キスをあげる
11月25日。講義を終えたイーピンは、大学のキャンパス内を早足で歩いていた。
途中、すれ違った友人数名に「誕生日おめでとう」と言われ、その度に「ありがとう」とにこやかに答えていた。
実は昨日までイーピンは誕生日であることをすっかり忘れていて、日付変更と同時に届いた京子とハルからの『誕生日おめでとうメール』で思い出したのだった。
(誕生日のことすっかり忘れてたから、お祝いされてもなんか変な感じ)
内心苦笑しながらそんなことを思う。祝われるのが嫌とかではなく、本当に忘れていたので誕生日という感覚がわかなかったのだ。
京子からのメールに『今夜、お誕生日パーティーするから、ツっくんのおうちに来てね』とあった。
ボンゴレのアジトを『おうち』と表現するのは京子だけだろうな…と何やら違う方向に思考がいきかけた、その時。
「イーピン!」
声をかけられて振り返ると、そこに同じクラスの友人が数名いた。イーピンは何事かと首を傾げながら彼らに近付く。
「なぁに?どうかしたの?」
「あのね、今日はイーピンの誕生日じゃない?だから皆で誕生日パーティーでもしない?」
女友達が誘ってきたのだが、イーピンは困ったように微笑む。
せっかく誘ってくれたのだが、先約があるので彼らのパーティーに行くのは無理だった。
「んー…今日はごめん」
「心配しなくても、仲間内だけでするパーティーだから!会場もアイツのアパートだしね」
そう言って女友達は後ろにいるとある男子学生を指差す。その男子学生を見てイーピンはほんの少し眉を顰めた。
クラスメイトの彼は、よくイーピンに話しかけてきた。イーピンは普通に接していたのだが、この頃一緒に行動することが多くなった。
その度に周りが意味深な眼差しを向けてくるので、そういうことに疎いイーピンでもなんとなく察しがついた。彼は自分に好意をよせているのだと。
そしてクラスメイトたちはそんな彼に協力しているのだと。
どうしたものかと、イーピンは考える。彼らのことは嫌いではないが、お節介なのが少し困る。
(先にツナさんたちとの約束があるし。断っても大丈夫だよね)
意を決して断ろうとイーピンが口を開きかけた時。
「見つけた」
「へ?」
声をかけられたと同時に背後から抱きしめられ、イーピンはマヌケな声をあげた。
気配を感じさせずにイーピンを抱きしめることができる人物は限られている。それは………
「雲雀さん?」
「やぁ」
抱きしめられたまま、イーピンは首を捻って後ろを見る。そこには珍しく機嫌が良く微笑んでいる雲雀がいた。つられてイーピンも雲雀に微笑みかける。
目の前で繰り広げられる甘い雰囲気にクラスメイトたちは呆気にとられ、イーピンに好意を寄せている男子学生は青褪めていた。
チラリと彼らを見た雲雀はニヤリと笑う。そしてイーピンを抱きしめる腕に力を込めた。
「どうしてここにいるんですか?雲雀さん」
「君を迎えに来たんだけど、なかなか出てこないから直接来てみた」
「迎え?」
抱きしめられたまま続けられる会話。周りを気にすることなく続けられるその様子に、クラスメイトたちの方が恥ずかしくなって顔を真っ赤に染める。
「どうして迎えに来てくれたんですか?」
周りの様子に気付いてないイーピンが可愛らしく首を傾げ、大きな瞳を真っ直ぐ雲雀に向けて尋ねる。
雲雀はニッコリと微笑むとゆっくりとイーピンを離し、その体を自分の方に向ける。
「今日は君の誕生日だから迎えに来たんだよ。もうレストランも予約したし」
「予約ですか…でも今日はツナさんたちが誕生日パーティーを開いてくれるって言ってたんですけど」
「………そんなの、僕から沢田に断りの電話をしておくよ」
「でも………」
きっと京子とハルがごちそうを作ってくれているはず…とイーピンは悩む。すると雲雀がハァ…と溜息をついた。
「君は僕に祝われるのが嫌なわけ?」
「へ?」
「だって沢田たちのことばかり気にして。僕のことはどうでもいいんでしょ?」
「そっそんなことないですよ!!!」
あきらかに機嫌が悪くなった雲雀。しまった…とイーピンは慌てた。
「嬉しいですよ!雲雀さんが誕生日を祝ってくれるなんてとっても嬉しいです!去年はイタリアに行ってたから電話でお祝い言ってもらっただけだったし」
「そう?それは良かった。じゃあ行こうか?」
イーピンの言葉を聞いて、さっきまでの不機嫌さが嘘のように笑う雲雀。機嫌が直ったことにホッとするイーピンだが、周りのクラスメイトたちは気付いていた。
アレは演技だと。彼女を引きつけるためにわざと不機嫌なフリをしたのだと。
「じゃあ、ちょっと沢田に電話しておくよ」
そう言って胸ポケットから携帯を取り出し、電話をかける。イーピンは綱吉たちにあとで謝っておこうと心の中で呟いた。
「ねぇ?イーピン」
声をかけられて振り向くと、そこには心なしか頬を赤く染めたクラスメイトたち。イーピンは「あ!」と声をあげた。
「ごめんね!せっかくのパーティーなんだけど………」
「いいのよ。恋人なんでしょ、あの人?」
「あ…うん。でもね、元々は家族とのパーティーが先約だったというか」
「気にしないで。こっちこそ予定も聞かずに勝手に計画してごめんね?」
「ううん。嬉しかったよ。ありがとう」
ペコリと頭を下げるイーピン。クラスメイトたちは気にしないでと笑う。ただ一人、青褪めた表情のままイーピンを見つめている男子学生を除いて。
電話を終えた雲雀が胸ポケットに携帯を入れる。
「行くよ、イーピン」
「はい。じゃあ、また明日」
呼ばれてイーピンは返事をした後、振り返ってクラスメイトたちに微笑みながら手を振る。そんなイーピンの姿を見て、青褪めていた男子学生の頬が赤く染まる。
それを目聡く見つけた雲雀は溜息をつくと、その場に立ち止まった。
「雲雀さん?」
突然立ち止まった雲雀を不思議そうに見つめるイーピン。雲雀はイタズラを思いついた子どものようにニヤリと笑った。
「大切なことを忘れてたよ」
「大切なこと?」
イーピンは首を傾げる。雲雀はイーピンの肩に両手を置くとそっと呟いた。
「誕生日おめでとう。イーピン」
そのままイーピンの額に唇を落とす。
クラスメイトだけでなく、たまたま通りかかった学生たちも突然の出来事に言葉を失う。
ゆっくりと雲雀はイーピンから離れる。キスをされたイーピンは頬をほんのり赤く染めて雲雀を見つめた後、幸せそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。雲雀さん」
「どういたしまして」
雲雀はイーピンの手を握ると校門に向かって歩き始めた。
* * *
ゆっくりと受話器を下ろした綱吉はフゥ…と息を吐いた。その様子に山本が首を傾げながら尋ねた。
「どうした、ツナ?誰からの電話だ?面倒なことでも起きたのか?」
「ああ…いや、雲雀さんからなんだけどね」
「雲雀からですか?」
雲雀の名前を聞いて、獄寺が素早く反応する。
「なんとなく、そうなるんじゃないのかなーとは思ってたんだけどね」
「「ハイ?」」
綱吉の言ってる意味がわからず、獄寺と山本は顔を見合わせる。綱吉は苦笑しながら二人に言った。
「今日さ、イーピンの誕生日でしょ?だから京子ちゃんとハルがパーティーしようって言ってたんだけどね」
「はぁ……」
「さっき雲雀さんから電話があってね、今日のパーティーはキャンセルだからってね」
「あぁ……」
「あと、よくも僕に無断でパーティーなんて開こうとしたね…ってなんかお怒りモードだったというか」
「「成程」」
「京子ちゃんたちにごちそうはまだ作らないほうがいいよって言ってて良かったよ」
「「確かに」」
三人は苦笑する。
明日、不機嫌な雲雀をどうやって宥めようかと考えながら。
Buon Compleanno I-Pin !!
祝ってるようで祝ってない感じの駄文ですが、管理人は大変祝った気でいます!!!
今年はちゃんとお誕生日にUPできました!良かった。゚(゚ノД`゚)゚。
タイトルと内容が合ってない気がします。とりあえずプレゼントは「キス」というつもりで書きました。
人前でイチャコラしてもイーピンが照れないのは、雲雀さんの長年の努力の結果です(笑)
とりあえず、オリキャラの男子学生さんが可哀想です。
ツナさんはいい迷惑といういうやつです。
ではでは!イーピンお誕生日おめでとう\(*´∀`*)/
up 09.11.25
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