小さい頃。お伽話に出てくるお姫様のように、いつか王子様が迎えに来てくれると思っていた。
手の甲に王子ごっこのキス
「懐かしいなぁ」
イーピンは読み終わった本を閉じると、フゥ…と溜息をついた。
『懐かしいものが出てきたから見にいらっしゃい』
数日前、奈々から電話を貰って久しぶりに沢田邸に行ったイーピンは、ダンボールの中の『懐かしいもの』を見て驚いた。
それは幼い頃、奈々や綱吉から買ってもらった絵本だった。
絵本が大好きで、絵本を買ってもらう度に読んでもらっていた。奈々は家事が忙しかったので、綱吉に。膝の上に乗せてもらって。
「それにしても、いっぱい買ってもらったんだなぁ」
そう呟きながらダンボールの中を漁っていると、一冊の絵本がイーピンの目に映った。
「あ」と声をあげ、イーピンはそっと両手でその絵本を取る。表紙を見てニッコリ微笑むと、イーピンは絵本をギュッと抱きしめた。
* * *
「『シンデレラは王子様と幸せに暮らしました』………おしまい」
「ありがとう!ツナさん!!」
「どういたしまして。それにしてもイーピンは『シンデレラ』のお話が好きだね。どうして?」
綱吉が尋ねると、イーピンはニコニコ笑顔で答えた。
「だってシンデレラは頑張って幸せになったんだもん!だから好き」
「そうだね。シンデレラは頑張って幸せになれたね。イーピンもシンデレラと同じくらい頑張ってるからきっと幸せになれるよ」
そう綱吉が言うと、イーピンは目をキラキラ輝かせながら叫んだ。
「じゃあツナさん!イーピン頑張ってるから、王子様が迎えに来てくれるかな?」
その言葉に一瞬目を瞠った綱吉だったが、ニッコリ微笑みながらイーピンの頭を撫でた。
「きっと迎えに来てくれるよ。イーピンだけの素敵な王子様が」
そう言いながら、慈しむようにイーピンの頭を撫で続けた。
* * *
「何してるの?」
背後で声が聞こえてイーピンは振り返る。そこにはボンゴレの雲の守護者、雲雀恭弥が立っていた。
雲雀はイーピンが大事そうに絵本を抱えてるのを見て首をひねった。
「雲雀さん。おかえりなさい」
「ただいま。ところで何してたの?それとソレは何?」
立ち上がり、ニッコリ微笑むイーピンに、雲雀は絵本を指差しながら矢継ぎ早に尋ねた。
イーピンは、雲雀が指差している先が自分の胸の中の絵本であることに気付いて「ああ」と笑うと、絵本を雲雀に差出し、懐かしそうに語った。
「懐かしくて読んでたんです。大好きな絵本で、小さい頃はツナさんに膝の上で読んでもらってました」
「………シンデレラ?」
綱吉の膝の上と聞いた時に一瞬雲雀の眉が跳ね上がったが、あまりに一瞬の出来事だったのでイーピンはそのことに気付かなかった。
雲雀はジッと絵本を見つめ、徐に口を開いた。
「何でシンデレラなの?」
「へ?」
「他にもあるでしょう?白雪姫とか眠り姫とかラプンツェルとか。どうしてシンデレラが一番好きなの」
不思議そうに尋ねる雲雀をイーピンは大きな目をぱちくりさせながら見つめる。その様子に雲雀が眉間に皺を寄せた。
「何?」
「あ…いえ。雲雀さんが童話を知ってることに驚いちゃって……」
「………君。僕を何だと思ってるの。グリム童話くらいは知ってるよ」
不機嫌極まりないといわんばかりに低い声で唸る雲雀。
イーピンは「あはは〜」と笑ってごまかすと、雲雀がもつ絵本を見つめた。
「シンデレラって優しい魔法使いに魔法をかけてもらって、王子様に出逢って、結婚したでしょう?」
「そうだね」
「それってシンデレラがどんなに辛くても頑張っていたから、魔法使いがご褒美で魔法をかけてくれたでしょう?」
「簡単に言えばそうだね」
「それって努力すれば幸せになれるってことじゃないですか」
初めて『シンデレラ』を読んだ時、自分も努力すれば幸せになれるのではないかと思った。
他の童話ではそんなことを考えたこともなかった。
「だから私もシンデレラみたいに頑張るぞ!って思いながら修行してたんです。強くなったらツナさんや師匠が喜んでくれると思って」
「へぇ。そうなんだ」
修行を頑張ると思う辺りがイーピンらしいな…と雲雀は思う。
ただ、「喜んでくれる」という人の中に自分の名前が入ってなかったことにほんの少し腹は立ってしまったが。
そんなことを考えていると、イーピンがチラチラとこちらに目を向けていることに雲雀は気付いた。
「どうしたの?」
尋ねると、「あ…いえ。うぅ…」と小さく唸り、イーピンは俯いてしまう。
何か言いたいことがあるだろうに、口に出さないイーピンに雲雀は首を傾げる。
「何か言いたいことがあるんじゃないの?」
「あ!いや…たいしたことじゃないんで気にしないでください」
気にしないでくださいと言ったわりには、未だ悩み続けているのが見て取れる。これはこちらから聞き出さないと…と雲雀は考えた。
「雲雀さん?」
俯いたままのイーピンの顎を取ると、雲雀は上を向かせる。顎を取られたイーピンは不思議そうに雲雀を見た。
ニッコリと極上の笑みを浮かべると、雲雀はイーピンの耳元に口を寄せて囁いた。
「言わないと……キスするよ」
雲雀の甘い声だけでなく、とんでもない発言にイーピンは顔を真っ赤にさせて硬直する。
付き合い始めてもうかなりの時間が経つが、いつまでたっても初々しいイーピンの反応に、雲雀のほうが苦笑してしまう。
「何言ってるんですか!?雲雀さん!!」
「そのままの意味だけど?言っとくけど、唇にするからね。濃厚なヤツを」
ようやく立ち直ったイーピンに、間髪入れずに追い討ちをかける雲雀。
イーピンは更に顔を真っ赤にして口をパクパクさせる。
「早く言わないと本当にキスするよ?」
ニッコリと笑ってそう伝える。すると、顔を赤くして黙っていたイーピンが重い口を開いた。
「昔、シンデレラと同じくらい頑張ってるからきっと幸せになれるよ…ってツナさんが言ってくれたんですけど」
「うん」
「私、思わず『頑張ってるから王子様が迎えに来てくれるかな?』って尋ねちゃったんです」
「それで?」
「そしたらツナさん、素敵な王子様が迎えに来てくれるよって言ってくれたんです」
「……………」
(幼い子ども相手とはいえ、なかなかクサいことを言うね…沢田綱吉)
最近、出逢った頃とは比べ物にならない程したたかになった自らのボスを思い出す。
思い出しながら、彼なら今でも子ども相手にそんなクサいセリフを言いそうだな…と雲雀は思ってしまった。
「でも、ツナさんの言うとおりになったなぁ」
「え?」
ポソリと呟いたイーピンの言葉に、雲雀は首を傾げる。
するとイーピンは頬をほんのり染めながら雲雀に言った。
「私なりに修行や勉強頑張ったから。だから雲雀さんっていう素敵な王子様が迎えに来てくれたんだもの」
私だけの素敵な王子様が…とイーピンは続けた。
ほんのりだが、雲雀は頬を赤く染めた。あまりの不意打ちに、ポーカーフェイスを装うことができなかったのだ。
雲雀は右手を額に当て、赤くなった頬を隠す。
そんな雲雀をイーピンは首を傾げながら見つめる。どうも雲雀が照れていることに気付いてないようだ。
(時々、この子に勝てないと思う時がある)
イーピンの純粋で真っ直ぐな心に触れると、自分の心まで温かくなるから不思議だと雲雀は思う。
雲雀は額から手を離すと、そのままイーピンの右手をそっと手に取った。
「雲雀さん?」
目を瞬かせて自分を見つめてくるイーピンに微笑みかけると、雲雀はその右手の甲に恭しくキスをした。
「雲雀さんっ!?何してるんですか!!?」
突然のことに驚くイーピンに、雲雀はイタズラっぽく笑う。
「何って、僕は君の王子様なんでしょ?お姫様を迎えに来た王子様は手の甲にキスして求愛してるじゃない?」
ニッコリ微笑んで、もう一度イーピンの手の甲にキスをする雲雀。
「返事は?お姫様?」
そう尋ねる雲雀に、イーピンははにかみながら微笑んだ。
お伽話のお姫様のように、私だけの王子様が迎えに来てくれました。
すてきなお祭開催、おめでとうございます!
そして参加させていただきありがとうございますm(__)m
主催者の青井様、繭様。お疲れ様です!!
とっても素敵な企画にお目汚しな駄文、本当に申し訳ありません;;;
しかもお題に沿ってるとは思えない内容…orz
でも愛をこめて作りましたので、許してやってください…!
最後に、素敵な祭に参加できて本当に嬉しいです!ありがとうございます!!
2008.12.10
site up 09.04.02
お題配布元*TOY様
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