だって君は僕のモノ。誰にも渡さないよ。
だから………威嚇くらいはしておかないとね。


威嚇射撃



華やかな衣装に身を包んだ男女が賑わうパーティー会場。
その中心から離れた場所に、一組の男女がいた。女性は椅子に座って項垂れており、男性はそんな女性を上から見下ろしていた。

「だから言っただろう?もう少し踵の低い靴の方がいいって」
「………だって」
「だってじゃない。僕の言うことを聞かないからこんなことになったんだよ」
「う………すみません」

女性―イーピン―はさらに項垂れた。その様子を見た男性―雲雀―は溜息をつくと、クルリと方向転換した。

「雲雀さん!?」
「挫いてるんだから冷やさないとダメだろう。氷貰ってくるよ」

イーピンが慌てて声をかけると、雲雀はそれだけ言って去っていった。
雲雀の後ろ姿を見ながら、イーピンは大きな溜息をついた。

「きっと雲雀さん、呆れてるんだろうな………」



雲雀は客に飲み物を配っていた男に声をかけて、氷とタオルを持ってくるよう頼んだ。
氷を取りに去っていく男を見ながら、雲雀は今日のパーティーに出席するきっかけになった出来事を思い出した。
二日前。突然雲雀のボスである綱吉に呼び出されて執務室に行くと、そこには綱吉とその恋人の京子が仲良く談笑していた。
一瞬、咬み殺そうかと雲雀は思ったが、何とか堪えて何の用かと尋ねた。すると………

「明後日、忘年会を兼ねたパーティーをしようかと思って。雲雀さんも出席してくださいね?」
「嫌だ」

ニコニコと楽しそうな綱吉に、雲雀はあっさりと拒否を示した。
予想していたこととはいえ、即答されると何とも言えないな…と思いながら、綱吉は次の手に出た。

「わかりました。雲雀さんは参加しないんですね。じゃあイーピンは俺たちと一緒に行動してもらおう。ね、京子ちゃん」
「………ちょっと。イーピン、そのパーティーに出席するの?」
「あ!これからイーピンのドレスとか買いに行かないと。三人で買い物なんて久しぶりだね、京子ちゃん」

雲雀を無視して話を進める綱吉。その横で「買い物楽しそうだね〜」と微笑んでいる京子。雲雀の中で何かが切れた。

「ちょっと。イーピンのドレスを選ぶのも、パーティーでエスコートするのも全部僕の仕事だよ。イーピンは僕の恋人なんだから」

雲雀にしては珍しく、語気を荒げながら捲くし立てるように言った。
それを聞いた瞬間、綱吉は極上の微笑みを雲雀に向けて言った。

「じゃあパーティーに出席してくれるんですね?雲雀さん」

その場に固まる雲雀。やられた…と思った瞬間だった。



昔からは想像が出来ないほど狡猾になった自らのボスのこと思いながら、雲雀はもらった氷とタオルを持ってイーピンの元に向かった。
イーピンは大人しく椅子に座って待っていた。足が痛むのか、ずっと足首ばかり見ていて雲雀に戻ってきたことに気付いていなかった。
ふと雲雀は辺りを見回した。先程から数名の男たちがチラチラとイーピンを見ている。
パーティーが始まった時からイーピンは注目されていた。隣にいるのが雲雀だから声をかけられないだけで、もし一人だったら凄いことになっていただろう。
綱吉に言い包められた後、雲雀はイーピンを連れてドレスを買いに行った。ある意味吹っ切れてしまった雲雀はここぞとばかりにイーピンを飾り立てた。
白のワンピースタイプのドレスは清楚な雰囲気を醸しだしていて、そのドレスに合わせたネックレスとブレスレットもよく似合っていた。
いつもは三編みされている長い漆黒の髪も下ろされている。まだ幼いと思っていた恋人が大人っぽくなって、雲雀自身が一番驚いた。

「あ…雲雀さん」

雲雀に気付いたイーピンが遠慮がちに手を振る。すると、それまでイーピンを見ていた男たちが一斉に目を逸らした。
一瞬眉を顰めた雲雀だったが、そのままイーピンの元に向かい、足元に座って氷をイーピンの足首にあてた。

「気持ちいい?」
「はい。すみません、ご迷惑をおかけして…」
「別にいいよ。それよりもさっきの続きだけど、どうして踵の高い靴に拘ったの?」
「それは………」

言って黙り込んだイーピンを雲雀はジッと見つめた。
ドレスやネックレスを買う時は、恐縮しながらも雲雀の意見を聞いていたイーピン。しかし靴だけは違った。雲雀が選んだのとは違うものを選んだのだ。踵の高い靴を。
雲雀は履き慣れてないから止めたほうがいいと言ったが、めずらしくイーピンは譲らなかった。結局、雲雀が折れてその靴を買ったのだが、やはりというかイーピンは足を挫いてしまった。

「まあ…無理に言わなくてもいいけど」

言いにくそうにしているイーピンを見て雲雀はそう言ったが、イーピンは雲雀が怒ったと勘違いして慌てて顔をあげて言った。

「あの!大人っぽくなれるかなって思って!!」
「は?」

言ってる意味がわからず、思わずイーピンを凝視する雲雀。イーピンはこれ以上ないというくらい顔を真っ赤にしながら口を開いた。

「踵の高い靴を履いたら大人っぽく見えるかな…って思って。その…私、子どもだから。雲雀さんと並んだらきっと変なんだろうなって………」

「それで足を挫いたら意味ないですよね」と苦笑するイーピン。雲雀は思わず溜息をついた。
自分がどれだけ綺麗になっているかに気付いてない無自覚な彼女に呆れた。同時に何とも言えない愛おしさを感じる。
雲雀はイーピンの足首にあてていた氷を取ると、そっと撫でた。

「………っっ!!」
「君は十分大人っぽいよ」

驚くイーピンを気にすることなく、雲雀は足を撫で続ける。その様子をさり気なく見ていた男たちは顔を真っ赤にしていた。
それを見た時、雲雀はあることを思いついた。

(とりあえず、虫除けでもしておこうか)

雲雀はニヤリと笑うと、イーピンの足首を両手で持ち上げた。
どうしたのだろうとイーピンは首を傾げ、不思議そうに雲雀を見た。そんなイーピンに雲雀はニッコリと微笑む。そして………

大切な宝物を扱うかのようにそっとイーピンの足の甲に口付けた。

「雲雀さん!!」

突然のことに大声で叫んでしまったイーピン。二人のことを見ていた男たちも目を見開き、絶句する。
そんな男たちに雲雀はニヤリと冷たく笑うと、イーピンに目を向け、そして妖艶な微笑みを湛えて言った。

「君は僕の恋人なんだから、綺麗に決まってるでしょ。そしてこれからもっと綺麗にしてあげるんだから」

そして雲雀はイーピンの唇にキスをした。



とりあえず。このくらい威嚇射撃しておけば悪い虫は寄ってこないよね?







許してください;;;

何が書きたかったかって、イーピンの足にキスする雲雀さんが書きたかった;;;
某曲が頭から離れなかったんです;;;そしてネタが浮かんだんです;;;
そしてこれを最初はリョ桜で書こうと思ってました。中学生では無理でした。
イチルキだとこのネタでもギャグになりました。
白緋も考えたけど、イメージじゃありませんでした。

ヒバピンが一番しっくりきました!!

どうか温かい目で私を見守ってください。皆様・・・


up 07.12.22


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