拍手小咄 5


木香薔薇 <イチルキ>



庭に咲く黄色い花。それはお袋が大事に育てていた花だった。


「木香薔薇が綺麗だな」
「お前、木香薔薇を知ってるのか?花とは無縁な感じがするのに」
「貴様…何気に失礼なことを言っているということに気付いているか?」

一人庭に出て木香薔薇を見ていたルキアが呟いた言葉が意外で、俺は思わず目を瞠った。
すると、ルキアが俺を睨みつけながら言った。

「それくらい知ってるおる!朽木の家にはたくさんの花が咲いておるのだがら!!」
「ああ…成程」

妙に納得して、俺はそのまま庭に出てルキアの隣に立つ。

「その花…お袋が好きで、育ててたんだよ」
「貴様の母が?」
「ああ。それでよく、親父と眺めてたな」

昔を思い出しながら、俺は木香薔薇を見つめた。
小さい頃、花が咲くたびにお袋は喜び親父と二人で花を眺めていた。それは幸せそうに。
その時の両親は秘密の会話をしているようで、ただ見つめることしかできなかった。

「貴様の両親は、お互い『初恋』だったのかな?」
「は?」

マヌケな声をあげてルキアを見ると、ルキアは花に向かって微笑みながら言った。

「木香薔薇の花言葉は『初恋』なんだぞ」

そう言って、今度は俺に向かって微笑むルキア。ドクンと胸が高鳴る。
ドキドキする俺に対しルキアは平然としていて、なんだか負けた気がする。
どうにかしてルキアをドキドキさせたいなんて子どもっぽいことを思ってしまった。

「あと『あなたにふさわしい人』って意味もあったな…」
「へぇ……」

ブツブツと呟きながら考え込むルキア。それを見て悪戯を思いつく。
さっきの花言葉を利用してやろうと。
俺は木香薔薇を一つ摘んで、ルキアに向かって差し出した。

「一護?」
「やる」
「え?ああ…ありがとう」

首を傾げながら花を受け取ったルキアを見て、俺はニヤリと笑った。

「ちなみにさっき言ってた花言葉の意味をそのまま込めてるから」

そう言った途端、顔を真っ赤に染めたルキア。それを見て俺は勝ったと思った。


お前は俺の初恋の相手で。
俺はお前にふさわしい人になりたいと思ってる。



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花言葉は「あなたにふわさしい人」 「初恋」
ルキアが大好きでしかたがない一護。






霞草 <ヒバピン>



「君にあげるよ」

そう言ってイーピンに渡した花束は、雲雀が高校の卒業式に貰ったモノだった。
それも、綱吉から。「卒業おめでとう」と手渡しで。
即行で貰った花束を捨てようとした雲雀。すると綱吉が言った。

「捨てるの?俺のお祝いの花束を捨てるの?」

ニコニコニコニコ。昔からは想像できないくらい変わった綱吉。
何故だかわからないが、その笑顔に勝てないと思った雲雀は黙って花束を持って帰った。
そして帰り道で出会ったイーピンに花束を渡したのだった。

「え?あの??」
「沢田綱吉に卒業祝いで貰ったんだけど、僕はいらないからあげる」
「ええ!?でも…せっかく綺麗な花束なのに。霞草、綺麗ですよ?」

オロオロしながら尋ねてくるイーピンに逆に雲雀が尋ねた。

「別にいいんだよ。ところで君、霞草が好きなの?」

薔薇やガーベラ、スイートピーといった花がある中で霞草と言ったイーピン。
小さくて地味で、他の花の引き立て役のようなモノが好きなのだろうかと雲雀は思う。
すると、イーピンはニッコリと笑って言った。

「はい!小さくて可愛くて、一生懸命咲いてる姿が大好きです」


「卒業おめでとう」
「わぁ!綺麗な霞草の花束!!」

あれから10年。今度はイーピンが高校の卒業式を迎えた。
雲雀は大きな霞草の花束を持って、イーピンのアパートを訪れた。

「相変わらず霞草が好きなんだね」

嬉しそうに花束を抱きしめるイーピンを見つめながら、雲雀はボソリと呟いた。

「…雲雀さん、今何か言いました?」
「何も言ってないよ」

雲雀が笑いながらそう言うので、イーピンは首を傾げながら花束をテーブルに置いた。
その様子をジッと見つめていると、突然イーピンが「あ!」と叫んだ。
どうしたのだろうと雲雀が首を傾げると、イーピンがギュッと抱きついてきた。

「霞草、ありがとうございます…雲雀さん、大好き」

無邪気に微笑むイーピン。そんなイーピンに微笑みかえして、雲雀もギュッと抱きしめた。


10年前。何となく気になって調べた霞草の花言葉。
それは幼いイーピンに合っていて、思わず納得してしまった。
そして10年たった今も変わらないイーピンに愛しさを感じる。


どうか君だけはこのまま変わらないで僕の側にいて。
雲雀はそう願った。




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花言葉は「清い心」「無邪気」
大きくなってもイーピンは無邪気だと思うのです。






御簾越し <イチルキ平安パラレル>



「相手の顔が見えないのは嫌いだ」
「仕方ないだろ。俺たち一応、大人なんだからさ」

つい最近まで子ども扱いされていたのになぁ…と苦笑する一護。
対して御簾の中のルキアは何やらブツブツと文句を言っている。

「裳着をしたら御簾越しでしか人と会えないというのが理解できない」
「そういう決まりだから仕方ないだろう。俺も元服したしな」
「貴様は男だからいいのだ!私なんて、外に出られなくなったんだぞ!!」

ルキアの言葉に一護は納得する。それで機嫌が悪いのか…と。
ルキアは貴族の姫とは思えないくらい元気がよく、幼い時から一護と外を走り回っていた。
あまりに元気がよすぎて、側に仕える者から姫らしくしろと言われるくらい。

「外に出たい!部屋の中はもう飽きた!!」
「我慢しろよー。外に出てるとこを男に見られたらヤバいだろ」

貴族の姫は家族以外に顔を見せてはいけないのだから。

「お前の顔を見ていいのは兄貴の白哉だけだろ」
「姉様の夫だから、滅多に顔は見ないぞ」
「そういう問題じゃなくて………」

両親を早くに亡くしたルキアにとって姉夫婦は親代わりなのだ。白哉は兄というより父代わり。
ルキアが思っている以上に白哉は義妹を可愛く思っている。
実際、一護がルキアに会うのにも渋々了承したという感じなのだから。
緋真が口ぞえしてくれなかったらきっと会えなかったはず…と一護は思う。

「とりあえず、外には出るなよ」

一護がそう言うと、ルキアは小さく溜息をついた。

「外はいい。でも、今目の前にある御簾は上げてしまいたい」
「はぁ!?」

思わず大声をあげる一護。

「何言ってんだよ!?お前!!」
「だって………」

妙な汗をかきながら一護が言うと、ルキアはどこか悲しげに呟いた。

「だって…貴様の顔が見えないだけで胸が苦しいんだ、一護」

その言葉に一護は胸が締め付けられる。
自分もルキアの顔が見れなくなって辛く思っていた。
だから顔は見えなくても声だけは聴きたくて、こうして時々会いに来ていた。

「ルキア………」


一護はそっと御簾に近づいた。




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平安時代って不便だと思った時に浮かんだネタ。続く…とは思えない(笑)






おやすみのキス <ヒバピン執事パラレル>



もうすぐテストだからと時間を気にすることなく勉強していた。その結果。

「イーピン様」
「うひゃう!!」

突然背後から声をかけられてイーピンは文字通り飛び上がって驚いた。
急いで背後を振り返ると、そこにはニコニコと微笑む執事の雲雀がいた。
だがその笑顔が妙に怖くて、イーピンはヒクリと頬を引きつらせた。
それに今は部屋に二人きり。二人の時は名前で呼ぶのに、先程雲雀は「様」を付けていた。

「雲雀さん?」
「イーピン様。時計を見てください」
「時計?」

イーピンは壁にかけられた時計を見る。時刻は午前3時。

「イーピン様」
「はい…」
「テストはいつあるのですか?」
「えっと…二週間後です」

雲雀は大袈裟な程に大きな溜息をつく。思わずイーピンは肩を竦ませた。

「イーピン。まだ二週間あるんだから、ゆっくり勉強すればいいでしょ?」
「あ…はい」

いつもの言葉遣いに変わり、ホッとするイーピン。

「二週間、ずっとこんな時間まで勉強するつもりだったの?」
「ごめんなさい」
「勉強するのはいいことだけど、体も休めないと壊してしまうよ」
「はい」

シュンと肩を落とすイーピン。その姿に雲雀は思わず苦笑する。
雲雀はイーピンの頭をポンポンと優しく叩いた。

「そんなに落ち込まない。君が思ってるほど僕は怒ってないよ」
「本当……ですか?」
「本当」

雲雀がそう答えると、イーピンはホッとしたのか嬉しそうに微笑んだ。
ようやく見せた笑顔に、雲雀もホッとして僅かに微笑む。

「今日はもう休んで。明日は学校休みだから少し長めに眠ってもいいよ」
「ありがとうございます」

ニッコリと笑うイーピン。雲雀はイーピンに笑い返すと、そっとイーピンの頬にキスをした。

「おやすみ、イーピン」
「おやすみなさい、雲雀さん」

雲雀は静かにイーピンの部屋から出て行った。




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前に書いたヒバピン執事お嬢様パラレル。続…きました(笑)






涙を流した <ヒバピン+α>



『彼を護るためなら、命なんて惜しくないです』

以前、その言葉を聞いた時、俺は危険だと思った。二人を離さなければ…と思った。
だけど、二人は離れるどころか常に一緒にいて。二人ともどこか幸せそうで。
そんな二人を離すことなんてできなかった。その結果―――

「怪我は大丈夫か?イーピン」
「なんか、三日前まで生死の境を彷徨ってた人間とは思えないな」
「もう大丈夫ですよ。獄寺さん、山本さん」

一緒に見舞いに来た獄寺くんと山本にニッコリと微笑むイーピン。
それでも体中の至る所に包帯が巻かれていて、改めて命に関わる大怪我をしたのだと思う。
俺はギュっと拳を握りしめた。

「そういえば、雲雀のヤツいないのな?」
「イーピンに怪我をさせた首謀者をまだ見つけてないからな。探してるんだろうよ」

山本の問いに獄寺くんが答える。そう。雲雀さんは今ここにいない。
彼は今、血眼になってイーピンに怪我をさせた首謀者を探している。

「雲雀さん…無理してないといいんですけど」

イーピンは困ったように微笑みながらそう呟くと、窓の外に目を向けた。
なぜ?どうして?そう思ったら、隣に獄寺くんや山本がいるのを忘れて俺は叫んでしまった。

「何で笑ってられるの?何で心配できるの?イーピンは雲雀さんのせいで大怪我をしたんだよ!?」

戦いとなると周りが見えなくなる雲雀さん。あの日もそうだった。
背後から銃で狙われていることに気付かず、先に気付いたイーピンが雲雀さんを庇った。
その結果、イーピンは生死の境を彷徨うことになった。
俺にとってイーピンは大切な妹なのだ。こんな世界と関係なく生きていてほしいのに。

「ごめんなさい、ツナさん」

そっと俺の手の上に自分の手を重ねたイーピン。その温かさに何故か涙が出そうになった。

「雲雀さんは無茶をするから。誰かが止めなくちゃ」
「そうだけど。でもだからって………!」
「ツナさん」

ふるふると首を振ると、イーピンは幸せそうにニッコリと微笑んだ。

「雲雀さんはボンゴレにとって大事な人だから」

何も言えず、俺はジッとイーピンを見つめる。

「それに、彼を護るためなら、命なんて惜しくないんです」
「………なんで?」

尋ねた俺に、イーピンは嬉しそうに答えた。

「彼を愛してるから。だから彼を庇って死んでも後悔なんてしません」

艶やかに微笑むイーピンを見て、俺は一筋の涙を流した。



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ちょっぴりシリアスなツナ視点のヒバピン






秋の公園 <イチルキ>



涼しくなってきたなぁ…と考えながら、一護は公園内を歩いていた。
一歩前にはルキアがいて、落ち葉を踏みしめる度に出る音を聴いて楽しんでいた。

『天気が良いから、散歩に行ってくる』

楽しそうに玄関で靴を履くルキアを見ていたら、何となく一緒に行きたくなった一護。
一緒に行っていいかと尋ねたら、ルキアは嬉しそうに頷いた。

「すっかり秋だなー」

落ち葉を一枚取って、一護は呟く。

「そうだな。葉がほとんど落ちてしまって何だか寂しいな」
「ホント。なんか秋って寂しいよな」

数ヶ月前まで青々と繁っていた葉が、色を変えて風に乗って落ちていく。
残されるのは剥き出しになった木だけ。それを見るだけで物悲しくなってしまう。

「でも、寂しいだけじゃないぞ」

そう言って、ルキアはその場にしゃがみこんだ。そして両手で落ち葉の中を探り始める。

「何やってんだ?ルキア」
「まぁ、黙って見ておれ」

首を傾げて手元を見る一護に、ルキアはイタズラを思いついた子どものように笑ってみせる。
しばらくガサガサと落ち葉の中を探っていると。

「あった!」
「うわぁっ!!?」

突然大声で叫ばれて、驚いた一護も思わず叫んでしまった。

「ビックリした…いきなり大声で叫ぶなよ」
「ああ、すまんな」
「いいけど。で、何があったんだ?」
「コレだ!」

そっと手の中のモノを一護に見せるルキア。その中には………

「どんぐり?」
「小さい頃、よく拾っていた。たくさん拾って首飾りとか作って」
「へぇ」
「それが楽しくて。秋って寂しいだけじゃないな…って思っていた」

手の中のどんぐりを愛おしそうに撫でながら、ルキアは語る。
そんなルキアを見ながら一護も思い出した。昔、自分もどんぐりを拾っていたこと。
そのどんぐりをお土産に持って帰った時の、母親の嬉しそうな顔を。
一護は足元に落ちていたどんぐりを一つ拾う。

「そうだな。寂しいだけじゃないな、秋は」
「そうであろう」
「どんぐり、遊子たちに持って帰ろうか?」

一護が尋ねるとルキアはニッコリと笑って頷いた。




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小さい頃、無駄にどんぐりを拾って持って帰ってました。









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