だって言葉で言い返さなければ、私は貴方に流されてしまう。
そうなったら………もう後戻りできなくなる。


理論武装の恋



痛い………とルキアは思った。



ルキアが一護に死神の力を渡してから数ヶ月。一護の部屋の押入れに住みつき、一護のサポートをしながら過ごしていた。
最初はやる気のなかった一護もだんだん自覚が出てきたのか、ちゃんと死神の仕事をこなすようになってきた。
口喧嘩は絶えなかったが、それすらルキアは心地よく感じていた。だけど………

最近、一護が自分を見る目がどこか真剣で怖い…とルキアは思っていた。
あの瞳に囚われたら。応えたら。もう後戻りできない………そんな気がしていた。

今日もいつものように、ルキアは一護の部屋の窓から家に入った。

「ただいま……一護?」

部屋に入ると、先に学校を出たはずの一護はいなかった。一緒に帰っていた浅野たちとどこかで遊んでいるのだろうかとルキアは首を傾げる。
それと同時に、ほんの少しだけルキアは胸を撫で下ろした。一護と二人きりでいることが怖かったから。
先程、一護の部屋に入る前にルキアはざっと家の中を確認したのだが、一護の家族は全員出かけているようだった。

「このまま、誰かが家に帰ってくるまであやつも帰ってこなければいいのに」

ポソリとルキアは呟いた。その時。

「俺が帰ってきたら悪いのか?」

突然背後から声をかけられて、ルキアは肩を大きく跳ね上げた。そろそろと首を回して後ろを見る。そこには眉間にいつも以上に皺を寄せた一護がいた。

「お…驚いたではないか!気配を消してくる……な」
「なぁ。何で帰ってこなければいいと思ったんだ?」
「え?……って!一護!!」

驚かされたことに抗議しようとルキアが立ち上がると、一護が近づいて質問してきた。それにルキアが首を傾げた瞬間。一護に両手首を捕らえられ、ルキアは壁に押し付けられた。

「何をする!?一護!!!」
「お前さ…最近俺のこと避けてるだろ?」

ルキアはキッと一護を睨みつけたが、逆に一護が淋しそうな表情で自分のことを見つめていたので驚いてしまった。
数度瞬きをして「一護?」と尋ねてみる。しかし。

「………っっ!!」

突然噛み付くように口付けられて、ルキアは目を瞠った。思わず両手を動かそうとしたが、一護に掴まれた手は動かすことができなかった。
口を塞がれたまま、ルキアは首を横に振って拒否する。すると一護がそっと唇を離した。

「いち………」
「こんな風にされるのが怖いから、帰ってこなければいいのにって思ったんだろ?」

一護の言葉に驚いて顔を上げると、先程とは違い、一護はどこか嘲笑うかのような目でルキアを見ていた。
その目が痛い。ルキアはそう思った。

「そんなことはない。ただ、私だって時々一人になりたいと思う時もあるのだ」
「一人になりたいから、俺が帰ってこなければいいのにって言うのか?」
「そうだ!それに私は貴様など怖くはない!!」

本当は怖いと思っていることを悟られたくなくて、ルキアは強い口調で言った。
しかし一護は楽しそうに口元を上げた。そしてそっと掴んでいたルキア両手を離した。

「違う。お前は俺が怖いんだ」
「怖くなどない!貴様のような子どもを何故私が怖いと思うのだ!!?」
「それは俺がお前のことを『女』として見ていることに気付いたからだよ」

「そうだろ?」と一護は続けた。それにルキアは答えることができなかった。どこかでそう思っていたから。一護が自分のことを『女』として見ていること。そして………

「そしてお前も俺のことを『男』として見ている。そうだろ?」
「っっ!!そんなことはない!!私にとって貴様はただの仲間で、それ以上でもそれ以下でもない!!」

ルキアは目を瞠った。何故この男は…と思う。でもここで自分の気持ちが一護にばれてしまったら、何かが止まらなくなる。そう思った。

「貴様は人間の子どもで私は死神。少し死神業を手伝ってもらっているだけ、ただそれだけだ」
「そうやって自分に言い聞かせているんだろ?」
「何を言っている?」
「俺は人間。自分は死神。住む世界が違う。いずれは離れてしまう。だから自分の気持ちにも俺の気持ちにも気付かないようにしてる」

一護はフッと笑った。それが癪に障ってルキアは一護を睨みつけた。

「そんなことはない!私は貴様など好きではない。貴様は仲間。ただの仲間なのだ」

まるで自分に言い聞かせるようにルキアは言った。
そんなルキアを見て一護はクスリと笑った。

「今はそうやって正論を述べてればいいさ。でも…俺の気持ちを知ったんだから、それもいつまで通用するかわからないぞ」

そう言って一護はルキアから離れると、そのまま部屋を出て行った。
一護が部屋を出て行った途端、ルキアはその場に座り込んだ。膝が震えて立てなくなったのだ。

「なら……どうすればいいというのだ?」

応えればいいのか?貴様の想いに。正直になればいいのか?自分の気持ちに?
それはできない。だって自分は死神で、貴様は人間。相容れない存在なのだから。そして私はいつか―――

「貴様の前から消えなければいけないのだから」

その温かな手を取ってしまえば、もう後戻りはできなくなる。だから。



「私はこれからも貴様を拒み続ける」







久しぶりのお題更新です!!
今回のお題も難しかった;;;「理論武装」って一体何なのだろう??
取りあえず、正論を言って迫る一護をかわすルキアという感じで書いていったのですが………
何かお題とかけ離れているような気がします…orz

イチルキでは珍しく、ちょっと痛い感じのお話になってます。偶にこういうのもいいですね(笑)
やたらと強気な一護少年が出来上がって自分でもビックリしています。
久しぶりに初期のころの設定で書いてみました。なんだか懐かしくなりました(´V`)
久しぶりにコミックス読もうかなぁ………



up 08.04.20