どんなに大人びて見えても、やっぱり15歳の女の子なんだな…と思った。
そんな顔もするんだね
今まで、他人の事など無関心で生きてきたから、こういう時どうしていいかわからない。
とりあえず、今わかっていることは、自分の目の前にいる少女が拗ねているということだけ。それと、自分が怒らせたわけではないということ。
「イーピン」
「…………」
名前を呼んでみたけど反応がない。これは…拙いような気がする。
最近、彼女を怒らせるようなことをしただろうかと考えたけど、特に思い当たることがない。
怪我をすると心配するから、できるだけ傷は作らないようにしてるし、沢田の話を聞かないと怒るから、ちゃんと聞くようにしている。他の奴らの話は聞いてないけど。
怒ってる理由がわからないから謝ることができない。ここは腹を括って本人に理由を聞くことにしよう。
「イーピン。僕はまた君を怒らせるようなことをしたの?」
「………え?」
「もしそうだとしたら、謝るから。だから何故怒ってるのか理由を教えてよ」
「雲雀……さん?」
キョトンとした顔でイーピンが僕を見つめてくる。さっきまで怒ってたのにいつもの表情に戻って、逆に怖い。
思わず身構えていると、イーピンが顔を真っ赤にして僕の腕を掴んだ。
「ひひひ雲雀さん!帰ってたんですか!?」
「………は?」
僕にしては珍しく間抜けな声をあげてしまった。まぁ、彼女しか聴いてないからいいんだけど。
それよりも「帰ってた」って。さっきからずっと目の前にいたのに…声もかけてたのに。気付いてなかったんだ………何か、悩んで損した?
でも、彼女が何に対して怒っているかわからないとスッキリしない。僕はイーピンに尋ねた。
「何かさっきから怒ってるみたいだけど。また君を怒らせるようなことをした?」
僕がそう問いかけると、イーピンは顔を真っ青にして首と手をブンブンと振った。
「ちちち違います!雲雀さんは何もしてません!!したのは………」
「したのは?」
「あー…えーっと」
何故かそこで言葉を詰まらせるイーピン。言い難い相手なんだろうか?
「イーピン」
少し強めに彼女の名前を呼ぶ。するとピクリと彼女の体が跳ね上がった。その姿を見て、ほんの少しだけどイライラした。
自分が彼女を怒らせたわけではないということはわかった。だけど、僕を悩ませた相手がわからないのはとても腹がたつ。
ジッと睨みつけるようにイーピンを見る。すると漸く観念したのか、イーピンは重い口を開いた。
「えっと、その……ランボに対して、怒ってるんです」
「雷の守護者に?何で?」
「それは…その」
言い難そうにモジモジしたり、両手を組んで視線を彷徨わせるイーピン。このまま放っておいたら先に進まないまま夜を迎えてしまいそうだ。
「イーピン」
もう一度彼女の名前を呼ぶ。するとイーピンは「うう…」と唸り声をあげながら僕の顔をチラリと見た。
「あの、笑わないでくださいよ?」
「はい?」
「だから、怒ってる理由を聞いて笑わないでくださいね!?」
「ああ…わかった。で?」
「わかった」と言わないと先に進みそうにないから素直に答える。ただし、笑うか笑わないかは話の内容によって決まるだろうな…と心の中で思ったけれど。
僕が笑わないと言って安心したのだろう。イーピンはホッとしたように笑った。
「ランボにケーキを食べられちゃったんです」
「………ケーキ?」
「はい。ケーキです」
ケーキを食べられた?どういうことだ?そんなことを思っていると、イーピンがさらに説明してくれた。
「京子さんとハルさんがケーキを焼いたんです。今日は守護者の皆さんが久しぶりに全員集まるからって」
「ああ…そういえば」
確かに、滅多に本部に行かない僕と霧の守護者…と言っても、骸ではなくクロームだったけど…が珍しく本部に来て、守護者が全員集まった。
沢田綱吉から招集がかかったから行っただけなんだけど。そうじゃなかったらあんな所には行かない。煩いだけだから。
その時『全員揃った記念』とか訳のわからないことを言って、笹川の妹たちがケーキを運んできた。
「そのケーキをハルさんが『イーピンちゃんの分です』って持ってきてくれたんです」
「うん」
「その時丁度課題をしてたから、終わってから食べようと思って冷蔵庫に入れておいたんです」
「うん」
「それで課題が終わって、ケーキを食べようと思ってキッチンに行ったら………」
「行ったら?」
「ランボが私のケーキを食べてたんです!」
ワナワナと手を震わせるイーピン。そんなにケーキが食べたかったのか…とちょっと呆れてしまった。
「楽しみにしてたから悔しくって!だから怒ったんです、私!!」
「それは怒るだろうね」
「それでランボが『まだ会議してないし、その時にケーキが出るだろうからとっておくよ』って言ったんです」
僕は首を傾げた。確かケーキが出てきた時、雷の守護者は………
「なのにランボったら『ゴメン、ケーキ食べちゃった』って言ったんですよ!!!」
そう。彼は一番にケーキに飛びついて食べていた。
「もう私、悔しくって………!」
ううー!と悔しそうに唸るイーピン。そんなイーピンを横目で見ながら、僕はそっと溜息をついた。
とりあえず、僕が彼女を怒らせたわけではないのだな…と思ったら、ホッとして力が抜けた。
それにしても、ケーキ一つでここまで怒るとは。
小さい頃から殺し屋として育てられたせいか、同年代の子どもに比べてどこか大人びていたイーピン。そんなイーピンの意外な一面を見て驚いた。
あんな風に小さな子どものように拗ねたり怒ったりするのだな…と。
彼女の可愛らしい姿を見ることができて嬉しいな…と柄にもないことを思ってしまう。
ただ、彼女にそんな表情をさせたのが自分ではなく雷の守護者だと思うと、ちょっと腹がたつけれど。
「イーピン」
「はい?」
今度は名前を呼ぶとすぐに反応してくれた。それが嬉しくて思わず頬が緩む。
「ケーキ、買いに行く?」
「え?」
「ケーキ食べられなかったんでしょ?だから買いに行こうか」
「いいんですか!?」
ぱぁっと嬉しそうな顔をするイーピン。本当に小さな子どものようだ。
「うん。一緒に買いに行こう」
「ありがとうございます!!」
ニッコリと笑って、僕の腕に掴むイーピン。
10歳も年下の少女に盲目に恋をしてるんだな…と改めて思ってしまった。
とりあえず、イーピンのケーキを食べて、僕を散々悩ませた雷の守護者は後でおしおきをしておこう。
まぁ、彼のおかげでいろんなイーピンの姿を見ることができたから、おしおき程度ですませてあげるんだけど。
本当だったら咬み殺すんだけどね。
ランボさん、逃げて(笑)
久しぶりのお題UP。ていうか、ヒバピン自体が久しぶりのUPだったりする;;;
5月の雲雀さんの誕生日以来とかありえないだろうて。
仕事忙しかったし、リク消化してたし(言い訳)
「そんな顔もするんだね」
イーピンのいろんな表情を見ることができて、ちょっと嬉しかったりする雲雀さんのお話です。
糖度はあるようなないような?とりあえず、ランボさんが危ないです(笑)
雲雀さん視点で書いてみたのですが、難しかったです…orz
up 09.09.23
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