拍手小咄 6


素朴な疑問 <イチルキ>



いまいち理解できない。これは一護に尋ねてみるしかない。そう結論付けた。

「なぁ、一護」
「んー?」
「ファーストキスというのはレモンの味がするのか?」
「はぁ!?」

一護は大声で叫ぶと眉間に皺を寄せて私を見た。ほのかに頬が赤いのは何故だろうか?

「お前、何言ってるんだよ」
「ん?この漫画とやらに書いててな。横文字が多くてよくわからんのだ」

私はクラスの女子に借りた漫画を指差す。それを見て一護は更に眉間に皺を寄せた。

「レモンというのは、あの黄色い蜜柑のことだよな?かなり酸っぱかったと思うのだが」

あの味だとしたら、美味しいとは思えない。でもこの漫画の登場人物は嬉しそうにしている。

「お前、そのセリフの続き読んだ?」
「いや。そこで話が終わっているから気になって仕方がなくて貴様に聞いてみたのだ」

そう答えると、一護は溜息をついた。

「レモンの味はしないと思うけど………」
「貴様は食べたことがあるのか?一護」
「食べたことはないな…てか、食べ物じゃないし」
「そうなのか?じゃあ何故レモンの味がするのだ?」
「それはモノの例えというか」
「じゃあファーストキスとは何なのだ?」

食べ物でないとしたら、一体何なのだろう?更に疑問に思って私は一護に尋ねた。
すると一護は顔を真っ赤に染めて考え込んだ。その様子に私は首を傾げる。

「一護?」
「お前が怒らないっていうなら…ファーストキスが何なのか教えてやってもいいけど」
「何故怒るのだ?」

解らないことを教えてもらうのに、何故怒る必要があるのだろう?
そう思っていると、一護の手が私の頬に触れてきた。

「ファーストキスってのはな……」

一護の顔が近付いてきて驚いたと同時に、唇に柔らかな感触がした。頭が真っ白になる。

「………レモンの味なんてしないだろ?」

呟いて、一護はプイっと顔をそむける。チラリと見えた耳は真っ赤に染まっていた。
私はそっと唇に手を添えた。今になって、胸がドキドキしてきた。
ファーストキスというのは口付けのことだったのか。

レモンの味なんて誰が考えたのだろう…と新たな疑問が生まれた。



web clap up 10.02.06



甘酸っぱい話を…と思って書いた話。






Pioggia <ヒバピン>



ふと窓の外に目を向けると、ポツポツと雨が降り始めていた。
今朝、珍しく朝寝坊をして大騒ぎをしながら学校に向かった少女のことを思い出す。

(傘を持って行ったのだろうか?)

いつもはちゃんと天気予報を観て確認しているが、今日は違ったから。
用心深い彼女のことだから、折り畳みの傘を持ってるかもしれないと思ったけど。
気が付くと僕は傘を持って出かけていた。

「やっぱり………」

しばらく歩いていると、公園のベンチに座って困ったように空を見上げる少女を見つけた。
屋根もあり、雨宿りするには充分の場所だ。僕は溜息をついて彼女の元に向かった。

「こういう時は電話して迎えに来てもらってもいいんだよ」
「雲雀…さん?」

僕が声をかけると、目の前の少女は首を傾げながら上目遣いで僕を見た。

「携帯使って電話でもメールでもすればいいじゃない?」
「あ…実は、ですね。携帯も忘れてきちゃったみたいで……連絡取れなくて」

顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうに小さな声で呟く少女。全く、彼女には呆れてしまう。

「君は本当にドジだね、イーピン」
「あぅ………」

ベンチに座ったまま項垂れるイーピン。僕は彼女に気付かれないように笑うと、その隣に座った。

「どうやって帰るつもりだったの?」
「え…っと、雨足が少し弱まったら走って帰ろうかなぁって思ってました」

彼女らしい答えに思わず苦笑する。他人に迷惑をかけたくないという気持ちが伝わってくる。
でも…他のヤツならともかく、僕にはそんな気持ちを持たなくてもいいのに。

「イーピン」
「はい?」

ジッと見つめてくる少女に向かって僕は微笑んだ。

「僕が行くから」
「え?」

「僕が必ず迎えに行くから。だから君はそこで待っていればいい」

僕の言葉をすぐには理解できなかったのだろう。キョトンと首を傾げる少女。
しばらくして意味を理解したのか、少女は顔を真っ赤に染め上げる。
でも、恥ずかしそうしながらも彼女は僕に向かって微笑んだ。

「必ず…迎えに来てくださいね?私、ずっと待ってますから」





web clap up 10.02.06



タイトル訳:雨 ネタ提供:G氏






失恋 <イチルキ>



学校帰りに時々寄る本屋。そこで時々会う女の子。
最初は可愛いな…と思っていただけだったのに、いつの間にか目で追うようになって。
あの子のことが好きなんだと、すぐに気付いた。

(あ……来てる)

久しぶりに彼女を見た。自分も彼女も毎日本屋に来てるわけではないので、本当に久しぶりだ。
今日は少し難しそうな本を読んでいた。この前は女性向けのファッション雑誌だった。
本なら何でも読むタイプだろうかと考える。考えながら、ふと思った。

(何か…ストーカーみたいだな)

ジッと見てるだけじゃなく、彼女が読んでいるものもチェックするなんて。
そんなことを思っていると、読んでいた本を置いて彼女が携帯電話を開いた。
画面を見て、それから入口に目を向ける。もしかして誰かを待っているんだろうか?
稀に彼女は友達と本屋に来ていた。
髪の長い美少女やボーイッシュなカッコいい女の子、知的そうな子………
その中に「男」がいなくて思わずホッとした。
今日もその中の誰かと待ち合わせしてるのかもしれない。
その時、彼女のバッグを見て思った。

(もしかして、傘を忘れてる……?)

先程から雨が降っている。だけど彼女の持ち物の中に傘は見当たらない。
朝は晴れていたから忘れたのだろう。

(これってチャンスかな?)

彼女に声をかけることができるかもしれない。
でも知らない相手から「家まで送る」と言われたら怪しく思われるかもしれない。
どうしようかと考え込んでいた時だった。

「ルキア!」
「一護」

その声が聞こえた瞬間、彼女は顔を上げ、嬉しそうに相手に向かって微笑んでいた。

「…ったく。今日は雨が降るって言ってただろ?」
「折り畳み傘を入れてたつもりが忘れてたのだ」
「こんなことならお前を待って一緒に帰れば良かった」
「すまないな」

そう言ってちょこんと頭を下げる彼女に一護と呼ばれた男は苦笑した。
でもその笑顔はどこか優しげで、彼女のことを大切に思っていることが伝わってきた。
二人並んで店から出て行く。それを見届けてからそっと溜息をついた。

「そうだよな…あんなに可愛いもんな。彼氏がいて当然だよな」

今まで一度も「男」と一緒にいる所を見たことがなかったから、勝手に安心していた。
彼氏がいないのだろうと。

「声をかける前で良かった………」

かけていたら、今頃恥ずかしい思いをしていたに違いないから。
どうか幸せにと願ってはみたけれど、やっぱり胸が痛んだ。失恋なんて初めてじゃないのに。

それだけ本気だったんだと、改めて思った。




web clap up 10.06.25



第三者視点。ウチのルキアは本が大好きです(笑)






彼女には優しい <ヒバピン>



「雲雀さん、いらっしゃい」
「………………」

報告のために綱吉の執務室を訪れた雲雀は、無意識のうちに眉間に皺を寄せた。
テーブルの上に用意された甘ったるいお菓子と紅茶の匂い。
ニコニコと微笑んでいる綱吉と何故か同席している綱吉の恋人、京子。
そしてソファの上で気持ちよさそうに眠っている幼い少女、イーピン。
明らかに報告とは関係ないものがそこにあった。

「これは一体何なの?」

不機嫌丸出しの声で雲雀は尋ねたが、綱吉は気にすることなく笑いながら答えた。

「もうすぐ三時でしょ?京子ちゃんとイーピンとお茶でもしようかと思って」
「僕が来るってわかってて?」
「いや、もうちょっと遅くなるかな〜って思ってたんですよ。意外に早かったですね」

一緒にお茶します?と尋ねる綱吉に、雲雀は無言で首を横に振って断った。
そして、淡々とした口調で報告を始めた。報告が終わると綱吉は再び微笑んだ。

「ご苦労様でした」
「………ねぇ?」

雲雀はソファに目を向け、綱吉に尋ねた。

「あの子、何であそこで寝てるの?」
「イーピンですか?さっきまで起きてたんですけどね」

帰宅した少女に一緒にお菓子を食べないかと誘ったのだが、しばらくして眠ってしまった。

「プールが始まったって言ってたから、疲れたんだと思います」
「プールって気持ちいいけど疲れちゃうもんね」
「その後の授業、眠たくて仕方なかったよね」

ほのぼのとした会話をする綱吉と京子。雲雀はおもいっきり溜息をついた。

「疲れてるのはわかるけど、そのまま寝かせておいたら風邪ひくよ」

そう言って、雲雀はイーピンが目を覚まさないようにそっと抱き上げた。

「休憩室、借りてもいいかな?」
「どうぞ。ついでに目が覚めるまでついててもらってもいいですか?」
「そのつもりだけど」

返ってきた答えに満足そうに微笑む綱吉。雲雀はそのままイーピンを連れて部屋を出た。

「ねぇ、ツっくん?」
「何?京子ちゃん」
「雲雀さんって、イーピンちゃんには優しいよね?」
「あ、京子ちゃんも気付いてた?」
「うん。イーピンちゃんを見る目、すっごく優しいよね!」
「ホント、昔からイーピンにだけは優しいんだよね。雲雀さん」

本人はそのことに気付いていないみたいだが。
それに気付くのはいつだろうと、綱吉は楽しそうに笑った。




web clap up 10.06.25



雲雀さん20歳、イーピン10歳くらい。可愛い妹的存在。






彼女の手、彼女の声 <イチルキ>



熱くもなく寒くもなく。そんな秋晴れのある日。
リビングのソファーに一護は寝転んだ。程よく窓から日が入って気持ちがいい。

「眠い………」

こうも気持ちがいいと、別に疲れているわけでもないのだが眠たくなってしまう。
ちょっとだけ……と一護は目を閉じた。

「…い……ご…一護」
「ん……?」

耳に心地よい声が届いて、一護はうっすらと目を開ける。
だが逆光で相手の顔が見えない。しかし先ほどの声で誰かはわかっていた。

「ルキ……ア?」
「いくら気候がいいとはいえ、こんな所で寝ていたら風邪をひくぞ」

いまだ覚醒しきれてない一護に呆れながら、ルキアはそっと一護の額を撫でる。
その手の温かさと感触があまりにも心地よくて、一護は再び目を瞑る。

「コラ!寝るな!!」
「ん〜………」

ルキアは軽く一護の体を揺すったが、一護は唸るだけで起きようとしない。
「全く…」と呟いて、ルキアは一護を起こすことを諦めた。代わりに一護の髪を梳く。
それがまた気持ちよくて、一護は「ん…」と声を出す。

「すまない。眠れないか?」
「……いいや。むしろ気持ちいいくらいだ」
「そうなのか?」

一護の答えが意外だったようで、クスクスと笑うルキア。その笑い声も一護の耳に心地よく響く。
目を瞑ったまま、一護は髪を梳くルキアの手に自分の手を重ねる。

「一護?」
「なぁ……ルキア」

そっと一護は目を開けてルキアの大きな瞳を見つめる。
一護に見つめられて、ほんのり頬を赤く染めながらルキアは何だ?と目で尋ねる。

「もっと話しかけて、もっと撫でて」
「え?」
「おまえの声聞いてると安心する。おまえに撫でられると気持ちよくなる」

まるで幼い子どもが母親に強請るようなお願い。
最初は驚いたルキアだったが、だんだんそんな一護が可愛らしく思えてきて………

「今日の貴様は甘えん坊だな、一護」

そう言って微笑むと、ルキアは一護のオレンジの髪を優しく梳き始めた。

「今日の夕飯は焼き魚と茶碗蒸しにしようと思ってるんだが、どうだ?」
「んー……うまそうだな」

窓から入る日を浴びながら、二人はゆったりとした時間を過ごした。




web clap up 08.10.19



恋人というより姉弟のような話になってしまいました。






貴方に繋がる <ヒバピン>



イーピンは今自分の目の前で起こっている光景を呆然と見つめていた。

「最近物騒だからね。イーピンちゃんも持ってた方がいいと思うの」

ニコニコ笑顔でそう言って、母親のように慕っている奈々から携帯を貰ったのは昨日のこと。
本日、イーピンは綱吉に呼ばれて日本のボンゴレ本部を訪れていた。
そして、綱吉の部屋に向かう途中で意外な人物に出会ってしまった。

「君…携帯持ってたの?」
「あ……昨日奈々さんがくれたんです。最近物騒だから携帯を持ってた方がいいって」

時間を見ようとカバンから携帯を取り出した丁度その時、雲雀に会った。
雲雀はイーピンが携帯を持っていることに驚いたようで、指で携帯を指しながら尋ねてきたのだった。

「君なら変な奴に遭遇しても撃退できると思うけどね。でも携帯は持っていた方が便利だからね」
「はぁ………」

曖昧に返事をしながら、イーピンは携帯をカバンの中に入れようとした。ところが………

「え?雲雀さん??」

スッと雲雀から携帯を取られ、イーピンは首を傾げる。しかし、雲雀とった行動に目を瞠って驚く。
雲雀はイーピンの携帯を開くと、イーピンの許可を得ることなく勝手に携帯を弄り始めた。

「ちょっと雲雀さん!何してるんですか!?」

イーピンは手を伸ばして雲雀から携帯を取り戻そうとする。しかし軽く雲雀にかわされる。
何度かチャレンジするが携帯を取り返すことができない。
そして手を伸ばすイーピンを尻目に、雲雀は自分の携帯も開いて何か作業を始める。

「もう〜!雲雀さん何してるんですか!?返してください!!」

なかなか携帯を返してくれない雲雀に、とうとうイーピンは怒鳴りつける。しかし。

「いいよ。もう終わったから」
「へ……って…きゃあ!?」

言うや否や、イーピンに向かって携帯を投げる雲雀。驚きながらイーピンは携帯を取る。

「いきなり投げないでください!大体、私の携帯に何したんですか!?」

ギッと雲雀を睨みつけるイーピン。すると雲雀は楽しそうに微笑んだ。

「入れといたから。僕の携帯の番号とメールアドレス」
「………へ?」

雲雀は更にイーピンに微笑みかけると、自分の携帯を手の中でいじりながら言った。

「電話もメールも嫌いだけど、君の電話とメールはしてもいいと思うんだよね」

「そういうことだから」と続けて、雲雀は去っていった。
去っていく雲雀を見つめながら、イーピンは呟いた。

「それって……雲雀さんに電話したり、メールしたりしていいってことですか?」

それはあなたに繋がってるってことですよね?




web clap up 08.10.19



素直に電話やメールをしてと言えない雲雀さん(´V`)









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