鬼ごっこは命がけ
「もうすぐ16:00だから…タイムリミットは18:00ですね。それまでに私が逃げ切れたら私の勝ちです」
「それまでに君を捕まえて、それを取り戻せば僕の勝ちだね」
「逃げる範囲は並盛町全域でいいですよね?あ!一応逃げる時間をくれますか?」
「いいよ。30分はここを動かないから」
並盛中学校の正門前で、黒いスーツを着た長身の青年と並中の制服を着た少女が何やら真剣に話し込んでいた。
その横には、二人をオロオロとした表情で見つめる少し大人びた感じの少年。少年の方も並中の制服を着ている。
そんな三人を、下校中の並中生たちはチラチラと覗き見た。
何故なら、並中でも有名な少年と少女が、綺麗な顔立ちの青年と一緒にいるから。しかも少女と青年からは、時々甘い雰囲気が漂っていた。
少年―ランボ―と、少女―イーピン―は並中生の間では有名だった。
フェミニストなランボは女子から、明るく元気なイーピンは男女両方に人気があった。
その人気者二人と一緒にいる青年が一体どういう関係なのか気になって、全員聞き耳をたてるが、時折青年が睨んでくるので、皆足早に去って行った。
「あの………本気ですか?二人とも」
ランボが恐る恐るイーピンと青年―雲雀―に尋ねる。するとイーピンが大きく頷いた。
「本気よ。そうだ!ランボも一緒にする?」
「いや…謹んでお断りするよ………イーピン」
ランボは顔面蒼白になりながら答えた。そんなランボを見てイーピンは不思議そうに首を傾げた。
「おもしろいのになぁ………『鬼ごっこ』」
本日の体育の時間。「偶には息抜きするのもいいな」という教師の一言で、男女合同で鬼ごっこをすることになった。
その鬼ごっこで、イーピンはたった一人、見事に数名の鬼から逃げ切ったのだ。
元・殺し屋のイーピンにしてみたら、一般人に追いかけらることなど赤ん坊から追いかけられるようなもの。
それを、たまたま仕事が休みで学校まで迎えに来てくれた雲雀に話したのだ。しかも………
『小さい頃にツナさんたちと鬼ごっこしてましたけど、私を捕まえることができたのはリボーンだけです。きっと今でもリボーンだけには捕まえられるんだろうな…』
と言ってしまったがために。
『じゃあ…君は僕からは逃げ切れる自信があるんだね』
と不機嫌そうに雲雀が呟いた。イーピンは何故雲雀が不機嫌になったかわからなかった。しかも、何故か雲雀から鬼ごっこをすると誘われてしまった。
イーピンも少しばかり雲雀と鬼ごっこをやってみたいな…と思ったのもあり、承諾した。
「じゃあ雲雀さん。これ、お預かりしますね」
そう言ってイーピンはネックレスに通した指輪―ボンゴレの雲のリング―を雲雀に見せた。
鬼ごっこのルール。範囲は並盛町全域。時間は16:00から18:00。見つけたら捕まえるため、見つかったら逃げるために攻撃を仕掛けても良い。
鬼―雲雀―はイーピンを捕まえて、イーピンが持ってる雲のリングを取り返せば勝ち。制限時間までに逃げ切れればイーピンの勝ち。
単純なルールではあるが、攻撃云々…という所でランボは頭を抱えた。考えただけで恐ろしい。そんな鬼ごっこ、命がいくつあっても足りない。
「じゃあランボ!また明日ね!!」
そう言って爽やかに走り去って行くイーピン。そして校門の壁に背を預けて目を閉じる雲雀。
二人を交互に見て、ランボは深い溜息をついた。
どこに逃げようか…とイーピンが考えていた時、自分を呼ぶ声がした。振り返るとそこには京子とハルがいた。
イーピンはニッコリと笑って二人に近付く。
「どうしたの?何だか忙しそうだけど?」
「忙しくないです。実は鬼ごっこをしてて、鬼から逃げてる最中なんです」
「はひ〜鬼ごっこですか〜懐かしいですね。誰としてるんですか?ランボちゃんですか?」
「いえ。雲雀さんです!!」
イーピンは楽しそうに答えると、「そろそろ雲雀さんが動き出す時間なんで、失礼します!」二人にお辞儀をして走り去った。
走り去るイーピンを見つめる京子とハル。するとハルが呟いた。
「デンジャラスな鬼ごっこです………」
「そうだね………」
さすがの京子も鬼が雲雀と聞いて思わず苦笑してしまった。
「30分経ったね………」
雲雀はゆっくりと壁から離れる。
何となく離れることができなくてその場に残っていたランボは、雲雀をジッと見つめた。
「………逃がさないよ」
不敵に微笑む雲雀。そんな雲雀を見てランボは恐怖のあまり固まってしまった。
一時間が経過した。逃げる範囲も広いし、このままなら勝てるかな〜とイーピンが思っていた時だった。
「イーピン!今帰り?」
「ツナさんとリボーン!!」
声がした方を見ると、兄のように慕うボンゴレボス・沢田綱吉とその家庭教師・リボーンがいた。
「一緒に家に帰る?母さんが今日は鍋にするって言ってたよ」
「あ…実はですね。私今………」
「誰か来るぞ。この気配は………」
リボーンの言葉に綱吉とイーピンが首を傾げた時。
「見つけた」
静かな声がその場に響いた。全員、視線を声がした方に向ける。そこにはニッコリと優雅に微笑む雲雀。愛用のトンファーも持っている。
見つかった!と思ったイーピンはその場を離れようと走り出した。雲雀もイーピンを追いかけようと一歩踏み出す。しかし………
「何やってるんですか!?雲雀さん!!トンファーなんか出して、イーピンに何するつもりですか!!」
綱吉が雲雀の前に立ちはだかった。雲雀は思いっきり眉間に皺を寄せて唸るように言った。
「そこ…どいてくれない?イーピンが逃げちゃうでしょう?」
「ダメです!イーピンを追いかける理由を言わない限りどきません!!」
「ふーん…じゃあ、君から咬み殺そうか?」
不敵に微笑んで、雲雀はトンファーを構える。綱吉も思わず構えたが………
「ヒバリ。お前、イーピンと何やってんだ?」
「赤ん坊………」
それまで黙っていたリボーンが口を開いた。すると雲雀は構えていたトンファーを下ろした。そして雲雀は徐に口を開く。
「鬼ごっこをしてるんだよ。イーピンと」
「そうか。もしかしてルールの中に攻撃を仕掛けてもいいとか入れてるのか?」
「そうだよ」
「わかった。なら行け」
するとリボーンは雲雀の前に立ちはだかっていた綱吉の顔を思いっきり殴り飛ばした。その勢いで綱吉は地面に倒れこむ。
「いってぇぇぇぇぇ!!!」
「悪いね。赤ん坊」
「頑張れよ」
雲雀はそのままイーピンが去っていった方に向かって歩いて行った。それを綱吉はポカンと、リボーン楽しそうに口元を緩ませて見守る。
暫くして「あ!!」と綱吉が叫んだ。リボーンは首を傾げながら「どうした?」と綱吉に尋ねた。
「おい!リボーン!!雲雀さんを行かせてもよかったのかよ!?イーピンにもしものことがあったら………」
「大丈夫だろう。鬼ごっこって言ってたし、ヒバリはイーピンに優しいからな」
「いや…そういう問題じゃなくて………」
違う意味で危ないのではないか…と綱吉は思った。
「雲雀さん、見つけるの早すぎです………!!」
少し休むために立ち止まったイーピンは、胸を押さえながら呟いた。たとえ見つかったとしても、もう少し後だろうと思っていたのに………
とりあえず、隠れやすそうな場所に行って一休みしよう…とイーピンは一歩踏み出した。
「あ………」
自分が行こうとした先に見知った顔を見つけて、イーピンは思わず声をあげた。その声を聞いて、前にいた人物たちが一斉にこちらを見る。
「イーピンじゃねぇか」
「どうした?息なんか切らせて?」
「もしやトレーニング中か!?」
「獄寺さんに山本さんに笹川の兄さん………」
イーピンは声をかけてきた三人の名前を呼んだ。全員雲雀と同じ、ボンゴレ十代目・沢田綱吉の守護者。小さい頃からイーピンを妹のように可愛がってくれた人達だ。
獄寺が「大丈夫か?」と声をかけ、イーピンの肩に手をかけた。山本と了平もイーピンを覗き込む。その時だった。
「こんなところにいたんだ」
またしても静かな声が響く。イーピンは蒼褪めながら声の主を見た。
先程と同じように優雅に微笑み、トンファーを構える雲雀。思わずイーピンは獄寺の後ろに隠れる。それを見て雲雀は眉を顰めた。
「何、そんなヤツの後ろに隠れてるの?イーピン…」
「や…何となく?」
「おい?ヒバリ!?お前、何やってんだよ?トンファーなんか持って…まさか!お前、イーピンに!!?」
「君には関係ないでしょう?それより、そこどいてくれる?」
雲雀は獄寺に向かってトンファーを構える。それを見て獄寺もダイナマイトを出して雲雀を睨みつけた。
「おいおい。二人とも落ち着けって。それより雲雀とイーピンは何やってんだ?」
危険な空気が流れ始めたのを感じて、山本が声をかけた。するとそれにはイーピンが答えた。
「雲雀さんと鬼ごっこをしてるんです」
「鬼ごっこ!?」
獄寺が大声をあげる。他の二人も目を瞠って驚いた。
「お互い攻撃を仕掛けてもいいってルールもあるんだよ」
ニッと雲雀は笑うと、突然イーピンに向かって突進した。イーピンは何とかそれをかわすと、隣にいた獄寺の肩を踏み台にして近くの塀に飛び移った。
「そいうわけなんで、獄寺さんたちまた明日!!」
イーピンは急いで塀から飛び降りる。雲雀は一つ溜息をつくと、イーピンと同じように塀に飛び移った。
そして飛び降りる前にチラリと獄寺たちを見てボソリと呟いた。
「このままあの子が逃げ切ったら、君たち全員咬み殺すよ」
そして雲雀も塀から飛び降りた。三人は雲雀を黙って見送る。暫くして山本が楽しそうに笑いながら言った。
「鬼ごっこするなんて、あの二人って本当に仲がいいのな」
「仲いいって!?アレは鬼ごっこじゃねぇだろ!?どう見ても演習だ!!」
のほほんと笑う山本に獄寺がツッコむ。そこに了平が………
「俺も極限に鬼ごっこに参加したかったな!!」
と言ったものだから、思わず獄寺はガックリと肩を落とし、手で頭を押さえた。
イーピンはポケットに入れていた携帯を取り出して時間を見る。あと五分で18:00。このまま雲雀に見つからなければイーピンの勝ち。
しばらくイーピンは植え込みの影に隠れることにした。ここなら見つからないだろうと息をつく。
ふとイーピンは胸元に手を当てた。そこには雲雀がいつも身につけている雲のリング。それを見ていたら何故だかイーピンは雲雀に会いたくなった。
「早く18:00にならないかな………雲雀さんに会いたい」
小さい頃からずっと憧れていて、ずっと追いかけていた人。
やっと振り向いてくれて、一緒に歩いてくれるようになったのに………
遊びでも………大好きな人から逃げることがこんなに哀しいことだとは思わなかった。
「雲雀さん…早く私を見つけてください………」
さっきまでは絶対に逃げ切ってやると思っていたのに…そう思いながら、イーピンが膝を抱えて顔を伏せた時。
「見つけた」
ふわりと背中に温かいものを感じた途端、耳元で囁かれた言葉。イーピンは顔をあげて振り返る。
そこにはニッコリと微笑む雲雀がいた。先程とは違い、穏やかに笑っている。イーピンは思わず目を潤ませた。
「何泣いてるの?」
「雲雀さん…見つけるの遅すぎです」
「ちゃんと見つけたじゃない。時間もあと二分残ってるよ」
「違います!何でもっと早く私を捕まえてくれなかったんですか?」
「早くって……君、思いっきり逃げてたじゃないか」
「だって!捕まえてくれないのがこんなに哀しいとは思わなかったんです」
イーピンの大きな瞳からポロポロと涙が零れる。それを見て雲雀は少々驚きながらも自分の手で拭ってあげた。
「もう雲雀さんとは鬼ごっこはしません!こんなに哀しい思いをする鬼ごっこは初めてです!!」
自分でもわけがわからないと思いながら、それでもイーピンは雲雀にそう言った。
すると雲雀が「ねぇ?」と声をかけてきた。
「赤ん坊の時はそう思わなかったの?」
「は?」
イーピンは雲雀が何を言っているのかわからず、ジッと雲雀を見つめてしまった。それまでわけもなく流れていた涙も止まってしまう。
「赤ん坊の時はどんな風に思いながら逃げてたの?」
「え?リボーンから逃げる時ですか………?そうですねぇ」
イーピンは口元に手を当てて考える。その仕草が可愛らしくて、思わず雲雀は目を細めた。
暫くしてイーピンはポンっと手を叩いて楽しそうに答えた。
「とにかく一度でもいいからリボーンに勝ちたくて…だからとにかく逃げてやるんだって思ってました!!」
するとイーピンの答えを聞いた雲雀は満足そうに微笑んだ。
「そう…ならいいよ」
「いいよって何がですか?」
「さぁ…何だろうね?」
「………?」
わけがわからずキョトンと目を丸くするイーピン。雲雀はそんなイーピンに手を差し出した。
「時間も時間だし。家まで送るよ。遅くなったら沢田綱吉の母親に怒られるからね」
「あ!雲雀さん!!」
イーピンが雲雀を呼ぶ。何だ?と思いながら雲雀が首を傾げると、イーピンは恐る恐るといった感じで尋ねてきた。
「今日…奈々さんがお鍋するって…だから…その……雲雀さんも一緒にどうですか?」
そのままイーピンは顔を真っ赤にして俯く。雲雀はクスリと笑うとイーピンの頭を優しく撫でた。
「いいよ。今日は凄く気分がいいから」
「本当ですか!?」
ぱぁっと嬉しそうに顔を綻ばせるイーピン。つられて雲雀も口元を緩める。
「じゃあ行こうか」
「はい!!」
雲雀はイーピンの手を取って歩き出す。イーピンは嬉しそうに雲雀の横に並んで歩いた。
気分がいい…と雲雀は思った。
最初、イーピンからリボーン以外は自分を捕まえることができないと聞いた時、悔しくてたまらなかった。
イーピンが自分相手でも逃げ切れると思っていることに………
だから鬼ごっこをしようと持ちかけたのだ。自分も捕まえることができるということをイーピンに教えるために。
まさかイーピンが、自分が早く見つけないから淋しくて泣いているとは思わなかったが。そして、早く見つけろと泣きつかれるとも思わなかった。
それだけで、自分の存在が彼女の中で特別なのだと感じることができた。
だから今日は他の奴らと群れてもいいかな…と思ったから、イーピンの誘いにのった。
「あの〜雲雀さん。よく私が公園にいるってわかりましたね?」
イーピンが首を傾げながら尋ねてくる。それに雲雀は目を前に向けたまま答えた。
「公園は君のお気に入りの場所だからね。よくここで修行してたし、僕と会う時もここが多かったしね」
そう言って、雲雀はイーピンに目を向けて微笑む。
いきなり微笑みかけられたイーピンは顔を真っ赤にして俯いた。
「雲雀さん………卑怯です」
「何が?」
楽しそうに微笑む雲雀をイーピンは目に涙を浮かべながらキッと睨んだ。
もうすぐ80000hitおめでとう!!ぐーちゃん(*´∀`*)
お祝いの言葉が変わってます(笑)でも祝ってるからいいよね??
というわけで、かなり昔に潜ってお茶してた時に出たネタで書きましたよ、鬼ごっこvv
一度作っていたら突然パソ子が動きを止めて、書いていたものが消えてしまった過去を持つ駄文(笑)
本当はもっとさばいばーな鬼ごっこにしようかと思ったんですが、長くなりそうなのでこんな感じに…
ここまでたくさんのキャラが出たのは復活では初めてかも(´V`)
ちなみに雲雀さんでもグレートマザー☆奈々には勝てませんvvという設定です。
駄文だけどぐーちゃん、こんなのでよろしければ煮るなり焼くなり……返品可。ゴミ箱行きおーけぃ!!
こちらの作品はぐーちゃんのみお持ち帰りです。
up 08.02.17
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