一つちょうだい <イチルキ>
「貴様、さっきから何を食べている?とてもいい匂いがするのだが………」
「ああ、コレだよ」
ルキアに言われて、一護は机の引き出しから箱を取り出す。
「チョコレート。遊子が新発売のヤツを買ってきたんだよ」
一護は箱からチョコを一つとって口の中に入れる。それをルキアはジーっと見つめていた。
「何だよ………?」
「私も食べたい」
目をキラキラと輝かせて頼むルキア。しかし一護は眉間に皺を寄せる。
「ヤダよ。あと一個しかねぇんだ。俺のチョコなんだから俺が食う」
大好物のチョコを渡してなるものかと、一護は最後のチョコに手を伸ばす。しかし。
「貴様!私に内緒で一人で食べておいて、最後の一つをくれないのか!?なんてケチな男だ!!」
ルキアは一護に文句をいいながら同じく、最後のチョコに手を伸ばす。
そのまま二人でチョコの入った箱の取り合いになった。
「コラ!ルキア、離せ!!」
「貴様こそ離せ!一護!!」
お互い意地になって箱を離さない。一護はだんだん腹がたってきて、箱を思いっきり引っ張った。
ところが、強く引っ張りすぎて箱と一緒にルキアが一護に倒れかかり、二人はそのまま床に倒れた。
「いててて…悪りぃ、ルキア。引っ張りすぎた」
一護は起き上がろうとしたが、ルキアが自分の上に乗っていることに驚いた。ルキアは一護の上に乗ったまま起き上がる。
「大丈夫か、一護?頭は打ってないか?」
心配そうに一護を見つめるルキア。しかし、一護の視線はある場所に釘付けになっていた。
(ムネ…ムネが見える………!!)
パジャマ一枚着ただけのルキア。暑いからか一番上のボタンを外していて、そこから胸が見えた。
顔を真っ赤にする一護。そんな一護見てルキアは首を傾げる。
「全く。お前が意地になるから倒れてしまったではないか」
「悪かった!俺が悪かったから、早くどいてくれ!チョコやるから!!」
「本当か!?」
このままでは頭が爆発してしまうと思った一護は、ルキアにそう言った。するとルキアは嬉しそうに笑って一護の上から下りる。
「では、いただくぞ」と言ってチョコを口の中に入れた。
幸せそうにチョコを食べるルキア。それを見て一護は思った。
天然は困る………と。
web clap up 07.04.26
相変わらず不憫な一護でございます。
許して <白緋>
「たまには屋敷を出てみるか?」
「よろしいのですか?白哉様」
白哉の問いに戸惑いながらも、緋真は嬉しそうに微笑んだ。
屋敷を出て、二人は川原に向かって歩いた。その間、緋真は今日あった出来事を白哉に話した。
「生花の練習をしたのですけど、なかなか上手くできなくて………。先生に怒られてしまいました」
困ったように笑う緋真。白哉はそんな緋真を見て眉を寄せた。
流魂街の出身である緋真を、朽木家の者は快く思っていない。
おそらく自分がいない間、緋真はかなり嫌な思いをしているのだろう。白哉は思わず緋真を抱きしめた。
「白哉様?どうなさったのですか?」
いきなり自分を抱きしめてきた白哉に、緋真は顔を真っ赤にしながら尋ねる。
白哉は緋真を離すと、辛そうな表情で緋真を見つめる。今まで見たことがない白哉の表情に緋真は驚く。
「すまない。私のせいでお前は辛い思いをしているのだな………」
白哉の言葉に驚いた緋真は、慌てて白哉の着物の袖を掴んで言った。
「辛くなどありません!白哉様のためになると思ったら、練習も楽しいですもの」
「だって白哉様、お花がお好きでしょう?」と言って、緋真は微笑む。
白哉は再び緋真を抱きしめた。
川原に着くと、緋真は「わあ」と声を上げて降りていく。白哉もその後に続いた。
「白哉様、見てください。蒲公英です」
緋真は地面に咲いている黄色い小さな花を指差す。白哉は首を傾げた。
「蒲公英………?」
「はい。とても可愛らしいでしょう?私、昔から蒲公英が好きなんです」
そういって、緋真は黄色い蒲公英の横にあった綿毛の蒲公英を摘んだ。
「これも蒲公英なんですよ。こちらは種なのですが、こうやって………」
緋真はフゥと息をかける。すると綿毛がふわりと飛んでいった。思わず白哉は目を瞠る。
「ね?おもしろいでしょう?白哉様もやってみます?」
緋真はそれは幸せそうに白哉に微笑んで、綿毛の蒲公英を差し出した。白哉は蒲公英を受け取る。
そして思った。
緋真に豪奢な華は似合わない。彼女に似合うのは野に咲く可憐な花。
そんな彼女を豪奢な華で縛り付けているのは自分。自分に会うことがなかったら、彼女は今も可憐に咲き続けていたはず。
許して。お前を縛り付けている私を許して。
お前を縛り付けている代わりに、お前は私が守るから………。
白哉はそっと、蒲公英に息をふきかけた。
web clap up 07.04.27
この二人のテーマは大人の愛です。
久しぶりだから… <イチルキ捏造シリーズ>
「やられた………」
一護は空を見ながら呟いた。
今朝寝坊した一護は天気予報を観ずに大学に行った。その時は曇っていたが、雨は降っていなかった。
ところが昼過ぎから雨が降りだし、今ではどしゃ降り状態だ。
こういう時に限って知り合いは全員帰っていて、途中まで傘に入れてもらうことができない。
石田は同じ大学に通う織姫が傘を持ってきていなかったため、織姫を傘の中に入れて先に帰ってしまった。
(仕方ない。このままここにいても埒があかないから、濡れるの覚悟で帰ろう)
覚悟を決めて一護が一歩踏み出そうとした時。
「一護!」
ここにいる筈のない人物の声が聞こえて、一護は声のした方を見た。そこに傘をさしたルキアが立っていた。
「ルキア!?何でここに?」
「さっき石田と井上に会ってな。一護が傘がなくて困っていると言うから迎えに来たのだ」
「助かった。このまま濡れて帰ろうかと思ってたんだ」
そう言って一護はルキアの元に行くと、「貸せ」と言ってルキアが持っていた傘を手にとった。
「お前も大学の帰り?」
「ああ。駅で二人に会ってな。そのままこちらに来たのだ」
「悪りぃな。ありがとう」
一護は素直に礼を述べた。なぜなら、ルキアの大学は一護の大学と方向が逆だからだ。
朝、一緒に家を出ても駅までしか一緒に行けない。そこからは別の電車に乗るのだ。
つまり、一護を迎えに行くために遠回りさせてしまったようなものなのだ。
「別に構わぬよ。雨に濡れて貴様が風邪をひいたほうが困る」
「そうか………」
ルキアが自分のことを心配してくれたのがくすぐったくて、一護はほんのり頬を染めた。
「………久しぶりだな」
「は?」
突然ルキアがわけの判らない発言をしたので、一護は眉間に皺を寄せた。
「何が久しぶりなんだよ?」
一護が問うと、ルキアはふわりと微笑みながら言った。
「こうやって、二人で一緒に学校から帰るのが久しぶりだな」
それを聞いて、確かにと一護は思った。
以前は毎日一緒に登下校をしていた。今は朝、駅までしか一緒に行けない。
今まで当たり前だったことが出来なくなってしまったんだな、と一護は改めて思った。
だったら今日は―――
「ルキア」
―――久しぶりに寄り道をして帰ろうか?―――
web clap up 07.05.19
これを制作した日がすごい雨だったもので。
邪魔者? <イチルキ+石田>
昼休み。屋上。本日は晴天。
井上さんに誘われて一緒に昼食をとるために屋上に来たのだけど………
来るんじゃなかったと後悔している。なぜなら。
「どうだ?一護?」
「……あぁ。うまい」
「本当か!?」
先程から僕の隣で、黒崎と朽木さんが僕のことなど気にせずイチャついているからだ。
「卵焼きは遊子に教えてもらったのだ!巻くのが難しくてかなり苦戦したぞ」
「苦戦したわりには上手に巻けてるじゃねぇか」
そう言いながら、黒崎は卵焼きを口に運ぶ。それを朽木さんは真剣な目で見つめていた。
「ん…。うまい」
「本当か!?」
黒崎の上手いの一言に、朽木さんは頬を赤らめて喜んでいる。
そんな朽木さんに、黒崎は微笑みかける。
そんな黒崎の表情を今まで見たことがなかったので、僕は思わず目を瞠ってしまった。
(アイツでもあんな表情をするんだな………)
ボーっと二人を見つめていた僕だったが、ふと我に返る。
「あの………」
僕は勇気を振り絞って(?)二人に声をかけた。
「イチャつくのはいいんだけど、余所でやってくれないかな?君達」
僕がそう言うと、黒崎たちは不思議そうに目を合わせ、首を傾げて言った。
「別にイチャついてなんかねーぞ」
「そうだぞ。私が作った弁当の感想を聞いているだけだぞ」
それだけ言って、二人は再び弁当を食べ始めた。今度は煮魚の味付けについて話しながら。
あぁ…無自覚って本当に困る。特にこの二人はタチが悪い。
(井上さん、早く来てくれ………)
今の僕は邪魔者?
web clap up 07.07.16
バカップルの被害者・石田(笑)
七夕 <白緋>
「はい。白哉様」
「………?」
仕事を終えて邸に帰った白哉に、緋真は薄紫色の長細い紙を渡した。
「…何だ、これは?」
「何だ…って、短冊です。今日は七夕ですよ、白哉様」
眉間に皺を寄せて短冊を凝視する白哉に、緋真は呆れたように言った。
「白哉様、七夕を知らないんですか?」
「いや…知ってはいるが、やったことがない」
白哉がそう言うと、緋真は目を瞠って驚いた。しかし、すぐに白哉に微笑みかける。
「じゃあ、初めての七夕を楽しみましょう?」
幸せそうに微笑む緋真。白哉も思わず微笑み返した。
「この短冊に願い事を書いて、笹につけるんです」
「そうか………」
緋真に説明され、白哉は願い事を書こうと筆をとる。
ふと横を見れば、緋真がうーんと唸りながら必死に願い事を考えていた。
「何をそんなに悩んでいるんだ?」
「きゃあ!!」
真剣に悩んでいた緋真は、白哉に話しかけられて驚く。白哉はその緋真の声に驚いた。
「そんなに驚くな。吃驚したではないか」
「ご…ごめんなさい」
俯く緋真。白哉はそっと緋真の頭を撫でて尋ねた。
「何を悩んでいる?」
白哉の問いに緋真は少し逡巡した後、口を開いた。
「その…短冊を二枚貰ったんですけど…一枚は白哉様の分で…その………」
緋真の答えを聞いて、白哉はああ…と納得した。
緋真は願い事が二つあるのだな…と。
「では、私のをあげよう」
「え!?でも白哉様は!?」
「私はよい。ほら」
「…ありがとうございます」
緋真は嬉しそうに白哉から短冊を受け取った。
短冊に願い事など書かなくても、私の願いは叶った。
緋真という愛すべき存在を手に入れることができた。だから―――
次は、君の愛すべき存在が見つかりますように。
web clap up 07.07.16
できなかった七夕話を拍手にて。
りんご飴 <イチルキ捏造シリーズ>
「夏祭り、楽しむぞーーー!!!」
現在、黒崎家の面々は近所の夏祭りに来ている。
「じゃあ父さんと遊子と夏梨はあっちに行くから、お前とルキアちゃんは適当に廻って来い!」
その一言で一護たちは一心たちと別行動をとる事になった。
一心と夏梨がニヤニヤしながら一護を見ていたが、一護はそれを無視した。
「じゃあ、また後で」
一護とルキアは一心たちと別れた。
「何故私たちは別行動なのだ?一護」
「そりゃ、親父たちが勝手に気を利かせてくれたってヤツだよ」
「気を………?」
何だかよくわかっていないルキア。一護は溜息をついて「気にすんな」と言った。
「それにしても、浴衣って歩きにくいよな………」
一護は忌々しげに浴衣を見る。今日は祭だからと無理矢理浴衣を着せられたのだ。
「貴様…死神の時は着物ではないか」
「あれは袴じゃん」
呆れるルキアに、一護は浴衣とは違うとばかりに言う。
「まぁ…頑張れ」
ルキアは呆れ顔で言った。一護は思わず眉間に皺を寄せた。
「ところで、お前何か欲しいものあるか?」
一護はルキアに尋ねた。ルキアは人差し指を口にあてて考える。
「ん〜特には………」
キョロキョロと辺りを見回したとき、ルキアはあるものに目がいった。
「一護。あれがいい」
ルキアはそう言って指をさす。一護はそちらに目を向けた。そこにはりんご飴があった。
「お前…アレ好きだよな」
そう言って、一護はりんご飴を買いに行った。
りんご飴を買いに行く一護を見送りながら、ルキアはそっと微笑んだ。
―――一護。私がりんご飴が好きなのは―――
「ホラ。買ってきたぞ」
一護は買ってきたりんご飴をルキアに渡す。
ルキアは「ありがとう」と言って、りんご飴を受け取った。そして袋から取り出す。
ふわりと漂う甘い香り。ルキアはりんご飴を一口食べた。
「貴様も食べるか?」
「いいのか?」
ルキアがりんご飴を差し出すと、一護は嬉しそうに笑ってりんご飴を一口食べた。ルキアはニッコリと微笑んだ。
―――貴様がりんご飴を美味しそうに食べる顔が好きだからだよ―――
web clap up 07.08.15
今年はなかなか祭に行けませんでした(涙)