この日が来たら、絶対に笑顔で別れようと心に決めていた
"Mi occorra"
3月だというのに雪が降っていた。
雪の中をイーピンは一人、アパートに向かって歩く。ふと立ち止まり、イーピンは空を見上げて呟いた。
「空港にいた時はあんなに晴れてたのに………」
つい一時間程前までイーピンは空港にいた。イタリアに行く大好きな人たちを見送るために。その時は美しいほどの青空だった。旅立つ彼らを祝福するような………
ただ一人、日本に残るイーピンは一人ひとりに別れを告げた。その中にはイーピンの想い人はおらず、ただ、兄のように慕う青年が申し訳なさそうにイーピンを見つめていた。
『俺たち…イタリアに行くことにした』
3ヶ月前、兄のように慕う綱吉から聞かされた言葉。その時、綱吉の隣には雲雀がいた。
目を瞠って驚くイーピンに綱吉は申し訳なさそうに言葉を続けた。
『皆行くんだ。京子ちゃんもハルも…リボーンやビアンキも。そして守護者は雲雀さんも含めて皆………だからイーピン、君も一緒に…』
そこで綱吉はチラリと隣にいる雲雀を見た。しかし雲雀は目を伏せたまま黙っている。
イーピンは、とうとうこの日が来たのだ…と思った。だから。
『私は日本に残ります』
イーピンの言葉に綱吉は驚くが、雲雀は何の反応も見せない。それを横目で見ながらイーピンは続けた。
『もう引退したとはいえ、私は香港マフィアに所属していました。そんな私がイタリアに一緒に行ったら幹部の人たちは警戒しますよ。それに………私はもうマフィアとは関わりたくないんです』
わざと冷たく言い放った。綱吉は一瞬息を飲む。そんな綱吉を見て、イーピンは申し訳なく思った。
すると、突然雲雀が立ち上がった。思わず雲雀に目を向けたイーピンだったが、次の言葉で固まってしまう。
『わかったよ………』
今までにないくらい殺気のこもった言葉。冷たい視線。イーピンは目が熱くなってきたが、ここで泣いてはいけないと思い、目を伏せた。
そのまま何も言わずに部屋から出て行った雲雀。綱吉は呆気にとられていたが、ドアが閉まる音を聴いて我に返る。
『イーピン、いいの?雲雀さんと離れ離れになるんだよ?』
心配そうに尋ねてくる綱吉に、イーピンはそれまで我慢していた涙をひとすじ流しながら答えた。
『いいんです。これで………』
「だって私と雲雀さんは恋人同士ってわけじゃないし」
立ち止まり、舞い落ちる春の雪を見ながらイーピンは呟いた。
他の人たちに比べればよく一緒に過ごしてはいたが、雲雀とイーピンは恋人ではなかった。
イーピンは雲雀に片思いをしていたが、雲雀は凄まじい実力を持った小さな殺し屋に興味を示していただけ。それ以上でもそれ以下でもないとイーピンは思っている。
幼い自分に稽古をつけてくれたのも、ただの暇潰しだとも思っていた。
「そういえば………」
イーピンは以前、雲雀が言ったことを思い出した。
『君は本当に面白い子だね』
『へ?』
いつものように雲雀に稽古をつけてもらった。その休憩中にいきなりそんなことを言われて、イーピンは目を白黒させる。
そんなイーピンの反応を見て、雲雀は楽しそうに言った。
『こんなに小さいのに僕に挑んでくる。そんな奴滅多にいない。君だけだ。だから面白い』
『あ…ありがとうございます』
『だから君の事、手放せないね』
その時は小さくて意味がよくわからなかったが、今思えば凄いことを言われたような気がする…とイーピンは思う。
でも、それは雲雀の気まぐれだと思っている。だってあの頃は現役の殺し屋だったが、今の自分は普通の女の子。腕も、あの頃に比べたら落ちたとイーピンは自覚していた。
そんな自分がイタリアに行っても、迷惑をかけるだけ。そんなことはしたくない。
だからせめて、皆がイタリアに行く時は、日本に残る綱吉の母・奈々を自分が守ろうと思って日本に残ることを決意した。
「でも…ヒドイ言い方しちゃったかな…?」
マフィアと関わりたくないと言った。それが一番効果のある言葉と思ってイーピンは言ったのだが、綱吉は悲しそうな顔をしたし、雲雀は静かに怒っていた。
綱吉は望んでボンゴレのボスになったわけではないのに。雲雀は不良だったとはいえ、マフィアではなかったのに。
あの後、綱吉は「気にしてないよ」と言っていたが傷ついたに違いない。雲雀にいたっては、あの日以来ずっと逢っていない。
「…っ!ごめんなさい…ごめんなさい……」
ポロポロとイーピンの目から大粒の涙が零れる。
大好きな人に酷いことを言ってしまった。それがこんなにも苦しく、哀しい。
―――本当は私も一緒にイタリアに行きたい。ずっと貴方の近くにいて貴方を想っていたかった―――
込み上げてくる涙に耐え切れず、イーピンが俯いた時だった。
突然グイっと身につけていたマフラーを引っ張られ、イーピンは目を瞠る。
いくら殺し屋を引退したとはいえ、人が近付く気配くらいはわかる。それを一切感じさせないなんて一体誰だろう…と体を強張らせた、その時。
「そこで何してんの」
静かな、ずっとずっと聴きたかった声がイーピンの耳に届いた。
ゆっくり顔を上げると、目の前にはイーピンのマフラーを握っている雲雀がいた。イーピンは何も言えず、ただ雲雀を見つめる。
雲雀はそんなイーピンを見てハァ…と溜息をつく。そして再び口を開いた。
「おいで」
「どこに?」と聞かなくてもわかる。一緒にイタリアへ行こうと言われている。
イーピンの目から涙が再び溢れる。そして首をブンブンと勢いよく横に振った。
「行けません。私…行けません」
「どうして?」
「だって…私………」
駄々っ子のように首を振り続けるイーピン。そんなイーピンに雲雀は静かな声で言った。
「もう殺し屋じゃないから?」
ビクンとイーピンは体を跳ね上げる。雲雀は更に続けた。
「以前に比べて腕がおちたから?一緒に行けば幹部たちに疑われるから?沢田綱吉や僕に迷惑をかけるから?」
「……………」
押し黙るイーピン。雲雀はマフラーを持つ手に力を込め、ほんの少しだけイーピンを自分の方に引き寄せた。
「そんなこと、君が気にしなくていい。君に妙なことを言う奴は僕が咬み殺してあげるから。だから」
雲雀はほんの少し口元を緩める。
「おいで。僕と一緒に」
何が何だかイーピンにはわからなかった。ただ、雲雀の言葉が耳の届いた瞬間、嬉しくて堪らなかった。
先程から流している涙を更に溢れさせながら、イーピンは呟いた。
「…はい…!」
すると雲雀は「いい返事」と言って、そっとイーピンを抱き寄せた。
「もしかして、僕が君を手離すとでも思ってた?」
「……」
しばらく泣きじゃくっていたイーピンが落ち着いたのを見てから、雲雀は尋ねた。イーピンは何も答えず俯く。
雲雀はフッと微笑むと、イーピンの顔を両手で包んで自分の方に向かせる。
「離してなんかあげないよ」
それだけ言うと、雲雀はイーピンの唇に軽くキスをした。
つい最近まで。雲雀はイーピンのことを他の守護者たち同様、妹のように思っていた。
他人に全くと言っていいほど興味を示さない雲雀がイーピンに興味を示したのは、小さいながらにイーピンが将来有望な殺し屋だったから。
稽古に付き合っていたのも、気まぐれと暇潰し。でも、意外にもその時間は楽しかったりした。
イーピンへの思いが変わったのはあの日。綱吉がイタリア行きを告げた時。
てっきり雲雀は、迷うことなくイーピンはイタリアについて来るだろうと思っていた。彼女が兄のように慕う綱吉やその友人たち。それに彼女が自分に想いを寄せていることにも気付いていた。
だからイーピンは必ずイタリアに一緒に行く。そう思っていた。
しかしイーピンの答えは意外なものだった。
聞いた瞬間は怒りで我を忘れて何も聞かずに出て行ったが、後からイーピンが悩んで出した決断だったということに気付いた。
(深く考えすぎなんだよ、君は)
そう思った瞬間、雲雀はイーピンが愛おしくなった。
あの日以来、仕事が忙しくてイーピンに逢う時間が取れなかった。
しかし、綱吉たちがイタリアに行く日までには必ず、イーピンに一緒に行こうと言おうと思っていた。まさか当日になるとは思わなかったが。
突然キスをされて、イーピンは顔を真っ赤にして固まる。そんなイーピンの反応を可愛いなと思いながら、雲雀は微笑んだ。
「昔、君の事手離せないって言ったよね?アレは子どものくせに強い君が面白くて、成長を見てみたいな…って思ったから」
「そう…なんですか?」
「そう。でも今は違うよ」
「え………?」
キョトンと首を傾げるイーピン。
子猫のような彼女はもうすぐ僕のモノになる。そんなことを考えながら、雲雀はイーピンを抱きしめる腕に力を込めた。
「君のことが好きだよ。だから手離すことなんてできない」
イーピンは驚きのあまり目を瞠る。思わず雲雀の服をギュッと握り締めた。
そんなイーピンに追い討ちをかけるように、雲雀は耳元で囁いた。
―だから、僕についておいで―
イーピンは勢いよく顔をあげる。そして涙を流しながら微笑むと、雲雀に思いっきり抱きついた。
すずらんの花言葉 ―純愛・幸福の再来―
ごめんなさい!本当にごめんなさい!!青井しずか様!!!
何てモノを書いてしまったんだ!!私!!アホだ!アホすぎる!!!
しーちゃんの素敵絵を見てたら妄想が爆走し、ネタ使用許可を頂いてノリノリで書き;;;
すずらんの花言葉って素敵だな〜とか思いながら背景つけて読み返して………
素敵絵に泥を塗るような作品にマジで涙が出ました;;;本気で申し訳ないです、しーちゃん(T_T)
どうか石を投げないでください、皆様;;;
しーちゃんが「こんなもん、認めねぇよ!!」と言った瞬間、こちらの駄文は即撤去します。
それまでの儚いupでございます。
そういうわけで、しーちゃん。こんなのでよろしければ煮るなり焼くなり……返品可ですし、いつでも撤去準備してますから。
こちらの作品は青井しずか様のみお持ち帰りです。
up 08.03.08
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