あの時深く考えずに行ったことを、後に俺たちは後悔した。


ごちそうさま。



「ところで、なんで俺たちだけなんだ?石田や井上、チャドも呼ばれていいと思うんだけどよ」
「私も、他の者は呼ばないのですか?と聞いたんだがな。松本副隊長が今回は私たちだけと言うのでな」
「ふ〜ん」

そんなことを言いながら、一護とルキアは瀞霊廷内を歩いていた。

「それにしても乱菊さん、俺たちと何を話したいんだろうな……」

一護たちが瀞霊廷にいるのは、乱菊からお茶会に呼ばれたからだ。

「現世の話を聞きたいらしい。よいではないか。貴様もたまには休養が必要だ。楽しもうではないか」

ニコニコと笑いながら答えるルキアを一瞥した後、一護は顔を背けて小声で言った。

「……俺はお前とゆっくり休みを過ごしたかったんだけどな……」
「なんだ?」

一護の声が聞き取れなかったのか、ルキアが首を傾げて一護を見つめてきた。

「べっつに〜」

聞き取れなかったルキアに腹が立ったが、可愛らしく見上げてくる姿に心臓を鷲掴みにされてしまって、一護はぶっきらぼうに答えた。
そんな一護を見て、ルキアはクスリと微笑んだ。

「……今度の休みは二人でどこかに行こうか?一護」
「なんだ。聞いてたんじゃねぇか」
「海が見たいな。海に行こう、一護!!」

ジロリと睨みつける一護に、ニィっと笑ってルキアは言った。
電車に乗る前に白玉あんみつを食べようなどと勝手に計画をたてているルキア。
そんなルキアに一護はフッと微笑み、ルキアの頭に手を置いた。

「とりあえず、今度の休みの計画はウチに帰ってからな。早く乱菊さんの所に行こうぜ」

そう言った後、一護はルキアの頭を撫でた。 優しく自分の頭を撫でる一護にくすぐったそうに笑いながら、ルキアは頷いた。



「いらっしゃ〜い。遅かったじゃない、あんたたち。待ちくたびれたわよ」

十番隊の会議室に着くなり、乱菊が二人に飛びつかんばかりに迫ってきた。

「遅くなって申し訳ありません」
「これでも結構急いで来たんスけど」

丁寧に詫びるルキアに対し、一護は頭を掻きながら答えた。
そんな一護にちゃんと謝れといわんばかりに、ルキアは一護の背中を叩いた。

「いってぇな!何すんだよ、ルキア!!」
「ちゃんと謝らんか!貴様!!」

ギャアギャアとケンカを始めた二人を、乱菊はニコニコと見つめていた。

「はいはい、ケンカはおしまい。折角遊びに着たんだから。それより頼んだの持ってきてくれた?」

乱菊の言葉を聞き、一護は持っていた袋を差し出した。

「持ってきましたよ、ケーキ。てか、なんでケーキなんスか?」
「だって滅多に食べられないんだもの、ケーキ。こういうときに頼まないとね」

ケーキの入った袋を受け取りながら、乱菊が嬉しそうに答える。

「まさか、ケーキを食べるために俺たちを呼んだんじゃ……?」

疑いの目で一護が乱菊を見る。さすがのルキアも思わず乱菊を見つめた。

「やぁねぇ。そんなことないわよ。あんたたちと話したいから呼んだに決まってんでしょ!」

あははは、と笑う乱菊を何となく信じきれないまま、一護とルキアは「はあ」と答えた。



「それにしても遅いわねぇ……何してんのかしら?」

乱菊がお茶の準備をしながら言った。

「日番谷隊長ですか?確かに遅いですね。何かあったのでしょうか?」

乱菊が淹れてくれたお茶を受け取りながらルキアが言う。
そんなルキアに乱菊が目を丸くして言った。

「隊長?今日のお茶会に隊長は呼んでないわよ」
「呼んでない?」

聞いたのは一護だった。

「だって、今日は隊首会議で隊長いないから」
「じゃあ一体誰を呼んだんスか?」

あっけらかんと答える乱菊に、一護が質問した時だった。

「おまたせ〜」

ぽよよんとした声が部屋に響き渡った。

「やちる!?」

入り口に十一番隊副隊長の草鹿やちるが立っていた。よく見ると後ろにも誰かいる。

「伊勢副隊長…?」

訝しげにルキアが尋ねる。そんなルキアに七緒は微笑む。

「お久しぶりです、朽木さん。お元気でしたか?今日は遅れてしまってごめんなさいね」
「いえ、そのようなこと……」

恐縮したように答えるルキアにさらに微笑みかけた後、七緒は一護のほうを見た。

「ちゃんとお話するのは初めてですね。私、八番隊副隊長の伊勢七緒です。よろしくお願いします」
「黒崎一護です。こちらこそよろしくお願いしマス……」

何だかよくわからないまま、一護は挨拶をした。

「さあ〜!お茶会はじめるよ」
「始める!?他にはいないのか?」

開始の掛け声をしたやちるに、一護がすかさず聞く。

「いませんよ。今日のメンバーはこれだけです」

答えたのは七緒だった。

「男はいねぇの?俺だけ?恋次とか呼ばなかったんスか?」
「呼んでないわよ」
次に答えたのは乱菊。

「それに、恋次なんか呼んだら私たちの計画が……」
「計画??」

首を傾げて尋ねるルキアに、乱菊が慌てて手を振る。

「ううん。何でもないのよ!そんなことより早くお茶会始めましょ」

そういうと、乱菊は後から来た二人の分のお茶を淹れる準備を始めた。
なんだか上手く誤魔化されたような気がしながらも、一護とルキアはお茶会に参加することにした。



――いづれぇ――

かれこれ2時間。一護は女だらけのお茶会に参加していた。
最初の方こそ皆で話をしていたが、いつの間にやら女同士の話になっていた。
せめて恋次とかがいてくれたらいづらくなかったのにと思いながら、一護はルキアを見た。
乱菊たちと楽しそうに話しているルキア。
気心の知れた仲間だからだろうか。ルキアはいつも以上によくしゃべり、笑っている。この笑顔を見れただけでもいいかと、一護は微笑んだ。

「大変。折角持ってきてもらったケーキのこと、すっかり忘れてたわ!」

そういって立ち上がると、乱菊は袋の中からケーキを取り出した。
生クリームがたっぷりのったイチゴのケーキ。
おいしそ〜と飛びつくやちるを、今切るから待ちなさいと乱菊が止める。
その様子を一護はぼんやりと眺めていた。

「うまそうだな、ケーキ」

振り返ると、ルキアが一護に微笑みかけていた。
その笑顔があまりにも綺麗だったので、一護は思わず目を逸らしてしまった。

「お前がイチゴのケーキがいいって言ったからな」

目を向けることなく話す一護を気にすることなく、ルキアもそのまま話し続ける。

「だって、イチゴが好きなのだ。甘くて優しい味がして。まるで……」
「まるで?」

止まってしまったルキアを訝しく思って振り返ると、ルキアは顔を真っ赤にして俯いていた。

「ルキア?」

一体どうしたんだとルキアに尋ねようとした時、ルキアが呟くように言った。

「……貴様みたいで。……甘くて優しい、貴様みたいで……好きなんだ」

ルキアのいきなりの大胆発言に、一護は全身を真っ赤にしたまま絶句した。
ルキアもルキアで、自分で言ったことに恥ずかしくなり、さらに顔を真っ赤にしていた。
二人の間に流れる、なんともいえない沈黙。
それを破ってくれたのは乱菊だった。

「ケーキ切れたわよ〜」

乱菊の呼びかけに二人はホッとしながら「はい」と答えた。



「おいしい〜!七緒ちゃん、ケーキおいしいねぇ!!」
「そうですね」

おいしそうにケーキをほお張るやちるに七緒が頷く。
一護とルキアはさっきのこともあり、黙ってケーキを食べていた。
そんな二人の様子をおかしく思った乱菊が声をかけてきた。

「ちょっと。あんたたちどうしたの?さっきは二人で顔真っ赤にしてるし、今は黙ってるし。なんかあったの?」

乱菊のするどい質問に、一護とルキアは同時に食べていたケーキを詰まらせた。

「ゲホッ!べっ、別に何もないッスよ!なぁ、ルキア!!」
「ゴホゴホ!そうです!何もありませんよ!!松本副隊長」
「そ?」

乱菊は二人の説明に納得したようではなかったが、それ以上何も言ってこなかった。
再び黙ってケーキを食べる二人。だが、二人ともどこか焦っていた。

「あー!」

突然やちるがルキアを指差して叫んだ。

「な、何ですか?草鹿副隊長」
「あのね〜、顔にクリームついてるよ」
「ええっ!?」

驚くルキアに「ここ、ここ」とやちるが自分の顔でクリームのついてる場所を教える。
しかし、何故かルキアの手は違う所に行っていた。

「違いますよ。こっちです」

七緒も手助けするがやはりルキアは見当違いの所を拭く。
それを見ていた一護はだんだんイライラしてきた。

「あぁ!もう見てらんねぇ!!ちょっとこい、ルキア!!」

そう叫ぶと、一護はルキアの腕を引っ張った。そして………

ペロッ。

一護はルキアの頬についていたクリームを舐め取った。
一護の意外な行動に副隊長たちは呆気にとられていたが、舐められた当のルキアは……

「すまんな一護。ありがとう」

と、何事もなかったかのように礼を述べていた。
一護のほうも「ガキじゃねぇんだから……」と言いながら再びケーキを食べ始めた。
そんな二人の様子を見て、副隊長たちはニヤリと笑った。



「いや〜。いいモン撮れたわねぇ」
「棚からぼたもちってこういうことを言うんでしょうね」

嬉しそうに写真を眺める乱菊に七緒がうんうんと頷きながら言う。

「あの二人単品でも人気があるけど、こんなのが撮れたら売り上げ二割り増しね!!」

嬉々と喜ぶ乱菊に、奥の椅子に座っていたやちるが言った。

「ね!いっちーたちは絶対いい写真が撮れるって言ったでしょ?」
「本当に。会長の言ったとおりですね」

七緒がニッコリと笑う。

「きっと理事長もよろこぶよ!!」

やちるの言葉に、乱菊と七緒はニヤリと笑った。



数日後。

「黒崎くーん。朽木さーん」

昼休み。屋上で昼食をとっていた一護とルキアの元へ、織姫と石田、チャドがやってきた。

「遅かったな。先に食べてるぜ」

卵焼きをフォークで突きながら一護が言う。

「ごめんね。実はそこで夜一さんに会ってね、これを渡されたの」

織姫が差し出したのは一枚の茶封筒。

「夜一殿から?」

聞いたのはルキアだった。

「そう。なんだろうね?おもしろいぞって言われたんだけど……」

ガサガサと封筒の中を探る。そして中から出てきたものは………

「………………」

茶封筒の中身は、ルキアの頬を舐める一護の写真だった。

「何だよこれはーーー!!」

最初に我に返ったのは一護だった。

「黒崎……よく恥ずかしげもなくこんな写真を撮らせたな」
「撮らせてねぇ!いつ撮られたかもわかんねぇ!!」

ハァと溜息をつく石田に、一護が叫ぶ。

「うわぁ〜。黒崎くんダイタンだね。ね、茶度くん?」
「………ム」

ほわんとした感想を述べる織姫に、チャドが真面目に返事をする。

「井上!チャド!!感想とか言ってんじゃねぇよ!!てか誰なんだ!?これを撮ったヤツ!!」

織姫たちから写真を取り上げ、一護は一体誰に撮られたのだろうと考える。
そんな一護の手から、今度は石田が写真を取り上げた。

「何すんだよ。石田?」
「黒崎。二人とも死神化しているということは、ここはソウル・ソサエティかい?」

石田に言われ、一護はもう一度写真を見た。

「…やられた。乱菊さんたちだ……」

あのお茶会の時に撮られたものだとわかり、一護が「くそーーー!!」と叫ぶ。
そんな一護を見て織姫たちは一斉に溜息をつくと、ボソボソと一護に聞こえないように話し始めた。

「普段もああやって朽木さんの食べこぼしをとるからボロがでるんだよ」
「ねえ〜」
「………ああ」
「一護………」

すると、今まで黙っていたルキアが徐に口を開いた。

「何だよ!ルキア!!」

どうやって乱菊たちに文句を言おうか考えていた一護が叫びながら振り返る。

「これって、もう兄様の目に届いているだろうか………?」
「………………」

再び流れる沈黙。



一護はこの日、二度と乱菊たちのお茶会には行かないと心に決めた。








管理人の中に何かが降りてきました。
駄文の神様が降りてきました。
まとめたい話があるのに、それをほっといて制作。
リョ桜で書いたおべんとうのイチルキ編。
似たようなお話を書いている方がいらっしゃったらすみません。
やはりギャグ方向に行きました。一護さん、ごめんね……
それにしても、女性死神協会ネタは使えますね(笑)
あの写真はネムさんが撮ったんですよ。
技術開発局の最新カメラを使って(笑)
カラブリ単行本にならないかなぁ……
次こそは甘い話を書きたいと思います。



up 07.03.10

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