こんなに年が離れてるのに。最後は結局、僕は君に負けるんだ。


年では大勝、恋は完敗



任務でしばらく日本を離れていた雲雀は、約二ヶ月ぶりの恋人をみて溜息をついた。

「君は一体何をしているの?」
「あれ…雲雀さん?何で?」
「何でって、今帰ってきたんだけど」

二ヶ月半近くかかると言われていた任務が、予定より一週間ほど早く終わったので、雲雀はアジトに戻った。
戻ってすぐに草壁からイーピンがアジトの入り口の一つである並盛神社に来ていると聞いた雲雀は、早速イーピンを探したのだが………
雲雀はもう一度大きく溜息をついた。

「だから、君は一体そこで何をしてるの?」
「え?」

眉間に皺を寄せて尋ねる雲雀を見てイーピンはほんの少し首を傾げると、「ああ!」と声をあげる。そしてニッコリと笑いながら言った。

「木登りです」



そんなこと、見ればわかると雲雀は思った。
神社の境内にそびえ立っている大きな木。その上の方にある太い枝の上にイーピンは座っていた。
元々身軽なイーピンなのできっと難なく登ったのだろうけれど、何故木登りをしているのか理由がわからない。
その理由が聞きたくて尋ねたのに、返ってきた答えはそのままの「木登り」雲雀は思わず額に手を当てた。



「だから、僕が聞きたいのは何で木登りをしているのかなんだけど」
「あ、そうですよね。木登りしてるのなんて見ればわかりますよね。ごめんなさい」

見当違いな答えをしてしまったことに気付いたイーピンは、あはは…と苦笑しながら雲雀に謝った。
そしてイーピンは目線をあげ、遠くを見つめながら呟いた。

「この木は神社の中で一番大きいし、神社は高台にあるでしょう?だから見えると思ったんです」
「何が?」

見えるんだと雲雀は首を傾げる。イーピンは雲雀に目を向けることなく語った。

「雲雀さんが。並盛に帰ってきた雲雀さんを見つけることができるんじゃ…って」

言った後、ほんの少し頬を染めて俯くイーピン。その様子に目を瞠って驚く雲雀。
沈黙が流れる。しかしそれは、雲雀の笑い声によって破られた。
お腹に手をあて、アハハと珍しく声をあげて笑う雲雀に、今度はイーピンの方が目を瞠って驚いた。

「雲雀…さん?」

木に登ったまま、イーピンは雲雀に声をかける。
笑いすぎて目に涙が溜まった雲雀は、指でそれを拭いながらイーピンに言った。

「君は相変わらず子どもだね…」

更にクスクスと笑う雲雀。イーピンは顔を真っ赤にさせながら頬をふくらませた。

「子どもですみません!」
「何怒ってるの?」
「雲雀さんが私のことを子ども扱いしたから怒ってるんです…!」
「子どもじゃない」

実際、自分と10歳も離れているのだから、十分子どもなんだけど…と雲雀は思った。思ったが、口に出したら機嫌を損ねそうな気がしたので口を噤んだ。

「でも僕がアジトから出てきたらそこに登って待っても意味がないよね?」
「う…そうですね」

アジトは霧のリングを使って消してある。だから雲雀が帰ってくるところを見ることができないのだ。
項垂れるイーピン。雲雀はそっと溜息をついた。
待ってくれているのは嬉しい。それだけで帰ってきて良かったと思える。子どもっぽい待ち方も笑ってしまったが、実はその行動の可愛らしさに笑ったのだ。
イーピンはからかわれていると思っているようだが。
とりあえず、イーピンの誤解を解かなくてはと雲雀は考えた。

「イーピン」

優しく声をかける。その声音に警戒を解いたのか、イーピンは雲雀に目を向けた。

「おいで」

木の下でイーピンに向かって両手を広げる雲雀。イーピンは首を傾げた。その様子に雲雀は苦笑する。

「降りておいでって言ってるんだけど?そこからなら飛び降りても受け止めることもできるし」
「………えええ!!!?」
「早く」

声をあげてイ驚くイーピンを急かす雲雀。
「うう…」と唸っていたイーピンだったが、暫くして覚悟を決めたのか小さな声で雲雀に尋ねた。

「私…重たいですよ?大丈夫ですか?」
「それなりに鍛えてるから大丈夫だよ。それに君は重くないよ」

あっさりと返された雲雀の返答になんとなく恥ずかしさを覚えながら、イーピンは木の枝に両手をかける。

「じゃあ…行きます、よ?」
「どうぞ」

イーピンは枝から手を離し、雲雀に向かって飛び降りた。
普段ならこの位の高さを飛び降りるなど怖くないのだが、今回は下に雲雀がいると思っただけで恐怖感が湧く。イーピンはギュッと目を閉じた。
ドスンと体に衝撃を受ける。だが思っていたほど痛くなくて、知らずイーピンはホッと息をはいた。その時。

「大丈夫?」

頭上から優しい声がして、イーピンは顔をあげる。そこにはニッコリと微笑む雲雀がいた。

「どこも痛くないです。雲雀さんはどこか痛いところはないですか?」
「別に。僕は大丈夫だよ」

受け止めた時に衝撃はあったが、それ以外は何も異常はない。
ギュッと雲雀はイーピンを抱きしめる。ほっそりとしたそのカラダ。力を込めたら折れてしまうのではないかといつも思う。

「ひ…雲雀さん」

耳元で、遠慮がちにイーピンが囁く。というより、雲雀が抱きしめているから、イーピンの口が丁度雲雀の耳の近くにあったのだ。
雲雀はそのままの状態でイーピンに尋ねる。

「なんだい?」
「あ…あの……そろそろ降ろしてくれませんか?」
「しばらくこのままがいいんだけど」
「ええ!?」

あっさりとイーピンの要望を却下する雲雀。

「じゃ…じゃあ、せめて顔を見せてください」
「ん?別にいいけど」

自分もイーピンの顔が見たいと思った雲雀は、ほんの少しだけ体を離す。
体が離れて安心したのか、ホッと息を吐くイーピン。そしてジッと雲雀の顔を見つめた。

「イーピン?」

見つめてくるだけで何も言ってこないイーピンに、雲雀は思わず声をかける。
するとほんのり頬を桜色に染めたイーピンが、そっと雲雀の頬に手を添えてニッコリと微笑む。それは思わず見惚れてしまうほどの美しさだった。

「おかえりなさい。雲雀さん」

そう言って、イーピンは雲雀の額に軽く口付けた。
一連のイーピンの行動に呆気に取られた雲雀。しばらくして苦笑しながらイーピンに言った。

「ただいま。イーピン」



年は10歳離れてて、僕から見たらまだまだ子どもなのに。
恋に関しては君のほうが上手な気がする。
不意打ちキスだなんて、反則だよ。

でも負けてばかりは嫌だから。いつか君に勝ってみせる。



雲雀はイーピンの頬にお返しのキスをした。







雲雀さんの初恋の相手はイーピンだと思います!!!

そう思って書いた今回のお題です(笑)
初めての恋だから、雲雀さんはどう行動していいかわからないんですよ。
だから奥手なイーピンに先にキスとかされて悔しいなぁとか思うんですよ。
というわけで、付き合い初めの10年後ヒバピン設定です。説明長い;;;

「年では大勝、恋は完敗」結構難しかったです(笑)

二周年記念に連続更新のつもりでUPしようと思ったのに連続にならなくてすみません;;;

up 08.03.07


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