拍手小咄 7


怖がる理由がわからない <ヒバピン>



毎日が死と隣り合わせ。流血沙汰は日常茶飯事。
だから、コレの一体何が怖いのか、雲雀にはわからなかった。

「いやああああああああ!!!!!!」
「……………ちょっと」

耳元でかなりの大声で叫ばれ、凄まじい力で腕を握り締められる。
さすがにこれは…と思い、抗議しようと自分の腕の方に目を向けた雲雀だったが………
小刻みに震えながら腕にしがみ付いているイーピンを見た瞬間、何も言えなくなる。
雲雀はそっと溜息をつくと、チラリと前方に目を向ける。そこにはテレビが置かれていた。

「アレの何が怖いわけ?」

流れているのはホラー映画。先程から流血三昧。血以外のもの流れている。
正直、血は慣れっこなので怖いとは思わない。
むしろ、作り物のせいか実際よりも綺麗じゃないか…と雲雀は思ってしまった。
するとイーピンがギッと雲雀を睨んだ。

「何言ってるんですか!?あんなに血が流れて、犯人にジワジワ追い詰められて………」
「普段、血をいっぱい見てるくせに………説得力ないよ」
「それとこれとは話が………いやああああああ!!!!!」

違うと続けようとしたイーピンだったが、またしても悲鳴をあげて雲雀にしがみ付く。

「そんなに怖いなら、観るのやめたら?」

呆れ交じりに言うと、イーピンはブンブンと首を横に振る。

「ダメです!せっかく友達が面白いからと貸してくれたのに、観らずに返すなんて」

目に涙を溜めながら言うのに、雲雀は呆れつつも律儀な少女に思わず苦笑した。

「じゃあ最後まで一緒に観てあげるから、その友達に感想を言うんだね」
「ありがとうございます、雲雀さん」

雲雀の言葉に嬉しそうに微笑み、キュッと抱き着くイーピン。
いつもなら滅多に抱き着いてこないのに、こういう時は積極的になる。

(いつもこうだったらいいのに)

そんなことを思いながら、雲雀はイーピンの頭をそっと撫でた。

(………それにしても)

画面を見てビクビクするイーピンを見ながら雲雀は思った。
犯人に追い詰められるということはないけれど。
ここまで綺麗な状態ではないけれど。
どう考えても自分たちが普段いる場所の方がもっと凄惨な気がする。

(それを言ったら、面白味がなくなるのかな?)




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映画の血は綺麗すぎると医療関係の友人が言ってたので(笑)






夢でもいいから <イチルキ>



カチャリとドアが開く音がして振り返ると、嬉しそうに笑うルキアが部屋に入ってきた。

「どうしたんだよ?」
「遊子に習って作ってみたのだが、とてもいい出来でな」

不思議そうに尋ねる一護の目の前に、得意げにルキアが差し出したもの…それは。

「ムース?」
「違う!ショコラプリンだ!」

見当違いなことを言う一護をルキアはギロッと睨みつける。
その睨みに一瞬怯んだ一護だったが、負けじとルキアを睨み返した。

「んなこと言ったって、男の俺にプリンとムースの違いがわかるわけないだろ」
「何を言う。貴様がこれが好きだと遊子から聞いて、私は作ったんだぞ」

それを聞いて首を傾げた一護だったが、すぐに「ああ」と声をあげた。
前に遊子がショコラプリンを作って、美味しかったからまた作ってくれと頼んでいた。

「確か、お前と逢う少し前に作ってもらったんだよな」

その後ルキアと出逢い、新しい世界を知った。この数か月でいろいろ変わった。

「ところで、何でプリンを作ったんだよ?」
「ん?お礼だよ。貴様は今、いろいろ頑張ってるからな。感謝している」

真顔で礼を言われ、恥ずかしさで一護の顔が一気に真っ赤に染まる。
照れ隠しに一護はルキアからプリンを受け取ると、急いで口に含んだ。

「上手い」
「そうか。良かった」

ニッコリと微笑むルキア。その姿を見た瞬間、一護の心臓がドクンと跳ね上がった。


「お兄ちゃん、朝だよ」
「…………え?」

ドアの向こうから遊子の声が聞こえて、一護は戸惑う。
さっきまで話していたルキアがいないことに。

「早く朝ごはん食べないと、学校遅刻しちゃうよ」

遊子の言葉にジワジワと感覚が戻ってくる。先程のは夢であったと。
ルキアと別れてからまだ数日しか経ってないのに、こんな夢を見るとは思わなかった。
だけど夢でもいいと一護は思う。
死神の力がなくなった今、もう夢の中でしか、ルキアに逢えないのだから。

「ルキア………逢いたい」

眠ったらまた、夢の中でお前に逢えるのかな?




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本誌の切ない展開を読まずに想像で書きました。






嫉妬する <イチルキ>



学校の帰り道にある空き地。
いつもただ横を通り過ぎるだけの場所に、ルキアは立ち止まった。

「どうした?」
「何か……声がする」
「ルキア?」

どんどん空き地の中へ入っていくルキアを訝しく思いながら、一護はルキアの後をついて行く。
中に入ってすぐ、二人は小さなダンボール箱を見つけた。鳴き声はそこから聞こえる。
そっと中を覗き込んだ二人は、「あ…」と声をあげた。ダンボールの中には仔犬が一匹いた。

「捨て犬?」
「みたいだな」

ルキアがそっと、仔犬を抱き上げる。
ブルブルと震える背中を優しく撫でながら、ルキアは仔犬に微笑みかけた。

「寒いのか?それともおなかがすいてるのか?」

それを横で見ていた一護は、ルキアの優しげな表情に目を瞠って驚いた。
何故か顔に熱が溜まり、一護は思わずルキアから顔をそむけた。

「一護、どうした?」
「………いや、何でもない」

そう返して、照れ隠しに一護はルキアが抱いている仔犬の頭を撫でた。

「この仔犬、どうしよう………」
「ウチは飼えないからな」

一護の答えにルキアは残念そうに肩を落とす。
居候の身である以上、犬が飼いたいなどとワガママを言うことはできない。
あからさまに落ち込むルキアの姿に、一護の良心が痛む。だから思わず口にしてしまった。

「じゃあ、飼い主が見つかるまでウチに置いていいか親父に聞いてみるよ」
「いいのか!?」

嬉しそうに顔を綻ばせるルキアに、一護は一つ頷いて見せる。

「ウチに来る患者の誰かに頼めば、すぐに飼い主が見つかるだろ」

ウチでは飼えないが、見捨てたりはしない。
飼えない分、良い飼い主を見つけてあげたいと思う。

「ありがとう、一護!」

満面の笑みを湛えて礼を述べると、ルキアは仔犬を自分の正面に抱き上げた。

「良かったな」

そう言って、仔犬に軽くキスをする。それを見た瞬間、一護は固まってしまった。

「どうした、一護?」
「………何でもない」

尋ねるルキアに少し不機嫌気味に答えて、一護は家に向かって歩き始めた。

仔犬に嫉妬している自分を情けなく思いながら。



web clap up 11.04.08



一護さんは犬にだって嫉妬します☆






花の下にて <白緋>



儚く美しい桜を見ていると、時々胸が苦しくなる。
それは、自分の最愛の人が桜に似ているからなのかもしれない。

「綺麗………」

小さく呟いて桜を見上げる妻にほんの少し目を向けた後、白哉も同じ様に桜を見上げた。
屋敷内にある一番大きな桜は、今見頃を迎えていた。

「今年も綺麗に咲きましたね」
「ああ」

微笑みを浮かべて桜を見つめる緋真に相槌を打ちながら、白哉はそっと溜息をついた。

「如何なさいました?白哉様」
「………何でもない」

溜息に気付いた緋真が心配そうに尋ねてくるのに、白哉は表情を変えぬまま答えた。
それ以上聞かれたくないとばかりに白哉は黙り込む。
白哉の性格を熟知している緋真は、これ以上は無理だと判断して再び桜に目を向けた。

「あ………」

緋真が桜に目を向けたと同時に一陣の風が吹いた。
風と共にはらはらと舞い落ちる桜の花びら。
緋真は地面に落ちた花びらを一つ拾い上げると、寂しげに花びらをそっと撫でた。

「綺麗だけど、桜は儚いものですね」

そう言って微笑む緋真を見て、白哉の心臓がドクンと音をたてた。
それは緋真の笑顔に惹かれたのではなく、何故だかわからない不安を感じて鳴ったものだった。

はらはらと儚く舞い落ちる桜の花びら。
今にも消えそうな程、儚げな存在である自分の妻。

気が付いた時には、白哉は緋真を背後から抱き締めていた。

「白哉様?」

突然抱き締められた緋真は、頬をほんのり赤く染めて白哉の名を呼ぶ。
ところが白哉は返事をせず、それどころか苦しげに顔を歪ませていたので、緋真は首を傾げた。

「お加減が悪いのですか?」

尋ねてくる緋真に「何でもない」とだけ告げて、白哉は抱きしめる腕に力を込める。

儚い桜の花のように、緋真も儚く散っていくのではないかと不安になった。
そんなことを口にしてしまったら、本当に緋真がいなくなってしまうような気がした。
そう思っただけで、目の前が真っ暗になった。

「緋真………」

白哉は愛しい妻の名を呼ぶと、そっとその唇に口づけをした。


願わくば、この桜のようにお前は儚く散っていかないでくれ…と思いながら。




web clap up 11.04.08



久しぶりの白緋。大人な雰囲気目指しました。









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