このままずっと、君と歩いていきたい。


キミのトナリはボクのモノ



それは啓吾の一言から始まった。

「たまにはみんなで一緒に帰ろうぜっ!!」
「はぁ?」

ビシッと親指を立てウィンクをする啓吾に俺は思いっきり顔を顰めた。

「だーかーらー。みんなで帰ろうって言ってんの!大勢で帰るのは楽しいぞ!!」
「ガキじゃねぇんだから一人で帰れよ」

素っ気なく言ってみたが、そんなことでは諦めない啓吾がさらに俺に言い寄ってきた。

「そんなこと言うなよ〜。いろんな奴誘ったんだぜ。水色にチャドだろ、井上さんに有沢。それと……」
「まだいんのかよ………」

指を折りながら一緒に帰るメンバーの名前を言う啓吾に俺はつっこんだ。
すると啓吾は体をクネクネさせながら、顔をだらしなく緩めて言った。

「朽木さん!!」

その言葉を聞いた瞬間、俺の動きは止まった。

「勇気を振り絞って誘ったんだぜ!そしたら、あの美しい笑顔で『いいですわ』だって!はぁ〜。可愛かったなぁ、朽木さん」

うっとりと、その時のルキアを思い出している啓吾を俺はイライラしながら見つめた。
啓吾はそんな俺の様子に気付くことなく言った。

「それで。一緒に帰るか?一護!!」



「いや〜大勢で帰るのって楽しいっすよね!そう思いません?朽木さん!!」
「そうですわね。今日は誘ってくださってありがとうございます。浅野君」

心底嬉しそうに話しかける啓吾に、ルキアは満面の笑みで答える。

「浅野。あんたみんなと一緒に帰りたいなんて言っておきながら、本当は朽木さんと帰りたかっただけじゃないの?」

たつきが眉間に皺を寄せながら言う。俺もその通りだと思った。

「そっ、そんなことないぞ!井上さんとも一緒に帰れて俺は幸せっすよ〜」
「え?私??」

いきなり話題をふられてキョトンとする井上。
啓吾の可愛い子目当ての行動にたつきは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに溜息をついていた。
俺は今、啓吾が言ったメンバーと一緒に帰っている。
先頭を歩いているのはたつきと井上。時々後ろを振り返って声をかけてくるが、殆ど二人で話している。
後ろを歩いているのは俺と水色、チャドの三人。
やはり殆ど三人で話している。というよりは、水色とチャドの二人が話しているのを俺は聞いているだけだ。
なぜなら………
俺のすぐ目の前を歩いているルキアと啓吾のことが気になって、会話どころじゃなかったから。

「――というわけなんっすよ」
「あら、そうなんですの?おもしろいですわね」

何か啓吾は面白いことを言ったのだろう。ルキアは鈴を転がしたような綺麗な声で笑う。
なんだかイライラする。
楽しそうに笑っているルキア。同じく楽しそうに、そして当然のようにルキアの隣を歩いている啓吾。
それだけなのに、腹が立つ。

―――何なんだ、コレ……?―――

わけのわからない感情に俺は困惑した。こんなことは初めてだ。

「気になるんでしょ?」

考え込んでいた俺の耳に、水色の声が聞こえた。

「は?」

よく聞き取れなかったので聞き返すと、水色はやれやれといった顔で俺を見る。

「だから、朽木さんと啓吾のことが気になるんでしょ?二人のトコに行ってきたら?」

心の中で思っていたことを当てられて、俺は焦ってしまった。

「なっ!なんで俺がアイツらのこと気にしなきゃなんねぇんだよ!」

動揺のあまりどもってしまった俺に対し、水色は余裕の微笑を浮かべる。

「無理しなくてもいいんだよ。一護がさっきから二人のこと気にしてるのわかってたから」
「な……なんで……」

わかったんだと俺が聞く前に、水色が楽しそうに言った。

「だって、さっきからもの凄い形相で啓吾のこと睨んでるんだもん。ね?チャド」
「………ム」

同意を求められたチャドがあっさり頷く。
俺は口をパクパクさせながら二人を見た。かなりマヌケな顔だったと思う。
そんな俺を見て水色はクスクスと笑う。

「一護のそんな顔、めったに見られないよね。貴重だな」
「………確かに」

チャドもそう言って肩を震わせている。

「お前ら〜〜〜!」

俺は二人を睨みつけた。でも顔が赤くなっているのが自分でもわかっていたから、説得力はないだろう。

「それはともかく」

そう言って、いきなり水色が真面目な顔で俺を見つめてきた。
俺は次に何を言われるのだろうと、思わず身構えてしまった。

「今は相手が啓吾だからいいけど、一護、ちゃんと周りに示しておいたほうがいいよ」
「示す?何を?」

水色の言ってる意味がよくわからない。困惑する俺に珍しくチャドが説明をしてくれた。

「朽木と付き合ってるってことだ」
「………………」

確実に数秒間は止まっていたと思う。

「んなわけねぇだろう!!!」

思わず叫んでしまった。いや、叫ばずにはいられなかった。
俺があまりに大声で叫んだからだろう。前を歩く四人がビックリした顔で俺を見ていた。

「どうしたんだよ、一護?」
「黒崎くん大丈夫?」

心配そうに話しかけてくる啓吾と井上。それに対して呆れた眼差しで俺を見ているたつき。
そしてルキアは………
俺の顔を不思議そうにジッと見ていた。



「じゃあ私たち買い物して帰るからこの辺で」

一番最初に別れたのはたつきと井上。新しくできた店を見に行くらしい。
ルキアも一緒にどうかと誘われていたが、断っていた。

「今日はあまりお金を持っていませんの。また今度誘ってくださいな」

確かにお前、こっちの金は持ってないもんな。何か買うときはいつも俺が金出してるもんな。
次は行くみたいなこと言ってるってことは俺に金出させるつもりだな。
ああ、さっきから頭の中がグルグルして考え方が変になってる気がする。

「良かったね。一護」

水色がまた俺に話しかけてくる。これ以上コイツのオモチャにされたくなかったので、俺は無視を決め込んだ。
次はチャド。なんか用事があるらしい。いつもより早めに別れた。
最後は啓吾と水色。

「朽木さーーん!!ここでお別れなんて淋しいッス!」

啓吾は泣きまねしながら叫ぶ。いや、実際泣いているのかもしれない。
俺が呆れていると、啓吾はキッと目をち吊り上げて睨んできた。

「くそ〜〜!羨ましいぜ、一護!!俺も朽木さんと二人きりで帰りたい………」

そう言って啓吾はまたにニヤケた顔をして体をクネクネし始めた。
ルキアと一緒に帰ってるところでも想像してるんだろう。全く、お気楽な奴だ。
俺は思わず溜息をついた。

「はいはい。わかったからもう行くよ」

水色がそう言って歩き始める。それを啓吾は慌てて追いかけた。

「待てよ〜水色。何急いでんだよ」
「ぼく、これからデートだから早く帰りたいんだよね」

それを聞いた瞬間、啓吾が俺に飛びかかってきた。

「聞いたか、一護!!デートだから早く帰りたいだって。羨ましいーー!」
「ソウデスネ。ウラヤマシイデスネ」

俺は適当に答えた。正直どうでもよかったから。

「置いてくよ」

水色は啓吾を置いて先を行く。すると突然立ち止まり、俺の所に走ってきた。

「一護」

俺に向かって軽く手招きする水色。一体何だと思いながら俺は水色の所に行った。
すると水色は俺にしか聞こえないような小さな声で言った。

「二人きりになったからって突っ走っちゃダメだよ。女の子は雰囲気を大事にするからね」

天使のような微笑を浮かべる水色。
女を虜にするであろうその微笑が、俺には悪魔の微笑にしか見えない。

「じゃあ一護、朽木さん。また明日」
「朽木さん、また明日〜〜♪じゃあな、一護」」
「さようなら」

爽やかに去る水色といつまでも名残惜しそうに手を振る啓吾に、ルキアはにこやかに手を振っていた。
そして俺は、何とも言えない疲労感を感じていた。



「一護。さっきから黙っているがどうしたのだ?具合でも悪いのか?」

二人きりになってから黙り込んでいる俺をおかしく感じたんだろう。ルキアが心配そうに話しかけてきた。

「なんでもない。ただ疲れただけ」

ただ家に帰るだけでこんなに疲れたのは初めてだ。
眉間に皺を寄せる俺にルキアは首を傾げる。

「貴様。みんなと帰るのは嫌なのか?」
「嫌ってわけじゃないけど………」

水色に弄られるのが嫌なだけだ。後は別に何とも…いや、啓吾がちょっとウザイか。
俺が考え込んでいるとルキアがクスクスと笑う。

「まぁ、それなりに楽しかったけどな」
「……お前は啓吾と楽しそうに話してたもんな」

思わず、低い声で唸るように言ってしまった。そのことで水色にからかわれてしまったのだから。
いきなり不機嫌になった俺に驚いたのか、ルキアは大きな眼を瞬かせていた。

「なんだ?貴様、私だけ楽しんだのが悔しいのか?」
「そんなんじゃねぇよ」

なんだか見当違いなことを言っているルキアに俺は頭が痛くなってきた。

「でも、私は貴様と二人で帰るほうがいいけどな」
「………は?」

ルキアの突然の告白?に俺は驚いて足を止めてしまった。
いきなり立ち止まった俺を怪訝そうに見つめながら、ルキアは続けて言った。

「他の者と話すのは現世のことを知るいい機会だが、疲れるのだ」
「疲れる?……ああ、猫かぶりしてるもんな、お前」

皮肉も込めて言ってみたが、ルキアには思いっきり無視された。
かわりにルキアが言ったことは………

「貴様と二人きりのほうが落ち着くのだ。だから今日はなんだか疲れた」

言ってルキアは歩き出す。俺は顔が熱くなるのがわかった。
何故かはわからないが、とても嬉しいことを言われたような気がする。

「ルキア!」

先を行くルキアに声をかけ、俺は走って側まで行った。

「なんだ?」

大きな瞳で俺を見つめてくるルキア。
俺はそれを他の奴に見せたくないと思ってしまった。

「明日は誘われても断って二人で帰るか?」

ニッと笑った俺を見て、ルキアはほんの少し目を瞠った。そして言った。

「そうだな」

その後のルキアの笑顔はとても綺麗で、俺は柄にもなく胸をときめかせてしまった。



この気持ちがなんなのかよくはわからないけど。
ルキア。お前の隣は俺のものだって思ってもいいか?







乙女な一護のお話です。恋が始まる一歩前みたいな。
時間的には死神代行編の頃です。なので雨竜でません。
次はルキア嬢視点で何か書きたいな。
なんか一護ばかり好きで不公平な気がして………
これを書くのに久しぶりに1巻〜5巻を読みました。
一護とルキアがメチャクチャ高校生してるな〜と思いました。
ノリはこの頃がいいですね。明るい感じで。しかも同棲(萌え)
でも読んでいて気付いたこと。
コンの存在を忘れてました、管理人(苦笑)



up 07.03.22

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