読まないのは失礼ですもの」
言って朽木さんは手紙を開ける。横で本匠さんが興味津々といった表情で覗き込んでいた。
「放課後、体育館の裏で待ってます……って書いてありますわ」
キョトンとした表情で内容を言う朽木さん。本匠さんは楽しそうに朽木さんの肩を掴んだ。
「それって告白じゃない!?どうするの、朽木さん?」
本匠さんの気迫に驚いて目を瞠る朽木さん。やりすぎだよ、本匠さん。
「やめなよ、千鶴。朽木さんびっくりしてるじゃん」
助け舟を出す有沢さん。彼女らしいなと思った。
「イヤだったら別に行かなくていいからね、朽木さん。私のことは気にしなくていいから」
有沢さんは自分が紹介したような気がしてるんだろう。すると朽木さんはニッコリ笑って言った。
「行きますわ。こういうことはちゃんとお返事しないといけませんもの」
朽木さんの言葉に有沢さんは申し訳なさそうに「ごめんね」って言っていた。
僕はチラっと横を見た。
いつも不機嫌そうに眉間に皺を寄せている彼。今はそれがいつもより二割増しになってる気がする。さっきの朽木さんたちの話、聞こえたんだろうな。
ちょっぴりイタズラしたくなって声をかけてみた。
「どうするの?朽木さん、告白されるみたいだよ」
すると彼、黒崎一護は僕を睨みつけながら言った。
「俺には関係ねえよ」
無理しちゃって。本当はとっても気にしているくせに。そう思ったけど、殺されたくないので口には出さなかった。
放課後。体育館裏。朽木さんは10分前から待っている。そのすぐ近くの植込みの後ろでは………
「なんでアンタたちがいるのよ」
「それはお互い様じゃない?それに君たちの話を聞いてたら気になっちゃてね」
「盗み聞きしてたの?スッケベ〜」
そんな会話を僕と有沢さん、本匠さんでする。有沢さんはチラリと僕の横を見た。
「まさかアンタまで来るとは思わなかったわ、一護」
「……………」
黙り込む一護をフォローしてあげようと思って僕は口を開いた。
「有沢さん。大事な彼女が他の男に告られるんだよ。彼氏としては気になってしょうがないでしょ」
「俺たちは付き合ってなんかねぇよ!」
そういう否定だけは早いんだから。でも、説得力ないよ。だって目が気になってしかたがないって感じだよ。
「静かに!来たわよ」
口に人差し指をあてて本匠さんが僕たちを睨む。体育館の方に視線を向ければ、朽木さんと男子生徒がいた。
「ごめんね。待たせたかな?」
「いいえ。大丈夫ですわ」
申し訳なさそうに頭を下げる男子生徒に、朽木さんは微笑む。
あーあ。罪作りだね、朽木さん。そんな笑顔を振り撒いたら男は誤解しちゃうよ。現にその人顔真っ赤。
横目で隣を見れば、さらに眉間に皺を寄せている一護。これは相当怒ってるね。そう思っていた時、男子生徒の声が聞こえた。
「くっ、朽木さん!俺と付き合ってください!!」
「お断りしますわ」
一世一代の告白をあの笑顔であっさりと断る朽木さん。彼女、結構鬼だね。
「なっ!何で!?」
「私、誰ともお付き合いするつもりありませんの」
あれ?じゃあ一護とも付き合ってないってこと?そんな感じには見えないんだけどな。すると男子生徒が朽木さんに詰め寄ってきた。
「それって好きな奴がいるってこと?もしかして黒崎?」
「どうしてそう思われるんですの?」
逆に男子生徒に聞き返す朽木さん。意外と強いんだ。
「だって一緒に住んでるって聞いたし、よく二人でいるのを見かけるから…」
「一緒に住んでいるのは家庭の事情ですし、一緒にいるのは家族ですから」
朽木さん、そんなこと言ったら…と隣を恐る恐る見たけど、意外にも一護は怒っていなかった。なんでだろう??
「じゃあいいじゃないか!黒崎みたいな乱暴者より俺の方が絶対いいよ!!」
男子生徒はさらに詰め寄り、朽木さんの肩を乱暴に掴む。僕は君の方が乱暴だと思うよ。
「ちょっとヤバイかも………」
そう言ったのは有沢さん。本匠さんは首を傾げて尋ねた。
「なんでヤバイの?」
「うーん…。アイツさ、いい奴ではあるんだけどぼっちゃん育ちでさ。自分の思い通りにいかないとすぐ手がでるんだよね」
「手が出るって、まさか………」
尋ねた僕に有沢さんは深刻は顔で答えた。
「男だったら暴力。女だったら押し倒す」
思わず全員二人の方を見る。その中で一護だけは至って冷静だ。なんで?彼女の危機なのに。
男子生徒はまだ朽木さんの肩を掴んでいる。だけど朽木さんは困った様子も見せず、凛とした表情で言った。
「黒崎くんのこと乱暴者と仰いましたけど、彼はこんな風に女性が嫌がるようなことはしませんよ」
その表情に彼女の一護に対する信頼が表れている。なんだ。やっぱり二人は思いあってるんじゃん。
じゃあなんで付き合ってないなんて言うんだろう?付き合ってるって宣言すればこんなことにはならないのに。
「なんだよ、それ。俺が乱暴者だって言うのか君は!!」
断られたうえに、乱暴者と言われたからだろう。男子生徒はいきなり大声で朽木さんを怒鳴りつけた。と同時に彼女に掴みかかる。
「危ない!!」
有沢さんは朽木さんを助けようと立ち上がった。でも………
「やめとけ、たつき。今行ったらお前がケガするぞ」
有沢さんの腕を掴んで止めたのは一護。全員驚きのあまり目を瞠った。
「何言ってんのよ、一護!このままほっといたら朽木さんが…」
有沢さんが一護に怒鳴りかけた時。
「がはぁぁっ!!」
男の呻き声が聞こえた。なんだと思って振り返ると、朽木さんが男子生徒の鳩尾あたりに蹴りをいれてるところだった。
一護以外の全員がその場で固まった。朽木さん、見かけによらず強いんだね。
男子生徒が倒れこむ。それを横目で見ながら朽木さんは一つ溜息をついていた。なんか怖いんですけど。
すると一護が朽木さんの方に向かって歩き出した。思わず僕たちもその後に続く。
「オメーにしてはなかなか手を出さないで我慢してたな」
「い…黒崎くん。それに皆さんも。どうしました?」
僕たち、いや、一護を見て朽木さんは安堵の表情を浮かべた。
「口で言えば諦めてくれると思ったのだけれど、なかなか諦めてくれなくて…」
憂いの表情で男子生徒を見つめる朽木さん。そんな朽木さんに有沢さんが恐る恐る尋ねる。
「朽木さんって強いんだね。コイツ、空手の有段者だよ……」
それを聞いて僕と本匠さんはギョッとした。有段者を倒せるほどの実力の持ち主、朽木さん。人は見かけによらないんだね。
「兄に言われて護身術を習ってまして」
ニッコリと笑って答える朽木さん。
「あー。確かに白哉なら言いそう。シスコンだもんな、アイツ」
「そんなことありませんわよ」
なんだか二人にしか分からない会話をさっきからしている。朽木さんのお兄さんを呼び捨てにしてるってことは両方の家族公認の仲?
「そうだわ、黒崎くん。遊子ちゃんに今日の夕飯の材料を買ってくるように言われましたの。行きましょう」
「はぁ?頼まれたのはお前だろ?一人で行ってこいよ」
「一人で重たい荷物を持って帰れと言いますの?ひどいわ。おじ様に……」
「あー!わかったよ!一緒に行けばいいんだろ?わかったから親父には言うな。後が面倒くさい」
ブツブツ文句を言う一護にニッコリ微笑む朽木さん。ああ。もう完璧に二人の世界だね。これで付き合ってないなんて説得力なさすぎだよ、君たち。
そう思いながら、僕はこっそり携帯を取り出し写メを撮った。お互い見つめあって微笑んでいる。うん。いい写真が撮れた。
「悪ぃ、水色。俺ら先に帰るわ」
「お先に失礼します」
「うん。二人とも気をつけてね」
僕は二人に手を振った。良かった。写メを撮ったの気付かれなかったみたい。
僕もそろそろ帰ろうかなと後ろを振り返った。そこにはいまだ呆然としている有沢さんと本匠さん。
「二人とも、大丈夫?」
僕は声をかけてみた。先に反応したのは有沢さん。
「まさか朽木さんがあんなに強いなんて……織姫以上だわ、あの実力」
井上さんも強いんだ。ホント人は見かけによらない。
「なんか、朽木さんのイメージがガラッと変わったわ」
なんとなく残念そうに言う本匠さん。実は朽木さんのことも狙ってた?
「まあまあ、二人とも。いいものあげるから元気だして」
そう言って僕は二人にさっき撮った写メを見せた。
「何コレ〜!!ちょうだいよ、小島!!皆にみせなくちゃ♪」
「うわー。バカップルだわ、こりゃ」
楽しそうに写メを見る本匠さんに対し、バカバカしいとばかりに携帯を覗き込む有沢さん。僕は二人の携帯に写メを送った。
これで明日には全校の半分にはこの写メが行き渡るかな?
ごめんね、一護に朽木さん。二人を使って遊ぶのが今の僕の楽しみなんだ。
だからもう少し僕のオモチャでいてね。
タイトルはアレですが、内容は甘めギャグ。水色視点です。
つまりイチルキは水色のオモチャということなんです。タイトルの意味は。
ルキア嬢は一護のオモチャみたいなタイトルですが。全く違う。
ウチの一護さんはルキアをオモチャにすることなんてできないと思います(笑)
だって私の中の一護さんはシャイボーイですから☆鬼畜になんてなれません!
一護さんはルキア嬢に振り回されてなんぼなんです(鬼)
水色くんは使いやすいキャラですよね。また利用させてもらおう。
関係はありませんが、雨織が書きたくなりました。
イチルキ絡みで制作してみようか検討中です。
あの二人は天然ボケカップルと管理人は勝手に妄想しております。
up 07.03.28
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