拍手小咄 3


意地悪 <白緋>



久しぶりの非番だった。
しかも長い休みだったので、白哉は緋真をつれて別宅に行った。
自分がゆっくり休みたいのもあったが、緋真を朽木家から連れ出すのが目的だった。
やはり白哉がいない間に、緋真に冷たくあたる者がいるらしく、緋真は心を痛めていたのだ。

「ここのお庭は梅が綺麗ですね」
「そうだな」

にこにこと嬉しそうに微笑みながら、緋真は庭を眺めていた。
その横で、白哉は本を読んでいた…というより、庭を眺めている緋真を見ていた。

「ここは別宅の中でも特に庭が美しい。これからは桜や木蓮が咲くだろう」
「まあ…それはとても綺麗なんでしょうね」

緋真は白哉に微笑むと、再び視線を庭の梅に向ける。とても幸せそうに微笑みながら。
朽木家にいる時とは明らかに違う表情。初めて逢った時のように明るい表情。
それを見ていると、自分は本当に緋真と結婚してよかったのだろうかと白哉は思う。
しかし、緋真でなければ駄目だった。緋真以外の女性と結婚など、白哉は考えられなかった。
白哉は本を閉じ、緋真の隣に座る。

「白哉様?」
「桜が咲いたらまたここに来よう。梅雨の頃は紫陽花が綺麗だ」
「よろしいのですか?頻繁に本家を空けても………」
「よい。私が来たいのだから」

白哉はそっと後ろから緋真を抱きしめる。

「私はお前と一緒に季節の花々を見たいのだ」
「白哉様………」

緋真は目を瞠って驚くが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。それを見て白哉もうっすらと微笑む。

「約束を破ったら許さないぞ」
「あ………」

白哉はそっと緋真のうなじに口付けをする。緋真は思わず体を揺らした。

「白哉様…くすぐったいです」
「そうか?」

ほんのり頬を染める緋真に白哉は何事もなかったかのように答える。
そんな白哉を睨みつけるようにして緋真は言った。

「白哉様は意地悪です」
「………そんなつもりはないのだがな」

白哉は楽しそうにそう言った。



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うなじ祭・第一弾☆大人風味なつもりです。






僕を見ないから <ヒバピン>



―――ガマンしてるんだから、これくらいは許してよね?―――


「君さ…さっきから何やってるの?」
「何って…英語の課題ですよ?結構難しいんです」

雲雀が不機嫌そうに尋ねる。それに簡単に答えると、イーピンは再び課題に目を向ける。

「君…英語話せるよね?」
「英会話と英文法は違います。文法って複雑でよくわからないんです」

再び雲雀が尋ねた。しかしまたしてもイーピンは簡単に答えただけで、課題に取りくんでいる。
面白くない…と思いながら、雲雀は立ち上がった。
久しぶりの休暇。最近忙しくてなかなか逢えなかったから急いで日本に帰国したというのに。
恋人であるイーピンはテストが近いから…と先程から勉強ばかりしている。
いつもなら、ほんの少し雲雀が動いただけで反応するのに、今日は全く反応がない。

(何か本当に腹が立ってきた………)

そんなことを思いながら、雲雀はチラリとイーピンを見た。
熱心に辞書と参考書を使って問題を解くイーピン。テストだから仕方がないのだが、やはり面白くない。
久しぶりに逢ったのだから、自分を見て欲しい。自分もイーピンを見たい。
その時、ふとイーピンの白いうなじが目に入った。
瞬間、雲雀はあることを思いつく。思わずニヤリと笑ってしまった。
雲雀はそっとイーピンの後ろにつく。イーピンは課題に集中していて雲雀の行動に気付いていない。

「ひゃあっ!!」

突然イーピンが声をあげる。何故なら雲雀がイーピンのうなじにキスをしたからだ。

「何するんですか!?雲雀さん!!」

顔どころか首まで真っ赤にしてイーピンは抗議する。しかし………

「やっとこっちを見た」
「………はい?」

何故か楽しそうに微笑む雲雀。訳がわからずイーピンは首を傾げる。
すると雲雀はイーピンの顔に自分の顔を近づけて言った。

「君が僕を見ないから…お仕置きしたの」

そう言って雲雀は微笑むと、今度はイーピンの鎖骨の辺りにキスをする。

「ちょっ…!雲雀さん!!」

身を捩って抵抗するイーピンを雲雀は不機嫌そうに見つめる。

「久しぶりに逢ったのに、君が僕を無視するからだよ」
「雲雀さん………」

身勝手極まりない、自分本位の考え。でもそれはまさしく雲雀らしくて………

「………もう」

イーピンは雲雀の首に腕を回した。




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うなじ祭・第二弾☆ウチの雲雀さんはお子様です(笑)






桜並木 <ヒバピン>



坂を上りきった瞬間、目に飛び込んできたのは美しい桜並木だった。

「うわぁ!綺麗な桜並木ですね!!雲雀さん」
「そうだね」
キョロキョロと辺りを見ながら歩くイーピンを危なっかしいな…と雲雀は思う。

「ちゃんと前を向いて歩かないと危ないよ」
「はい。でもこんな綺麗な桜並木があるなら、この坂も頑張って上れるな」
「でも桜はすぐに散るよ?」
「もう!それを言わないでくだ……きゃあっ!!」

夢のないことを言う雲雀に抗議しようとした時、足元が揺れてイーピンは倒れそうになった。
転ぶ!と思ったイーピンは咄嗟に受身の体勢をとる。しかしいつまで経っても痛みが来ることはなかった。
「あれ?」と思いながら、イーピンは恐る恐る目を開ける。すると………

「前を向いて歩けって言ったよね?」
「へ?雲雀さ…ん…って………ひゃあ!!!」

何でこんな近くから雲雀の声がするのだろう?と顔を上げると、目の前に雲雀の端整な顔。
ここで初めて自分か雲雀に抱きとめられてると気づいたイーピンは声をあげた。
イーピンはすぐに離れようとしたが、雲雀は逆に抱きしめる腕に力をこめる。

「雲雀さん!?」
「桜が綺麗なのはわかるけど。君、いつもと違う格好してるんだから気をつけなよね」
「あ………」

イーピンは思わず目を足元に向ける。本日履いているのはヒールのある靴。
今日は大学の入学式でイーピンはスーツを着ていたのだ。

「助けてくれてありがとうございます。あの…その…離してもらえますか?」

イーピンは素直に礼を言い、そして恐る恐る離してもらえるか尋ねる。
ここは大学の正門前で、他の学生や保護者が抱き合っている二人をチラチラと見ているのだ。
顔を真っ赤にして俯くイーピンに気付かれないようにため息をついて、雲雀は離れる。しかし。

「雲雀さん?」
「また転ばれると面倒だから」

しっかりとイーピンの手を握って歩き始めた。
一瞬、驚いたイーピンだったが、その理由を聞いて嬉しそうに微笑んだ。
二人で手を繋いで歩く。すると雲雀が立ち止まり、イーピンを見た。

「言い忘れてたけど」
「?」

イーピンは首を傾げて雲雀を見つめる。すると雲雀はニッコリと微笑んで言った。

「大学入学おめでとう。イーピン」
「………ありがとうございます」

イーピンは花が綻ぶように微笑んだ。


美しい桜並木の中を二人は幸せを感じながら歩いた。




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桜咲くお話。一応雲雀さんは紳士なつもり






桜よりも何よりも <イチルキ>



「あー!その唐揚げ私のなんだよ!クソ親父!!」
「何を言っている、夏梨!こんなのは先に取った者が勝ちなんだ!!!」
「もう!二人とも!!唐揚げまだたくさんあるからケンカしないの」
「………………」

唐揚げ一つで揉める家族を見て、一護は盛大にため息をついた。それを見てルキアは苦笑する。
本日、近所の公園にお弁当を持って花見に来た。
さっそくいい場所を見つけてお弁当……というところで一心と夏梨のケンカが始まったのだ。

「弁当くらい静かに食べろってんだよ………」
「良いではないか。ケンカするほど仲が良いと言うし」

言いながらルキアはごぼうのきんぴらを食べる。それを見て一護もきんぴらを食べた。

「このきんぴら、おいしいな」
「本当か!?それは私が作ったのだ!!」

きんぴらが一護好みの味だったのでそう言ったら、ルキアが嬉しそうに声をあげた。

「他にも卵焼きと肉じゃがも私が作ったのだぞ!!」
「見事におばさんくさいメニューだな」

エヘンと胸を反らすルキア。そんなルキアに一護は「おばさんくさい」と呟いた。
それを聞いてルキアが一護の頭を一発叩いた時だった。

「うわっ!」
「きゃあ!」

少し強めの風が吹いた。思わず二人は目を瞑る。しばらくしてそっと目を開いた時。

「綺麗………」

はらはらと桜の花びらが舞っていた。

「桜吹雪…綺麗だな、一護」

ニッコリと満面の笑みを湛えてルキアは言った。それに一護はコクンと頷く。しかし………

―――綺麗に咲く桜も、はらはらと舞い散る花びらも綺麗だけど

「一護も唐揚げ食べるか?」

一護の皿におかずを入れながら尋ねるルキア。そんなルキアに一護はニッコリと笑って言った。

「ああ。それと、きんぴらと卵焼きと肉じゃがもくれ」
「………ああ。わかった!」

ルキアは一瞬、目を瞠ったがすぐに微笑んで皿におかずをのせはじめた。
せっせと皿におかずを盛るルキアを一護は微笑ましい思いで見つめていた。


桜よりも何よりも………君が一番綺麗だよ―――




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お花見話。花よりルキアな一護






甘いニオイ <ヒバピン>



この香りに触れた時。日本に帰ってきたのだと思う。

「ただいま」
「え?へ?ひ……雲雀さん!?」

イーピンは目を瞠った。目の前にイタリアにいるはずの恋人がいたから。

「え?ええ!?何で!!?」
「何でって……休暇貰ったから帰ってきたの。悪かった?」
「わ…悪くないです!嬉しいです!!」
「そう」

言いながら雲雀は勝手に部屋に入っていく。その後を追いながらイーピンは思った。

(でも、帰ってくるときは一言言ってほしいなぁ………)

雲雀はすぐにソファに座った。その様子をイーピンはクスクス笑いながら見守る。

「コーヒー淹れますね」

そのままキッチンに向かったイーピンを横目で確認してから、雲雀は部屋を見渡した。
最後に会った時と変わらない部屋。年頃の少女の部屋とは思えないシンプルな。
そんなイーピンの部屋を雲雀は気に入っていた。自分もゴチャゴチャしてるのは嫌いだし、何より。

(ココは…あの子のニオイがして………落ち着く)

そっと雲雀は目を閉じた。

「コーヒー入りましたよ?」
「………ありがとう」

イーピンがテーブルの上に二人分のカップを置く。
辺り一面にコーヒーの匂いが漂う。とてもいい匂いなのだが、今の雲雀には………

「………イーピン」
「はい?」

人差し指をクイっと二、三度曲げて雲雀はイーピンを呼ぶ。
それにイーピンは首を傾げながら、雲雀の元に行く。

「ひ……雲雀さん!!?」

近づいた途端、いきなり抱きしめられてイーピンは顔を真っ赤にする。

「ど、どどど………」
「ただいま………イーピン」

動揺するイーピンを気にせず、雲雀はギュッとイーピンを抱きしめる。
もしかして…甘えられてる?とイーピンは思った。
そう思った瞬間、イーピンが雲雀が愛おしくなった。思わず雲雀を抱きしめ返す。

「おかえりなさい。雲雀さん」

抱きしめられた途端に鼻を擽る君のニオイ。
ねぇ、もう少しだけ……君のニオイを堪能してもいいかな?



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香り祭・第一弾 雲雀さんの精神安定剤はイーピンのニオイ(笑)






Perfume <イチルキ>



誰に教えてもらったかは忘れたけど、そんなこと知ってるのは水色かもしれない。
でもそれを思い出した瞬間、アイツにあげたい……そう思った。

「お前……何かつけてるか?」
「つけてる?」
「なんか……いいニオイがするんだけど」

ルキアが部屋に入った瞬間、甘い匂いがした。一体何の匂いだと思い、一護は尋ねたのだ。

「井上がな、香水とやらを貸してくれたのだ!」
「香水?」
「ああ。何でも、前に友人たちに誕生日プレゼントで貰ったらしい。綺麗な瓶に入っていたぞ」

綺麗だな…と思ってジッと見ていたら、織姫が使ってみる?とルキアに聞いてきた。
香水など見たことがなかったルキアは、嬉しくて即頷いていた。
織姫が貸してくれた香水は、甘い香りがした。

「いい匂いであろう?」
「そうだな」

得意気に言うルキアに一護は適当に答える。答えながら一護は思った。

(なんか…この匂いはルキアって感じじゃないんだよな………)

香りが少し強い。ルキアにはもう少しほのかな香りの方が似合うような気がする。
そう思った時には、もう一護の口は動いていた。

「今度…お前に香水買ってやるよ」

ルキアは呆けた顔をするが、一護の言葉を理解した途端、ぱぁっと嬉しそうに笑った。

「本当か!?一護!!」

ルキアの弾んだ声を聞いて、何言ったんだ、俺は!!と一護は思った。
思ったが、ルキアの嬉しそうな顔を見たら、何も言えなくなり。

「………ああ」

と一護は頷いた。
頷くと同時に、昔誰かから聞いた言葉を思い出した。

『男が女の人に香水をプレゼントするのって、自分のモノだって意味があるって知ってた?』

一護は顔を真っ赤にする。別にそんな意味で言ったわけじゃない!!と思いながら。

「一護、どうした?顔が赤いぞ??」
「な…なんでもない」

顔を真っ赤に染める一護を見て、ルキアは心配そうに覗き込む。
一護は片手で顔を隠しながら、もう片方の手を振って何でもないと言い張る。
ルキアは眉間に皺を寄せながら「そうか?」と言った。
そんなルキアを横目で見ながら、一護はため息をついた。

別にそんなつもりであげるわけじゃない。でも………
ほんの少しだけ、そういう意味であげたいと思ったのも事実。




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香り祭・第二弾 香水を贈る意味で悶々と悩む一護少年(笑)









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