急がなくていいから。ゆっくりでいいから。僕はどこへも行かないから。


ゆるやかに恋をしよう



今日はやけに元気がないな…とは思っていた。本を持ってはいるが読んでる気配はないし、先程から溜息ばかりついている。
雲雀は部屋のソファに座っているイーピンを見つめた。ちなみに雲雀は椅子に座ってデスクワークをしていたのだが、元気がないイーピンが気になって進んでいなかった。
イーピンが本日一番大きな溜息をつく。それを聞いた瞬間、雲雀はイーピンに尋ねていた。

「さっきから溜息ばかりついてるけど…何かあったの?」

ピクリとイーピンが体を揺らす。チラリと目で雲雀を見るがすぐに目を逸らす。そして「何でもありません」と薄く微笑むと、そのまま目を伏せた。
雲雀は溜息をつくと、そっとイーピンに近付き、その頬を包み込んだ。恥ずかしさのあまりイーピンは目を逸らそうとするが、雲雀の強い眼差しが逸らすことを許さなかった。

「何があったの?」

もう一度雲雀は尋ねる。先程より少し強めに。
その口調と、何より雲雀の強い眼差しに逃げることができないと思ったイーピン。大きな瞳はどんどん潤んでいき、涙が溢れ出した。

「ごめんなさい、雲雀さん…ごめんなさい………」
「ちょっと…何で謝ってるの?しかも泣いてるし………」

突然泣き出したかと思ったら、わけもなく謝ってくる。さすがの雲雀もこれには困惑してしまった。
泣きながら只管謝り続けるイーピン。慰めてあげたいが、理由がわからないから慰めようがない。雲雀はもう一度イーピンに尋ねた。

「一体何があったの?」

今度はイーピンが怖がらないように優しく。それが良かったのか、イーピンはそっと顔をあげた。雲雀はニッコリと微笑む。
しかし、その微笑みはすぐに消えた。



今までイーピンは年の差を気にすることはあまりなかった。それが当たり前だったから。こればかりは変えることはできないから。
そして何より、雲雀はイーピンにとって憧れの存在だったから。
年の差を気にするようになったのは、憧れの存在だった雲雀が恋人になってから。
ボンゴレ十代目、最強の守護者。群れることを嫌う孤高の浮雲。そんな雲雀を他の者は恐れていた。
その雲雀が恋人を…しかも少女を側に置いていると知って誰もが驚いた。そして好奇の目でイーピンを見た。
そんな奴らをイーピンは悉く無視、もしくは自慢の武術で撃退していたが、それは男性にだけ。女性は無視はできても武術を使うことはできなかった。
自分たちには何もしてこないと思った女性たちは、陰で…というよりイーピンに聞こえるようにイーピンの悪口を言うようになった。

「ボスの妹のような存在で、ちょっと実力があるからっていい気になって」
「他の守護者たちとも仲良くしてるじゃない。男好きなんじゃないの?」
「あんな子どものどこがいいのかしら?」
「雲雀さんに似合うのはもっと綺麗で大人女性よね」

哀しかった。自分がそんなふうに思われていることもだが、雲雀や他の守護者たちまで悪く言われているような気がして哀しかった。
辛くて哀しくて…陰で泣いていた時、偶々通りかかったビアンキと遊びに来ていたディーノに見つかってしまった。
ビアンキとディーノは驚いたが、すぐにニッコリと微笑んでわけを聞いた。泣きながら話すイーピンを「辛かったわね」と抱きしめるビアンキ。しかし………

「まぁ確かに恭弥とイーピンって見た目は兄妹みたいだよな〜」

とディーノに言われてしまった。直後、ディーノはポイズンクッキングの餌食になってしまったが。
それでも親しい間柄であるディーノからもそう思われていたのだと思うと、イーピンは更に落ち込んでしまった。



「私って、やっぱり雲雀さんの側にいたらいけないんですね…ごめんなさい」
「………………」

一通り話した後、イーピンはそっと目を伏せた。そんなイーピンを雲雀は黙って見つめていたが、腸が煮えくり返るような気分だった。
自分の知らない所でイーピンが傷ついていたことに。自分にわからないように陰で泣いていたことに。
イーピンをそんな目に合わせた奴らに怒りを覚える。ついでに考え無しな跳ね馬にも。
そして、今までそのことに気付かなかった自分にも怒りを覚える。

「………おいで、イーピン」
「雲雀さん?」

暫く考え込んでいた雲雀が、突然イーピンの腕を掴んだ。どうしたのだろう…とイーピンは首を傾げる。
雲雀はイーピンの腕を掴んだまま部屋を出て、ボンゴレ本部の中庭に出た。昼時のせいか、中庭にはたくさんの人がいた。突然現れた雲雀に全員が固まる。

「雲雀さん?どうしたんですか?何で中庭なんかに………」
「イーピン………」

何故中庭に連れて来られたかわからず、イーピンは雲雀に尋ねようとした。しかし雲雀に名前を呼ばれたと同時に………

「ふぁっ…!!」

突然キスをされた。思わず声が漏れる。何故ならこんな深いキスは今までされたことがなかったから。
イーピンは雲雀の胸を叩く。だが雲雀はそれを気にすることなくキスを続ける。むしろどんどんキスは深いものになっていった。
頭の芯がクラクラしてもう立っていられない…とイーピンが思った時だった。

「公衆の面前で何やってるんですか?雲雀さん………」

雲雀はイーピンの唇を放し、声がした方に目を向ける。
そこには困ったように微笑む沢田綱吉とその家庭教師であるリボーン、そしてディーノがいた。

「いいところに来たね。ちょっと協力してくれる?跳ね馬………」
「協力?って俺が?」

ニッコリと微笑む雲雀に何の疑いもなく近付くディーノ。それを見ていた綱吉とリボーンは来るぞ…と思った。

「何をすればいいんだ?恭弥」
「大人しく咬み殺されればいいんだよ…」
「は…?…って……ぐはぁっっ!!!」

凶悪なセリフとともに、構えたトンファーで思いっきりディーノを殴り飛ばした雲雀。
目の前で起きた出来事に、中庭にいた者たちは全員固まる。驚いていないのは綱吉とリボーンだけ。呆れたような表情はしていたが。

「何するんだよ!恭弥!!」

殴られた頬を押さえて立ち上がるディーノ。そんなディーノに雲雀は冷たく微笑んだ。

「イーピンを傷つける奴はね、誰だろうと許さないよっていう見本になってもらったんだよ」

それだけ言うと、雲雀は自分の腕の中で腑抜けになってしまったイーピンを抱えて去って行った。
わけがわからず放心状態のディーノ。そんなディーノに綱吉が声をかけた。

「雲雀さんに何をしたんですか?ディーノさん?」
「………俺は何もしてなーーーい!!!」



「大丈夫?」

部屋に戻った雲雀はイーピンをソファに座らせる。しばらくポワンとしていたイーピンだったが、意識がはっきりしてくると顔を真っ赤にして俯いた。

「どうしたの?顔、真っ赤にして」
「雲雀さんのバカーーー!!」

ニコニコと楽しそうに笑う雲雀をイーピンは睨みつける。だが雲雀は顔色一つ変えない。それどころか「何怒ってるの?」と尋ねてきた。

「あんな大勢の人の前でキ…キ………!!」
「キスしたこと?」
「きゃああああああ!!!」

恥ずかしさのあまり口篭っていたイーピンの代わりに、あっさりと雲雀が言う。それが恥ずかしくてイーピンは思わず叫んでしまった。
そんなイーピンの初々しい反応を可愛らしく思いながら、雲雀はイーピンの三つ編みを手に取った。

「気にしなくていいんだよ」
「え?」
「年の差なんて…他人の言葉なんて気にしなくていいんだよ。だって恋人の僕が年の差を気にしてないんだから」
「でも………」

戸惑うイーピンに雲雀は微笑むと、手に取っていた三つ編みにそっとキスをした。

「ゆっくり大人になればいい。僕はのんびり君を待ってるから」

―――ゆっくりと…ゆるやかに恋をしようと、君を恋人にした時に思ったんだよ―――

そっと雲雀はイーピンの耳元で囁いた。
イーピンは一瞬目を瞠ったが、すぐに花が綻ぶように微笑むと雲雀の首に腕を回して抱きついた。

「待っててください。素敵な大人になりますから」
「………楽しみにしてるよ」

雲雀はイーピンの額にキスをした。



―おまけ―

「ああ…でも早く大人になりたいなら協力してもいいけど?」
「へ?…って…あれ?」

突然意味不明なことを言われたと思ったら、ソファに押し倒されたイーピン。まさか…と思いながら雲雀に目を向ける。

「どうする?」

ニコニコと笑う雲雀を見てイーピンは蒼褪めた。







Grazie in un aniversary!!

サイト一周年ありがとうございます!!まさか一年続くとは思いませんでした…
これもこんな辺境サイトに遊びに来てくださった皆様のおかげです!!ありがとうございますm(__)m

年の差を気にするお話で、ほのぼの予定だったのですが………
公衆の面前ちゅーとかトンファーで撲殺とか、一番内容が濃いような気がします(苦笑)
ディーノさんの扱い酷くてスミマセン;;;最初は獄寺氏だったんですけどね、トンファー被害者。
大人なようで子どもな雲雀さんのお話ですvvセクハラもバッチリ☆
こちらも続きを書くことは絶対にありえません♪

一周年記念ということで、こちらの作品はフリーです。
文章を変えないでくだされば、どんな風に弄ってもかまいません。
ただし、サイト掲載時にはワタクシのサイト名を小さくてもよいので書いてください。
それと、背景のお持ち帰りはおやめください。
サイト掲載の報告は自己の判断にお任せしますが、報告していただければ泣いて喜びます!!

フリー期間終了しました。ありがとうございました。

最後になりましたが辺境サイト「六花」をこれからもよろしくお願いします。


up 08.02.24


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