拍手小咄 2


いつも側に <白緋>



最近の緋真の楽しみは、お気に入りの侍女とこっそり買い物に行くこと。
それも屋敷の者には気付かれないように。白哉にも。
供をしている侍女は止めた方がいいと何度も言うが、どうしても止められない。
お気に入りの店もできたし、店の者と話すのも楽しい。そして、何より。

あの広い屋敷に一人でいるのが淋しかった。

白哉の妻とはいっても、流魂街出身の緋真に屋敷の者たちは冷たかった。
白哉のいない屋敷の中で頼れる者は、この侍女だけだった。

その日、白哉は帰りが遅くなると言うので、緋真はこっそり屋敷を抜け出した。
周りの景色を見ながらお気に入りの店に行く。
何か買うというわけではないが、以前から気になる櫛を眺めながら店の者と話して帰路についた。
屋敷に戻った緋真は部屋に入るなり目を瞠った。遅くなると言った白哉が部屋にいたのだ。
驚く緋真に白哉は微笑む。そして。

「楽しかったか?」

と聞いてきた。その言葉で緋真は屋敷を抜け出していたころに白哉が気付いていたことを知った。
気付いていて黙ってくれていたのは自分のためだと気付いた。

「ごめんなさい、白哉様…私………」

謝る緋真に白哉は再び微笑むと、両手で緋真の顔を包み込む。

「気にするな。お前も淋しかったのだろう?最近、全く構ってやれなかった…済まぬ」

頭を下げる白哉に驚き慌てる緋真。思わず両手を上げてブンブンと横に振る。

「いいえ!白哉様に黙って屋敷を抜け出した私が悪いんです!ごめんなさい!!」

必死に謝る緋真を見て白哉は可笑しそうに声を出して笑う。
声を出して笑う白哉など見たことがない緋真は、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして俯いた。

「確かに黙って屋敷を抜け出すのは感心しないな」
「ごめんなさい………」

白哉に窘められて緋真は落ち込む。

「だから今度は私も一緒に行こう」

緋真は思わず白哉を見た。白哉は続けて言った。

「私も緋真と過ごせなくて淋しく思っていたのだ。お前は常に私の側にいてくれ」

白哉の言葉に、緋真は泣きそうになった。

―――こんな私で良いのですか?いつも側にいても良いのですか?―――

緋真は目に涙を浮かべながら、白哉に微笑んだ。



web clap up 07.10.05



しっとりとした感じに仕上げたつもりです。






ずっと待ってる <イチルキ>



かれこれ1時間近く待っているような気がする、とルキアは思った。

家族公認の居候とはいえ、以前のように一護の部屋の押入れで住めなくなったルキア。
死神関係の話をするにも、黒崎家の皆に聞かれないよう夜中に一護の部屋で話すしかない。
今日もそのためにルキアは一護の部屋で一護が戻ってくるのを待っていた。
ちなみに一護は近くのコンビニに買い物に行っていた。

「遅い………」

いつもは15分くらいで戻ってくる。長くても30分。しかし今日はもう1時間ちかく経っている。
ルキアは一護のベッドに乗って、そこから窓の外をみた。一護が戻ってくる気配はない。

「一体、どうしたのだ?」

誰もいないのに、ルキアは誰かに問いかけるように呟いた。
しばらく外を眺めてから、ルキアはベッドに寝転んだ。

「何だか、いつも私が待っているような気がする」

ルキアは思わず呟いた。学校に行くときも帰るときも一護を待っている自分。
でも、その待っている時間は嫌いじゃない。
「ゴメン」と申し訳なさそうに謝る一護の表情が。
怒る自分の頭を優しく撫でる手が。
自分が「もう怒ってない」と言った後、安心したように笑う一護の笑顔が。

愛しくて、愛しくて、堪らない。

「早く帰ってこないかな………」

コンビニに行くのなら…と頼んだ白玉あんみつが早く食べたい。
でもそれ以上に、大好きなチョコレートをおいしそうに食べる一護を見たい。
再び外を見る。未だに一護が帰ってくる気配はない。ルキアは溜息をつく。

「早く帰ってきますように」

思わずルキアは星に向かって願い事をした。
流れ星ではないが、同じ星だからきっと願い事を叶えてくれると思いながら。
星を見ていたルキアはだんだん瞼が重くなってきた。
いくらなんでももうすぐ一護も帰ってくるだろうに、自分が眠ったら話ができない。
何とか堪えようとしたルキアだったが、眠気にはどうしても勝てず、とうとうベッドで眠ってしまった。

(一護が帰ってきたら怒られる………)

その後。
コンビニから帰ってきた一護は、ルキアが気持ちよさそうに眠っているので起こすことができなかった。




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ウチのルキア嬢は願い事が大好きです。






怒るだけ損 <イチルキ+α>



「本当に殴りたかったッスよ………」
「殴ればよかったじゃない?」

十番隊の執務室。そこに何故か六番隊副隊長がいて、なにやらぼやいていた。
その相手をしていた十番隊副隊長は、それは楽しそうに話を聞いてあげていた。

「アイツら、俺がいること絶対忘れてましたよ………」
「あの二人はいつもそんな感じじゃない」

ケラケラと楽しそうに笑う乱菊。恋次が思いっきり溜息をついた時だった。

「何やってんだ?松本。阿散井」
「あぁ、隊長。おかえりなさい。いえ、実はですねぇ………」

執務室に戻った日番谷に乱菊は手をあげると、楽しそうに話しはじめた。

現世で任務があった恋次は、久しぶりに幼馴染のルキアに会いに行った。
ルキアは今、現世で死神代行の一護のサポート役の任務についている。
なかなかソウル・ソサエティに戻れない彼女のために最近の話でもしてやろうと思ったのだが……
一護の家に行くと、二人は仲良くおやつを食べていた。しかも恋次を見た途端、二人で

「何しに来た?」

と言い放った。ムカっときたがそこは押さえて「遊びに来た」と言った恋次。二人は「ふ〜ん」とだけ言った。
しばらく三人で話していると、ルキアが目を擦り始めた。
眠たいのか?と恋次が尋ねると、ルキアはコクリと頷いた。すると一護が。

「テストだったからな。眠たいなら寝てていいぞ」

と言った。するとルキアは「そうだな」と言って、寝転んだ。一護の膝に頭を乗せて。
それを見て絶句した恋次。そんな恋次を気にすることなく、ルキアは眠り、一護はルキアの頭を撫でる。

「お前ら…いつもこんなことやってるのか………?」

どうにか落ち着いて、それだけ尋ねた恋次。すると一護はあっさりと答えた。

「そうだな。俺もルキアにしてもらうことあるし」

そう言っている間も、一護は大切な宝物を扱うかのようにルキアを撫でていた。

「それを聞いた瞬間、一護を殴りたくなったんですって、恋次」
「無自覚だから余計ムカつくんですよ!」

ギャーギャーと騒ぐ乱菊と恋次。それを見て日番谷は溜息をついた。

「どうしたんですか?隊長?」

乱菊が尋ねると、日番谷は眉間に皺を寄せた。

「アイツらに突っ込むだけ無駄な労力だ。無視したほうがいい」

言って自分の机に向かうと、日番谷は仕事を始めた。
日番谷のもっともな意見に二人は頷く。頷くと同時に………

―――日番谷隊長も、あの二人にやられたことがあるのだろうか?―――

そんなことを思ってしまったのだった。




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イチルキ以外の方が大活躍(?)のお話。






悩んだんだよ? <ヒバピン>



突然左手を掴まれて、イーピンは目を瞠った。
普段は外国にいて滅多に会えない恋人、雲雀。その雲雀が目の前にいるだけで驚いているのに………
何故左手を掴まれているのだろうと思う。しかも雲雀は真剣な眼差しでイーピンを見つめていた。

「あの……雲雀さん?」

耐えきれなくなって、イーピンは雲雀に話しかけた。
すると雲雀はイーピンの左手を自分の方に引き寄せると、指に何かを嵌めた。

「へ?」

イーピンは左手を翳す。その薬指には指輪があった。
シンプルなデザインの、ほんの少しピンク色をしたダイヤの指輪が。

「ひ、ひ、ひ、雲雀さん!何ですか!?コレ!!」
「何って、プレゼントだよ?」
「プレゼント!?」
「だって、今日は君の誕生日でしょ?」
「………あ」

すっかり自分の誕生日を忘れていたイーピン。雲雀は呆れたようにイーピンを見ていた。

「誕生日を忘れるなんて、どうかしてるね」
「………雲雀さんにだけは言われたくないです」

自分だって誕生日以外のことは忘れるくせに…と口には出さないがイーピンはそう心の中で呟いた。

「僕は別にいいの。興味ないから」

雲雀はそう言うと、イーピンから目を逸らした。何となく居心地が悪かったから。

「女の子って、そういうの好きなんでしょ?僕にはよくわからないけど」

そう言って、雲雀はイーピンの薬指にキスをする。
「ひゃ!!」と叫んで顔を真っ赤にするイーピンを見て、雲雀は楽しそうに笑った。

「結構悩んだんだよ?誰かにプレゼントするなんて初めてだからね」
「そうなんですか?」

プレゼントをするのが初めてと聞いてイーピンは驚く。

「まぁ…指輪にしようとは初めから思ってたけどね」
「どうしてですか?」

ニッコリと笑う雲雀に首を傾げて尋ねるイーピン。雲雀はイーピンの左手を再び掴んだ。

「だって、この指に指輪をつけてたら君は僕のモノって証明になるでしょ?」

妖艶な微笑みを湛えて言う雲雀に、イーピンはこれ以上ないというくらい顔を真っ赤にする。
すると雲雀はイーピンの耳に口を寄せた。

「指輪、外したらダメだからね。君は僕のモノなんだから」

その甘い囁きにクラクラしながらイーピンはコクリと頷く。そして花が綻ぶように微笑んだ。

「ありがとうございます。大事にしますね」




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ヒバピン、拍手に進出!!(笑)ピンちゃんお誕生日ネタ






君と二人なら <ヒバピン>



「嫌だ」
「即答しないで少しは考えてください………」

予想していたとはいえ、こうもあっさり断られると何だか泣きそうだ…とイーピンは思った。
毎年、年末は忙しくて日本にいない雲雀が珍しく年明けまで日本にいると言った。
だからイーピンは、ずっとやってみたかったことを一緒にしてくれないかと雲雀に頼んだ。

一緒に初詣に行きたい………と。

「そんなの考えなくても却下だよ。面倒くさい」
「きっと楽しいですよ!人もたくさん来て、出店とかもいっぱい出て…」
「………君さ」

必死なイーピンを見て、雲雀は持っていた書類を置いて溜息をつく。そして徐に口を開いた。

「周りの人間、咬み殺していいの?」

その言葉を聞いて、イーピンはハッと思い出す。雲雀は群れるのが嫌いだったことを。
人が集まる場所に雲雀を連れて行ったら確実に周りは血の海。年越しどころではない。新年早々、警察沙汰。

「………わかりました。初詣に行くのは諦めました」
「それはよかった」

雲雀は再び書類を取って読み始める。それを横目で見ながらイーピンはポソリと呟いた。

「雲雀さんに一番最初に新年の挨拶したかったのにな………」

ほとんど無意識に言ったのだが、その呟きは雲雀の耳に届いていた。
驚いてイーピンをジッと見つめたが、イーピンは先程のことがショックだったようで気付いていない。

(全く、この子は………)

雲雀は手を伸ばしてイーピンを抱き寄せた。突然のことにイーピンは目を瞠る。

「雲雀さん!?」
「君さ。何か勘違いしてるでしょう?」
「へ?」
「誰も君と年越ししないとは言ってないだろう?」
「それって………」

恐る恐る尋ねるイーピンに雲雀は微笑む。そして―――

「僕は君と二人で静かに年越ししたいんだけど?」

「ダメかい?」と続けて尋ねると、イーピンは頬を染め、嬉しそうに微笑む。
そしてイーピンにしては珍しく、雲雀に抱きついてきた。

「そんなことないです!凄く嬉しいです!!」
「じゃあ…新年用に着物でも新調する?」



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イーピンと二人きりがいい雲雀さん(笑)






願うことは同じ <イチルキ>



来年も―――


「毎年思うのだが、現世の正月は何故こうも騒がしいのだ?」
「騒がしいって…初詣で人が集まってるからな。騒がしくなるわな」

眉間に皺を寄せて一護に尋ねるルキア。同じように一護も眉間に皺を寄せて答えた。

「あれ?じゃあソウル・ソサエティの正月って静かなのか?」

一護が不思議に思って尋ねると、ルキアは首を振った。

「賑やかだぞ。新年の挨拶に大勢の貴族たちがやって来て食事をするのだ」
「それはお前の…というより白哉だけだろ………」

一護は盛大に溜息をついた。

「恋次とか乱菊さんとかはどうしてるんだよ?」
「ああ…何でも皆で酒を飲んでるらしいが、任務があるからな。皆、程々にしているらしい」
「ん?お前は恋次たちと正月を過ごしたことがないのか?」

人事のように答えるルキアを不思議に思って、一護は尋ねた。するとほんの少しルキアが悲しそうな顔をした。

「私は………朽木家の者だからな」

その一言で一護は全てを理解した。ルキアは寂しい思いをしていたのだろうと。
心なしか項垂れているルキアの頭を一護はポンポンと優しく叩く。
不思議そうに一護を見るルキア。そんなルキアに一護は言った。

「今年は現世の正月を楽しめ。ウチは全員でバカ騒ぎするから退屈しないぞ」

一護は少し前を歩く家族を指さす。ルキアは一瞬目を瞠ったが直ぐに微笑んで「そうだな」と頷いた。

「初詣がすんだら出店に行ってなんか買ってもいいしな」

するとルキアがクイっと一護の服を引っ張った。一護は何事かと首を傾げる。

「一護。初詣とは何だ?」
「…お前、初詣知らないのかよ?そうだな…簡単に言えば神頼みか」
「神頼み?」
「今年一年の願い事をするというか。病気になりませんようにとか、受験に受かりますようにとか」
「そうか!それは楽しそうだな!!」

目を輝かせるルキアに「楽しそうって…」と一護は呟く。
ソウル・ソサエティには神様なんて存在しないのだろうか?と思いながら歩く。

「そうだ!一護!私は願い事が決まったぞ!!」
「何だよ…突然」

いきなり叫ぶように言われて一護は驚く。ルキアはそんなことは気にせずに一護に尋ねた。

「貴様は願い事が決まったか?」
「あー…決まってるけど教えねぇ。教えたら叶わないって言うからな」

そう言って、一護はニッと笑った。


―――来年もキミと一緒に初詣に行けますように―――




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同じ願い事をしてる二人









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