「一日、ずっと僕の側にいてくれればいい。それだけで十分」

それが、誕生日に何が欲しいかと尋ねてきたイーピンに対して雲雀が答えたことだった。


花と君と僕



アジトの庭に出て、イーピンはそっと両手を伸ばす。その先には、満開の藤の花。
そっと藤の花に触れて、イーピンはニッコリと微笑む。

「綺麗…」

小さな声で呟く。本当に小さな声で。

「今が丁度、見頃だからね…藤」
「雲雀さん」

イーピンが振り返ると、黒い着物を着て縁側に腰をかけた雲雀が、イーピンを見つめていた。
見つめられていることが恥ずかしくて、ほんのり頬を赤く染めるイーピン。その可愛らしい反応に思わず目を細める雲雀。

「いつ、起きたんですか?」
「さっき。君が側にいなかったから驚いたよ」

そう言って、雲雀は近くにあった草履を履くと、イーピンの元に向かった。
自分に近づいてくる雲雀に困ったように微笑みながら、イーピンは口を開いた。

「だって…雲雀さん、気持ちよさそうに眠ってたから」

起こしたら悪いと思って、イーピンは眠っている雲雀の側から離れたのだ。
アジトに来た時、草壁から昨日は夜遅くまで仕事をしていてあまり寝ていないと聞いていたから。
人の気配に敏感な雲雀。側にいたらゆっくり眠れないのでは…と思って、イーピンはそっと雲雀から離れて庭を散策していた。
そして見つけた満開の藤の花に目を奪われた。

「眠ってても、側にいてくれなきゃ。今日はそういう約束だったよね?」
「それは…そうなんですけど」

イーピンは項垂れる。
そう。約束をした。雲雀と。今日は一日、ずっと側にいると。それが誕生日のプレゼントでいい…と雲雀は言ったのだ。

「側にいるのが誕生日プレゼントなのに、いなくなるなんて…意味ないね」
「うう〜…だって、私がいないほうがゆっくり眠れるかなって思ったんです」
「君がいないほうが、落ち着かない」
「へ?」

首を傾げるイーピン。それを見て雲雀は苦笑した。

「…とにかく。ずっと側にいる約束だったのにいなくなったから、特別にプレゼントを貰わないとね」
「ええ!?私、何も用意してませんよ?」

焦るイーピン。いきなりプレゼントと言われても、本当に何も用意していなかったのだ。
一応、夕飯に雲雀の好きなメニューを作ろうと思って、夕飯の材料は用意していたが。

「これでいいよ」
「……え?」

オロオロするイーピンの頭上で、雲雀の優しい声が響く。不思議に思ってイーピンが顔をあげた瞬間。

「……っん!」

グイっと顎を取られ、気が付いたときには雲雀に唇を奪われていた。
最初は軽めに。しかし、時間が経つにつれ深いものとなっていく口づけに、イーピンは雲雀のシャツを握り締めた。

「ふぁ…」

息苦しくなって首を横に振ってみるが、雲雀は口づけをやめない。イーピンの目の端からポロリと涙が零れる。
それを見て、漸く雲雀はイーピンから離れる。

「こういうプレゼントもいいね」
「…っ!もう!!」

楽しそうに笑う雲雀を、イーピンは顔を真っ赤にしながら睨みつけた。



「君…花が好きだよね?」
「雲雀さん?」

暫くして、小さな声で雲雀が呟いた。

「前に花束贈った時も喜んでたから」
「お花が嫌いな人なんていないですよ」
「そう?僕は何とも思わないけど」
「さっき、『今が見頃』とか言ってませんでした?」
「見頃とは言ったけど、好きとは言ってないよ」

ああ言えばこう言うといった感じの雲雀に、思わず眉間に皺を寄せるイーピン。
すると、雲雀がクスリと笑った。

「でも…綺麗だな、とは思ったよ」

きょとんとした表情でイーピンは雲雀をみつめる。雲雀はそれを気にすることなく続けた。

「その着物、似合ってるよ」
「え?あ、ありがとうございます」

話題が花から着物に変わって一瞬戸惑ったイーピンだったが、似合うと言われたので礼を言う。
イーピンは着物を着ていた。数日前、雲雀から贈られた着物を。
少し黄色がかった白の着物には桜の花が散りばめられていて、イーピンによく似合っていた。
その着物を着て、一日雲雀の側にいる。それが誕生日のプレゼントでいいと言われた時、イーピンは断った。
雲雀の誕生日なのに、自分が着物を貰うのはおかしくないか…と言って。
しかし雲雀は、自分がそうしてもらいたいと思ってるのだから、いいのだと譲らず、結局イーピンが折れてしまった。

「さっき、藤の花に向かって手を伸ばしてたでしょ?」
「はい。綺麗だったから、思わず触ってみたくなっちゃって」

小さな子どものように花に向かって手を伸ばしていた。そんなところを見られて、イーピンは恥ずかしく思う。
ところが雲雀は思わぬことをイーピンに告げた。

「あの時、君の着物の袖が風で揺らめいてて。藤の花びらも少し散ってて。君は微笑んでて。それを見たら綺麗だなって思った」

まるで美しい絵のようだと、柄にもなく雲雀は思った。

「花を好きとかは思わないけど…君と花が一緒だと、綺麗だとは思う」

フッと微笑んで、雲雀はイーピンの頬に手を添えた。
呆然とそれを聞いていたイーピンは、突然顔を真っ赤に染めると一歩雲雀から離れて後ろを向いた。

「イーピン?」

訝しげに声をかける雲雀。しかしイーピンは口をパクパク動かすだけで何も言わない。
首を傾げながら、雲雀は離れてしまったイーピンの元に向かう。すると。

「雲雀さんのばかぁ〜…」
「………は?」

思いがけないイーピンの言葉に、反応が遅れた雲雀。
イーピンは赤くなった頬を両手で隠すと、目に涙を溜めて言った。

「雲雀さんの誕生日だから、私がいっぱい喜ばせようと思ったのに、なんで雲雀さんが私を喜ばせるんですか?」

くやしいです…と続けるイーピン。
それを聞いて最初は目を瞠って驚いていた雲雀だったが、暫くして彼にしては珍しく大声で笑い出した。

「雲雀さん?」

笑うこと自体稀なのに、大きな声で笑っている雲雀を見て、イーピンは驚く。思わず周囲に誰もいないか確認してしまった。
そんなイーピンを気にすることなく雲雀は笑い続ける。その様子に何だかイーピンは居た堪れなくなってきた。

「雲雀さん…何だかよくわからないですけど、笑いすぎです」

ぷぅっと頬を膨らませるイーピン。その不機嫌な表情ですら愛おしく感じる。
雲雀はそっと、イーピンの肩を引き寄せた。

「心配しなくても、僕は十分喜んでるから」
「本当ですか?」

信じられないといったような目でイーピンは雲雀を見つめる。それに苦笑しつつ、雲雀はイーピンの頭を撫でた。

「プレゼントを聞いてきた時にも言ったけど、僕は君が側にいるだけで十分なんだよ」
「そうですけど…やっぱり、せっかくのお誕生日なのに」

自分ばっかり嬉しいことが続いて、なんだか申し訳ない…とイーピンは思う。
悲しそうに俯くイーピンを見て、雲雀は徐に口を開いた。

「じゃあ…これからもずっと僕の側にいてよ」
「え?」
「君がずっと側にいてくれたら、僕はずっと…幸せだから」

雲雀の願いに、イーピンは「はい!」と返事をする。
そのまま勢いよく抱きついたイーピンを雲雀は抱きしめた。



大切な宝物を壊さないように、そっと。







遅くなりましたが、愛しのダーリン☆真咲ちゃんに捧げる駄文です…!
本当に遅くなってしまい、申し訳ありません;;;
しかも、雲雀さんのお誕生日ネタとかにしてごめんなさい…!!!
雲雀さんお誕生日おめでとうと小さくお祝いしておく。

リクは着物ヒバピンということで、お庭でいちゃこらさせてみました(´V`)
藤の花は、たまたま近所の家の庭の藤棚が綺麗だったので採用してみました☆
藤の花は好きですww スズメバチ来ますけどね;;;

最後になりましたが、真咲ちゃん。こんな駄文でよろしければお持ち帰りください!
返品いつでも承ります♪ゴミ箱行きでも無問題°+(*´∀`)b°+°
不束な嫁ですが、これからもよろしくお願いしますm(__)m

こちらの作品は市原真咲様のみお持ち帰りです。


up 09.05.05


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