偶にはこういうのも悪くないな…と少年は思った。
未経験区域
昼まで退屈な授業が続いていた。授業など聞く気のない雲雀は、読書のため応接室に向かった。
その途中で、雲雀は不審なモノを発見した。中学校なのに、何故か小さな子どもがいたのだ。雲雀はそっと子どもに近付いた。
「君、ここで何してるの?」
「っっ!!」
雲雀に話しかけられた子どもは、文字通り飛び上がって驚いた。同時に声がした方を見る。
「君…確か沢田綱吉のところの………」
振り返った子どもの顔を見て、雲雀はそう呟いた。
沢田綱吉とよく一緒にいる子どもの一人。自分を見ると顔を真っ赤にしてどこかに行ってしまう子どもだった。
今日も勝手にどこかに行ってしまうのだろうか…だったら自分は何もしなくていいな、と雲雀は思った。ところが。
「ココ…ドコ?」
「…………え?」
突然ズボンを引っ張られて下を見ると、必死な顔で自分を見上げている子ども。その表情に驚いて、雲雀は切れ長の瞳を見開いた。
「結局、君は迷子ってこと?」
雲雀が尋ねると、子ども―イーピン―はコクコクと頷いた。
イーピンは雲雀に連れられて応接室にいた。必死になってしがみ付くイーピンを引き剥がすことができなくて、雲雀はここまで連れてきてしまったのだ。
そこで、最近覚え始めた日本語と身振り手振りを交えながら、イーピンは何故並中に来たかを雲雀に説明した。曰く。
―――ランボを追いかけていたら見失ってしまい、挙句、自分がどこにいるのかわからなくなった―――
だった。途方に暮れて歩いていた時、並中の校門が見え、ここなら綱吉がいると思って入った。
しかし授業中で誰も人がいない。さらに途方に暮れていた時に雲雀に会って、思わずしがみ付いてしまったのだった。
「ゴメンなさい………」
焦っていたとはいえ、憧れの雲雀に迷惑をかけてしまったことにイーピンは落ち込む。
そんなイーピンを見て雲雀は溜息をついて言った。
「別に気にしてないからいいよ」
その言葉に、イーピンはさらに肩を落とした。
妙な沈黙が流れた。雲雀は別にそれを気にしてはいないが、イーピンはソワソワと落ち着かない。それを見て雲雀は立ち上がった。
イーピンはビクンと体を大きく揺らし、さらに俯いた。それを横目で見ながら雲雀はあるモノに手をかけた。
「はい」
突然声をかけられてイーピンが顔をあげると、雲雀がテーブルの上にカップを置いた。
驚いてジッとカップを見つめるイーピン。すると雲雀が話しかけてきた。
「紅茶。嫌いなの?」
聞かれてイーピンは首をブンブンと横にふった。急いでカップを手にとり、「ありがとう」と呟いた。
雲雀は何も言わず、自分のカップを手にとって紅茶を飲んでいた。それを見て、イーピンも紅茶を一口飲んだ。
「………好吃」
思わずイーピンは母国語で呟いた。
雲雀が入れてくれたのはミルクティー。ミルクがたくさん入っていて、甘い香りがして………とても飲みやすく、美味しかった。
「今、何て言ったの?」
「?」
雲雀がジッとイーピンを見つめていた。わけがわからず首を傾げるイーピン。先程雲雀が言ったことをもう一度思い返してみた。そして気付いた。
「おいしい…言いました」
「そう。それは良かった」
慣れない日本語で、先程言ったことを雲雀に伝えた。それに雲雀は興味なさげに答えた。
しかしイーピンは、雲雀が紅茶を淹れてくれたり自分が呟いた何気ない言葉を気にしてくれたことが嬉しくて、思わず微笑んだ。
しばらくして、雲雀は読んでいた本から目を離してイーピンを見た。そして目を瞠った。
イーピンはソファの上に丸くなって眠っていた。思わず雲雀は苦笑いをした。
「眠ってたなんて全然気付かなかったよ」
元々、あまり気配を感じさせない子どもだった。自分が本を読んでいる間、邪魔にならないよう気配を消していた。その消し方の上手さに雲雀は感嘆した。
だから雲雀にしては珍しく、イーピンが眠ってしまったことに気付かなかったのだ。
雲雀は肩にかけていた学ランをイーピンにかける。そして苦笑した。
(まさか僕が子どもの世話をするとは思わなかったな………)
正直、子どもは嫌いだからそのまま置いていこうと雲雀は思っていた。しかし、イーピンの縋るような目を見た瞬間、何故かそれができなかった。
とりあえず応接室に連れてきたのはいいが、授業中のため綱吉を呼ぶことは出来ない。
そしてビクビクと怯えるイーピンに、どう対応していいかわからず雲雀にしては珍しく焦ってしまった。
何か口に入れたら落ち着くかもしれない。そう思って出したミルクティー。それを美味しいと言って飲んでくれて、ホッとした。
「とりあえず、しばらくこのまま寝かせておこうか………」
本当は昼休みになったら綱吉を呼び出そうと思っていた。しかしイーピンは眠ってしまった。おそらく迷子になって歩き疲れたのだろう。
雲雀は再び本に目を向けた。イーピンの隣に座って。
「しししししっ!失礼しますっ!!」
「………煩いよ」
ドドドドドという足音と共に、ガラッと大きな音を立てて応接室のドアが開く。そこには息を上げ、青褪めた顔をした綱吉がいた。
あまりの煩さに綱吉を睨みつける雲雀。綱吉はさらに顔を真っ青にした。
授業が終わり、帰るぞ〜と思っていた時、風紀委員から呼び出された。戸惑いながら行ってみると雲雀からの言付け。
『五分以内に応接室に来ないと咬み殺す』
それを聞いた瞬間、綱吉は応接室に向かって走っていた。後ろで獄寺と山本が「どうした?」と言っていたような気がしたが、それどころではないとムシした。
何故雲雀に呼び出されたのかはわからないが、とりあえず咬み殺されたくないので綱吉は自分から切り出すことにした。
「あの…俺に何か用ですか………?」
「コレ。預かってたから」
そう言って雲雀が自分の隣に目を向ける。「コレ?」と思いながら雲雀が目を向けた方に視線を向けた綱吉は、そこにいた人物を見て驚いた。
「えぇっ!?何でイーピンがここにいるの!!?」
「煩いな…起きるでしょ?」
唸るように言う雲雀に驚いて、綱吉は両手で口を覆う。そのままの状態でソファの上で眠っているイーピンを見た。
何故イーピンが並中に?しかも超危険地帯の応接室に。しかも雲雀の学ランをかけて眠っている。綱吉の頭の中はパニック状態だった。
「………ん?」
綱吉の声が聞こえたようで、イーピンが目を擦りながら起き上がった。綱吉は思わずイーピンに駆け寄ろうとしたが………
「おはよう」
雲雀が先にイーピンに話しかけたため、タイミングを逃してしまった。
雲雀におはようと言われ、イーピンは顔を真っ赤にしながらコクコクと頷いていた。そんなイーピンに「おはようくらい言えるようになりなよ」と雲雀は言う。
そんな二人を呆然と眺める綱吉。いつの間にこの二人は仲良くなったんだ!!と心の中で叫んでいた。
「迎えが来たよ」
「ツナさん!!」
綱吉を指さしながらイーピンに告げる雲雀。心なしか笑っているように見えるのはきっと気のせいだと綱吉は自分に言い聞かせた。
そんな綱吉を見て、イーピンは満面の笑みを湛えて綱吉に飛びついた。その笑顔があまりにも可愛らしくて、綱吉はここが応接室だということを忘れてイーピンを抱きしめた。
「イーピン。何で並中にいるの?」
「迷子。助けてくれた」
綱吉の質問にイーピンは簡潔に答えて、そして雲雀を指さした。
雲雀が迷子のイーピンを助けてくれたことに綱吉は心の底から驚いた。思わず雲雀を見る。
「………何?」
「あ!いえ!!あの…ありがとうございました!!イーピンを助けてくれて」
ジッと見つめる綱吉を睨み返す雲雀。綱吉は慌てて礼を言った。それに雲雀はフンと鼻を鳴らした。
「ホラ、イーピンも。ちゃんとお礼言って」
綱吉に促され、イーピンはコクンと頷く。それを無感動に見ていた雲雀だったが………
「ありがとう。ヒバリさん」
愛らしく微笑みながらお礼を言ったイーピンを見て、目を瞠った。
綱吉はそれを不思議に思ったが、とりあえずこの危険地帯から早く脱出しなくてはと思い、イーピンを抱いたまま「失礼しました!!」と応接室から出て行った。
残された雲雀はソファに座って苦笑した。
まさかイーピンが自分の名前を知っているとは思わなくて、名前を呼ばれて驚いてしまった。
「おもしろい子どもだったね………」
自分にしては珍しく面倒を見たと思う。しかもそれが楽しいと思ってしまった。こんなことは初めてだ。
先程、イーピンが綱吉に向かって笑った時、自分にはあんな笑顔は見せないな…と思ってしまった。でも、最後にその笑顔を見せてくれた時は驚いてしまったが。
子どもの世話なんて正直言って嫌いだが、あの子は別だ…そう思いながら雲雀は先程まで少女の体にかけてあった学ランを自分の肩にかけた。
ロ…ロ○っっ!!(自重)
イーピンさんのお誕生日にあたってヒバピンオンリーなお題部屋を開通させたのですが…
あれ?何かおかしいよ…。違う生き物がいるよ;;;
でも開き直ってupします。いつものことですが(苦笑)
「未経験区域」
雲雀さんは子どもの面倒なんて見たことないよ、でも頑張ったよって話を書きたかった。
しかし、できあがったものはどう考えてもロ………(自重)
個人的には中坊ヒバさんは子ピンに優しくて甘やかし〜が理想なのですが………
私が書くとどうもあちらの方向に;;;
ヒバピンは白緋並み(それよりは早いかも)の更新で自分の萌えのために頑張ります(爆)
up 07.11.25
ブラウザでお戻りください